奉仕=褒美
すっかり慣れた仕草で己のペニスを含むロビンに、トルステン・ハーマーは笑みながら艶やかなダークブロンドの髪を指に絡ませた。 心地よいその刺激に知らず笑みが深まり、からかうようにそれを引っ張る。 「上手いか?」 含み笑いの判る声音に、ロビンの頬がうっすらと染まる。伏せていたエメラルドの瞳が、ちらりとトルステンを窺ってきた。 彼が愛して止まないエメラルドが今や情欲に潤み、鮮やかに燃えている。 なんと愛らしい色。 新緑が芽吹いた森のように、彼の生気を鮮やかに映すそれ。その色が、今は溢れ出さんばかりの情欲に揺れていた。 喉の奥深くまで銜えたそれに、微かな振動が伝わる。 美味しい、とでも言ったのだろう。 すっかり懐いた子犬は、今では悦んで主人のペニスを銜え込み、迸る精液を欲しがる。 特に今回は、一ヶ月もヴィラに来ることができなかったから、ロビンも相当飢えていたのだろう。 許した途端に目の色が変わった時には、苦笑しか浮かばなかった。 最初の頃は嫌がり拙かった舌技も、今は舌を巻くほどに巧い。 気を抜けば呆気なく達してしまいそうになる自分を叱咤して、トルステンは指に絡んだ髪を引っ張って、ロビンを引き離した。 「……ご……主人、様?」 口の端から涎を流したロビンが、それを拭いもせずに当惑した表情で見上げてくる。床にぺたりと座り込んだ彼の股間では、いきり立ったペニスが所在なげに揺れていた。 そんな頼りなさげな姿は、いつもトルステンの性欲を煽り、すぐにでも彼を押し倒して貫きたくなる。けれど、そう簡単にご褒美を与えてしまうのも、もったいなかった。不安というスパイスを適度に散りばめた遊びは、この子をもっと愛らしく輝かせるのだとトルステンは良く知っていた。 それでも、不安げに揺れるエメラルドの瞳に誘われるように、トルステンは彼に口づけ、ぺろりと唇を舐め、舌を差し入れる。 途端にとろりととろける瞳に、まずったな、と思わないわけではないけれど。 それでも、我慢しきれなくてたっぷりとその唇と舌を堪能してしまった。ここに来る前に他の犬のところで抜いていなかったら、今頃情けなく吐精してしまっていただろう。 本当に、この子には堪らないな。 今まで何匹か犬を飼ってきたが、ここまでトルステンを夢中にさせた犬はいない。子犬から成犬になったというのに、その愛くるしさはますます磨きがかかっている。いや、トルステンの中では、ロビンはいまだに子犬なのだ。構ってやりたくて堪らない子犬。 「は、あ……」 性行為となんら変わらない口づけに、吐精を許させないロビンはもどかしそうに足腰を蠢かせていた。そのペニスの先端からは、たらりと透明な滴が流れ落ちている。 達かせて欲しい、と全身が訴えていた。 だが、そんなに簡単に許してやるつもりは今日は無い。 わざと鼻で嗤って、低い声音で彼を詰る。 「遊ぶのは後だよ。少し仕事が残っていてね、先に済ませたいのだ」 「は……い」 バカな犬ではないから、主人の言葉には必ず従う。けれど、その返答に含まれる戸惑いに、トルステンはわざと苛立った声を上げた。 「おや、たった一ヶ月の間に、主人に逆らうようになったのかな?」 決してそんなことは無いと判っているのに。 一気に血の気が失せたロビンの姿を見たいがために言い放った言葉は、予想を違うことはなかった。 「いいえっ。いいえっ」 ぶるぶると強く頭を左右に振って、全身で否定する。 「申し訳ありません。どうか、ご主人様のなさりたいように。お忙しいのにおじゃましてしまって申し訳ありませんでした」 姿勢を正して深く項垂れるロビンは、うっすらと笑むトルステンには気付いていない。 本当にこの子は……。 この子を買い出してから、めっきり心の中にとどめる言葉が多くなったような気がしていることも思い出して、トルステンは思わず口元を手のひらで覆った。 決して他人には聞かれたくない言葉。 特に、目の前にいるこの愛おしい子犬には。 そんな自分が可笑しくて、つい笑ってしまいたくなる。そんな姿を時折ロビンに見られたこともあるのだが、そんな時彼はいつも嬉しそうに笑う。心の底から嬉しそうに、主人の喜びは自分のモノだというように。 そんなロビンといると、トルステンはいつも外の世知辛さを忘れた。 トルステンの仕事はいつも謀略に満ちている。持てる力と知識を最大限に活用して、彼を追い落とそうとするものを退け、彼の名声を高めるべく仕事をこなしていく。好きで選んだ仕事だから、満足していない訳ではない。ただ、そんな仕事の中でどうやって心から笑えるというのだろう。 だが、ロビンを見ていると本当に愉しくて、自然な笑みが幾らでも沸いてくる。 「判っているよ」 宥めるように手のひらで頭を撫でてやると、嬉しそうにくぅんと鳴いて返してきた。 「待てるね?」 なんだか我慢するこっちの方が辛くて、苦笑する。 「どうか、お仕事をなさってください」 聞き分けの良い言葉に、やはり先に抱きたくて仕方が無くなった。 だが。 「お前の意見も聞きたいから、手伝いなさい」 今日は、どうしても先にしたいことがあったのだ。 主人の言葉に不思議そうに見上げたロビンを机へと誘って、トルステンは鞄からいくつもの書類を取り出した。 「これを見て、お前の考えを聞かせなさい」 途端に、ロビンの顔色が変わった。 驚愕に見開かれた瞳が、書類とトルステンの間を往復する。 「見方は判るね。さあ、あまり時間はやれないよ。良い案が聞けたらご褒美を上げるよ」 何か言いたげに震える唇を指で押さえて、質問を封じる。 書斎の椅子は主人専用で犬に与えられた物ではないが、それすら許してロビンを座らせた。 これはロビンに対するテスト。 「さあ、始めなさい。夕餉には戻ってくるから、それまでに意見をまとめなさい」 まだ戸惑っているロビンを置いて、トルステンは部屋を去った。 ロビンは頭のよい子だ。とてもデリケートでストレスには弱いのが玉に瑕だが、トルステンにとってはそれも可愛く思う要素で、何ら問題はない。 彼の経歴を追って、ヴィラに来なければ、元の職でそれ相応の力を発揮していたことはすでに確認済みだ。 だからきっと、彼はこのテストをクリアする。この一ヶ月やってきたことは決して無駄にはならないとトルステンは踏んでいた。 それを信じているが故に、夕刻まで時間をつぶすつもりでラウンジに向かう足取りは、トルステンが気付かぬうちに明るいものになっていた。
重厚な机は、持ち主がいる限りはその色を見せることが無い。たくさんの書類が重なっているのが通例なのだ。 だが今は。 警察官の制服を来たロビンが度重なる行為に息も絶え絶えになりながら、トルステンを受け入れていた。剥ぎ取られたスラックスは床下に落ちている。靴下だけが残った白い足は高々と掲げられ、根元にエメラルドのリングをつけたペニスが、抽挿の度に滴を飛ばしていた。 その机は、ヴィラ特注品だ。トルステンの腰とロビンのアナルの高さを計算して作られたそれのお陰で、トルステンは難なくロビンを貫ける。アナルがぐちゃりと音を立て、泡立っている白い液が溢れる。もう何度も繰り返された行為の名残だ。 「あ、あぁ、ご主人様ぁ……」 「良い子だ、ほらもっと締めなさい。このくらいでバテたとは言わせないよ。それにちゃんと満足させてくれないといつまでも終わらないし……そろそろ誰かがやってくるよ」 「い、いやあ……」 嬲る言葉に、全身を朱に染めて首を振る。ダークブラウンの髪がパサパサと机を叩き、汗が飛び散った。 深く穿って前立腺を強く嬲ってやっているのに、ロビンは必死になって声を押し殺している。それもまた一興だと、トルステンはさらに強く彼を穿った。 「ひっい、んくぅ……」 「どうして欲しい? ちゃんと言いなさい」 「あ、あ……いきた……もっと、奥まで……ほし……」 「何を言っているのか、聞こえないよ? ほら、もっと大きな声で」 州警察の署長室。 極秘会議も行うからと、この部屋はトルステンが就任する時に改装させた。前例がないなどという声は一蹴した。実家は代々続く財閥の類系で、トルステン自身莫大な財産の所有者だ。その力は政界にも及んで、幾多の代議士が彼には頭を下げる。そんな彼に誰が逆らえるだろう。それに彼は決して無能ではなかった。 だからと言って、正義の味方でもない。 人を飼うことに罪悪感など無い彼にとって、正義などせせら笑うものでしかない。 ただ、推理することが面白く、自分の力に人がはいつくばるのが面白く――。そして、彼を従わせようとする者が許せないだけ。働く必要など全く無い身分だが、退屈もしたくなかったから好きな事をしてみただけ。その知識と洞察力、そして財力にモノを言わせた結果が、今の立場だ。 それでも最近は退屈気味だったのだけど。 可愛すぎて傍らに置いてみた可愛いペットが、正義であることを望むから、最近の彼は至って真面目に仕事をしている。 もちろんペットごときの望みを叶えてやっているのだから、と、彼に奉仕させることをトルステンは一度も躊躇ったことがなかった。 この部屋ですることを嫌がる彼は、調教していた頃を思い出させて、ひどく愉しいのだ。 「ようやく街を支配しようとしてたマフィアをつぶせたんだよ。お前の望んだとおりにね」 その言葉に、彼は逆らえなくなる。 ご主人様、と戦慄く唇を噛みしめて。 言われるがままに、机にその体を投げ出して、両手で尻を割り開き、欲しいと訴える。 その望みを叶えてやるのも、主人の努めだとうそぶいてトルステンは彼を可愛がった。制服姿のロビンは、清廉さが表に出ているが、こんなふうに着崩すと淫猥さが際だって堪らない。 特に今日は忙しすぎて自宅でもなかなか可愛がれなかったから、どうしても濃厚なものになる。 「声を出しなさい」 「あ、……で、も……」 「ここは、どんなに大きな声を出しても聞こえない、と言っているだろう? もう忘れたのかい?」 最高の防音・防弾設備を施したこの部屋は、どんなに騒いでも隣室に声が漏れることは無い。しかも、部屋の鍵は何重にもしっかりとかけられている。まして、鬼の署長がいるこの部屋に、誰が許されもせずに飛び込んでくるというのか。 デリケートなロビンのために、それら全てを教えて行為にふけっているいうのに、それでも彼は羞恥に顔を歪めながら、小さな言葉でしか訴えない。 自宅でする時には、あんなにもはっきりと意志を伝えて甘えて来るというのに。 「だ、だって……ああん、ご主人、さま……どう、か……達かせて……」 それでも限界がきていたロビンは、なんとか声を振り絞るように言葉を出した。 泣き濡れたエメラルドの瞳が、時折快楽に濁りながらもまっすぐにトルステンを見つめる。 普段は隠された全てを証そうとする鋭いまなざしが、今は快楽に潤み、必死になって吐精を請うている。 犯罪者を震わせる正義に満ちた言葉を発する口は、だらしなく歪み、艶やかな嬌声か、か細く弱々しい許しだけを繰り返す。 乱された衣服が白い肌を纏い、扇情的に蠢く。腰を強く打ちつけるたびにその体が跳ねて、机上から床へと書類が舞い降りた。 「おやおや、大事な写真がついていたんだよ。大切な書類をこんなにして」 「ご、ごめんなさい……あ、ひぁっ」 その一瞬、確かに正気に戻った瞳が、強い衝撃に一気に濁る。口を開いた拍子の衝撃に、その嬌声はトルステンが部下に叱責する声よりも大きいほどだ。 「あ、ああっ、ひあ、もうっ、もうっ」 我慢できなくなったのだろう。 声を抑えることも忘れ、机の上で暴れる。それでも、リングで戒められたペニスには決して手を伸ばさない。 ただ、命令された通りに、声だけで訴える。その手はトルステンの腕に必死になって縋り付いていた。 「お、お願いします、……っあぅ……もう、達かせて……達かせてっ!」 絶叫に近い懇願。 さすがにそろそろ限界なのだろう。 張りつめたペニスは、もう何度も透明な滴を吹いている。それでも、ヴィラ特製のリングは、決して彼に逐情を許さない。ロビンのためにしつらえた特別品だ。彼のペニスをもっとも効率的に戒めてくれ、しかも、そのリングはトルステンにしか外せない。 「そうだね。今日はこれで最後だから一緒に行こうか?」 知らず出てしまった優しい声音に、ロビンがふわりと微笑んだ。 「はい、ご主人様……はい」 嬉しそうに、快感に身を震わせながら頷いて、縋り付いてくる。 途端に胸の奥に込み上げる愛おしさに逆らう術を、トルステンは持ち得なかった。 指先で弾ける感触がした瞬間、びくんっとロビンが大きく体を震わせる。 「あ、あっ、あっああっ」 限界まで開いた口が悲鳴にも似た嬌声を上げた。 激しい震えは体内にまで及び、熱く潤んでいた肉壁がトルステンのペニスを強く締め付けた。 「んっ……」 もう何度も味わった快感。 なのに、この瞬間のそれはどんな行為にも勝るものだ。 快感を一つも逃さないとばかりに強く腰を押しつけて、精巣の中全てを出し尽くす。 とろんと混濁した瞳がそんなトルステンを見つめていた。 「良かったかい?」 囁く言葉にも返す気力は無いのだろう。 普段なら、終わったら即行で奥にある仮眠室に逃げ込むというのに、今日はその気力もないようだ。 そんなロビンに、トルステンはそっと口づけて、彼の体を抱き上げた。 ふと時計を見れば、次の会議まで後1時間も無い。 それまでにロビンの意識を取り戻させ、準備をさせなければならないことに気付いて、トルステンは自嘲を浮かべた。 満足しきった子犬を起こすのは忍びない。 けれど、だるい体を庇いながら、それでも必死になって今日の残りの仕事をこなすロビンも見たくなってきた。 こうなると躊躇いなどどこにもなくなる。 「起きなさい、仕事の時間だ」 「ん……あ……」 仮眠室のベッドに横たえながら、非常な宣告をする。 その言葉にてきめんに反応するロビンにキスを落としながら、トルステンは彼の萎えたペニスにリングを嵌め直した。 「今度の休みにはヴィラに遊びに行こう。今度は、お前専用のバイブを作りたいからね」 定期的に媚薬を注入できて、前立腺を適確に抉るロビン専用のサイズの。 それをはめたまま、一晩中放置してみたい。 そのままリングを外すことを許さないままに、仕事につかせてみようか。 「良いだろう?」 「……はい。……はい……ご主人様」 ぼんやりとした返事は、きっとトルステンの言葉を理解していない。ただ促されるがままに、縋るようにトルステンの体にしがみつき、視線を上げて笑いかけてくれる。 デリケートな彼を虐めるのは難しいが、その微妙なさじ加減はトルステンの得意とするところだ。 向けられるロビンの甘えた笑みの可愛らしさに、トルステンの次なる構想は幾らでも広がっていった。 【了】
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