2012年5月1日〜15日
5月1日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 うちのピザ釜はホントに素敵だ。
 見てくれはちょっといびつだけど、ここで焼いたピザはホントにうまいんだ。

 ものの数分で、外側はぱりっ、中はもっちり。とろけたチーズがアツアツで 焼けたトマトやサラミの味も最高! 

 今夜のために、ミハイルとエリックが薪を切る。アルは鼻歌を歌いながら、生地を練っている。フィルはトッピングする野菜を用意。おれとキースは中庭にテーブルを運び出す。
 みんなウキウキしてる。今夜はご主人様が帰ってくるのだ。休日万歳!


5月2日 直人 〔わんごはん〕

 ゴールデンウィークとのことで、ご主人様が帰っています。

 ご主人様のために料理を作るのは、ぼくの至福の時間です。が、たまに、ぼくはわざとさぼります。わがままいって、ご主人様に台所に立ってもらったりします。

 ぼやきつつもご主人様は、その遊びにつきあってくれます。いつももてなされてばかりの人ですから、本当は自分で何かやるのが楽しいのです。

 今日は冷やし中華を作ってもらいました。なかなかお上手でしたよ。


5月3日 ヒロ 〔クリスマス・ブルー〕

 直人もアンドレイもこないと思ったら、日本人旦那たちが帰ってるようだ。日本はGWだったな。

 こっちはもう初夏の暑さだが、日本は新緑と初鰹の季節か。うまい鰹のたたきでも食べたいな。すしでもとるかと思いつつ、帰ってきたら、マキシムがキッチンに立っていた。
 彼はふりかえって微笑んだ。

「サービス。今日は冷奴と味噌汁と卵焼き」

 カツオじゃなかったが、そんなことはどうでもよかった。おれは鼻血が出そうなほど感激した。彼の背中に飛びつき、キスを浴びせながらその服を剥いだ。


5月4日 セイレーン〔わんごはん〕

 春、日本に行った時、ご主人様がお兄さんと言い争いをした。
 
 ご主人様はあまり怒らない人なので、ぼくはおどろいた。お兄さんはクラシックに興味がなくて、ご主人様がぼくの活動を支援するのが気に入らなかったみたい。

 義姉さんが楽譜を渡し、「これ弾いてくれる?」というので、彼女のピアノで演奏した。
 
 勇壮な曲だった。ご主人様のお兄さんがいつのまにか部屋に入って呆然と聞いていた。
 すごく感動したと言った。

 『ドラゴンクエスト』って曲なんだけどね。


5月5日 劉小雲 〔犬・未出〕

 最近はよく中国の家庭料理を思い出して作っています。

 ご主人様は食べないので、昼飯に麺を茹でる時は、自分用には甘味噌とキュウリでジャージャン麺にして、ご主人様にはネギとめんつゆを添えて出します。

 でも、この前久しぶりに風邪をひいて寝込んだら、ご主人様がぼくにジャージャン麺を作ってくれました。ぼくの好物のキュウリの叩き、ピータンも添えて。

 病人食としてはNGだけど、うれしかったな。意外と人のやることちゃんと見てるんだな。


5月6日 キース 〔わんわんクエスト〕

 ご主人様とみんなで公園にピクニックにいきました。
 家のすぐ近くだし、大きな公園でもないのですが、木陰に敷物をしいてポットの紅茶を飲んだり、アルお手製のサンドイッチを食べて愉快に過ごしました。

 皆はしゃいでました。誰が一番たくさんマシュマロを口につっこめるかといったくだらない遊びで盛り上がったり。ロビンが窒息しかけ、機関銃のようにマシュマロを噴出して、みんな爆笑しました。

 笑いながら、さびしくてたまらなかった。今日はご主人様が日本に帰る日なのです。


5月7日 カーク船長 〔未出〕

「おまえ、朝から元気だな」とよく言われる。

 それは当然だ。おれの人生、朝から楽しいことが目白押しだ。朝、ママの作ったジャムを食べて幸せ。鏡を見るとイイ男が映って幸せ。出勤すれば、可愛い子がいっぱい集まっていて無上の幸せ。

 うちの班、可愛い子ばっかり!! しかし、おれのスペシャルはなんといってもカシミールだ。朝から美しい景色! 最近、天使みたいな金髪を刈り込み、ヒゲなんか生やして、いっそう垢抜けた。
 見てるだけで、吼えたいぐらい元気が湧いてくる!


5月8日 カーク船長 〔未出〕

 ついでについ、口説いてしまう。
 最初はうるさがっていたカシミールも、だんだんやさしくなってきていたのだ。

「船長は誰とでもすぐ寝るじゃないか。おれはそういうの、ニガテなんだよ」

「ま。それは生理だからね。心はキミに忠実だよ」

「忠実の意味、知ってる?」

 そういいつつ、きれいな青い目が笑っている。
 もう少し! もう少しだ。

 しかし、ここへきて、強敵が現われた。

「クリスって、すごいよな」

 カシミールの口からしばしばそんな言葉が出るようになったのだ。


5月9日 カーク船長〔未出〕
 
「クリスが好きなのかい?」

 おれが聞くと、彼はうなった。

「おれには手に負えない感じ。あのひとも遊び人だし」

 そう言いつつ、彼の目は恋をしていた。最近のおしゃれもクリスのせいらしい。

 クリスもはじめはラインハルトを追っかけていたが、結局、振られた。このごろは、カシミールとよくいっしょにいる。

 まあいいさ。
 クリスとは長続きするまい。泣かされて帰ってくるのは、おれの胸。それまでは地道にアピールをつづけよう。最後に勝つのは、このおれだもんね。


5月10日 カーク船長 〔未出〕

 残念なことに、その朝は、カシミールの姿がなかった。

「無欠か」

 アキラの声がいきなり低くなる。じろりとクリスを睨んだ。

「うちじゃないよ?」

 クリスが言った。「昨日は」

 昨日はだとう? にくたらしー。おれはすかさず言った。

「起きられないのかも。昨日、ちょっとがんばりすぎた。あまりにも泣き声がかわいくて」

「夢の話はあとにしろ。誰か連絡受けてないか」

 結局、わからずじまいのまま始業となった。
 ところが、その夜、イアンがいきなりおれの部屋にやってきた。

「カシミールはいるか」


5月11日 カーク船長 〔未出〕

 おれは目をしばたいた。カシミールが部屋にいないらしい。
 電話にも出ない。昨日から行方が知れないという。

「ええ。なんで?」

「知るか。そこにいるのかいないのか」

「……いません」

 家捜しこそしなかったが、イアンの目は真剣だった。

「最後に彼を見たのはいつだ?」

 昨日の昼だ。飯を食って帰ってきたら、カシミールが出るとこだった。彼はドムス飼いの犬を訪問するところだった。

 ええ? カシミールがいない? 
 ……クリスのとこじゃ、ないよねえ?


5月12日 カーク船長 〔未出〕

 今朝のミーティングでアキラが言った。

「ヤヌスにカシミールの捜索願いを出した。諸君の誰かが彼を見かけた、もしくは気づいたことがあったら、すぐ知らせてくれ」

 キーレンが聞いた。

「やつは殺されたかもってことかい?」

 アキラは細い目を光らせ、「ただ具合を悪くして倒れているのかもしれない。急に出社拒否の発作が出たのかもしれない。――誘拐かもしれない」

 おれはドキリとした。カシミールは犬にしたいような可愛いやつだ。ここは誘拐の町だ。


5月13日 カーク船長 〔未出〕

 イアンはデクリオン会議で全デクリアに呼びかけたようだ。
 ヤヌスも動いている。おれのとこにも捜査員が来た。カシミールの交友関係について聞かれた。

 おれは逆に聞いた。

「彼はお客さんとこは訪問したの?」

「当日は二件。二件目に挨拶して、やつは消えた」

「え?」

「入って、犬が取り次ぎに入っている間に、消えたんだ」

「なんてお宅?」

「ニコルソン。表向きアメリカのホテル王」

「裏は?」

「マフィア。ハイネマンの携帯もそこで発見された」

「なぜ踏み込まん?」

「調べたが、いなかった」


5月14日 カーク船長 〔未出〕

 おれはいてもたってもいられなくなり、問題のマフィアのニコルソン家を訪ねた。
 だが、夜中だというのなんの反応もない。中に忍びこもうかとうろうろしていると、

「散歩だよ」

 背後から、退屈そうな声が聞こえた。

「ニコルソンは犬と散歩してる。きみはなんだ。空き巣か?」

「いえ。こちらに緊急の用があって。ご主人様は?」

「ヤングだ。このむかいに住んでいる」

 さっき、公園でニコルソンたちを見たという。おれは公園にむかった。でも、ヤングって名前、なんか聞き覚えがあんだよね。


5月15日 カーク船長 〔未出〕

 夜の公園に、人声があった。

「ニコルソン様ですか」

 立ち木のそばで影がうごめく。
 足元には、犬がうずくまっていた。人魚姫のように金髪を長くのばした犬だった。近づくと、犬は恥じ入って、コガネ虫のように丸まった。トイレタイムだったらしい。

 もうひとつ影がいて、犬のそばに屈んだ。

「メリル、大丈夫だよ」

 そのうなじにも首輪が光っていた。

 おれが身分と用件を言うと、リードを持った主人の影はふりむきもせず、

「明日にしてくれないか」


 
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