２０１３年１０月０１日〜１５日

１０月０１日　　キアラン　〔未出・マギステル〕 　ドムス・ロサエ（被虐嗜好のお客様の館）についてご紹介しましょう。 　お客様がドムス・ロサエでの遊びを希望なさった場合。はじめての遊びの時は、まず長いアンケートに答えていただきます。 　プレイの好みもさることながら、心理テスト、持病などの既往歴にもお答えいただきます。 　このアンケートは以前はロサエのレセプションで伺いましたが、いまはドムスの端末からも受けられます。 　ドムス・アウレア（ホテル）の部屋にも端末が置かれ、そこからもエントリーできるようになりました。

１０月０２日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　はじめてのお客様には、ヴィラ側のコーディネーターがマギステルを選びます。（もちろん、その後、ご自分で変更なさることは自由です） 　プレイのご予約は家令へ。家令に伝えるのもはばかられる場合は、端末からも申し込みいただけます。 　当日はロビーでお待ちいただき、マギステルがお迎えにあがります。 　そしてプレイルームに移動するわけですが、実はこの時から面談ははじまっています。 　マギステルは気さくにおしゃべりしながら、お客様の性格や身体特徴などを観察しています。

１０月０３日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　ここで仮にＫというお客様を例にとって、話を進めていきましょう。 　Ｋ様はこうしたプレイははじめて。母国日本でも経験したことがありません。 　この国籍というのは、プロファイリング上、大事な要素です。イギリス人にとって鞭打ちは文化に根ざした嗜好ですが、日本にはそうした文化背景がありません。実際の痛みにひるんでしまう方も多い。 （もちろん、鞭をお好みのお客様もいらっしゃいます） 　ただし、中国には家法といって鞭打ちの習慣がありましたので、受け入れられやすいのです。

１０月０４日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　Ｋ様は大変緊張しています。歩きながらのおしゃべりでは、如才なくつきあっていても、その緊張具合は目や肩のこわばりに現れるものです。 　ついにご自分でも笑ってしまい 「さっきから、足が地につかない。自意識過剰だよね」 　と手で頬を覆いました。 　とても交際力の高い、知的な方だとわかります。こういう客観的な視点を持つ方は、このプレイに適しているといえます。 　マゾヒズムは知的な方でないと、楽しめないのです。だからか、社会的地位の高い方が多いです。

１０月０５日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　 　Ｋ様をご案内したのはオフィス風のプレイルームです。 　プレイルームはお客様のファンタジーのための楽しい舞台セット。種類は豊富です。 　オフィス。娼館。学校の教室。病室。船室。家庭のキッチン。バー。牢獄。牢獄でも地下牢、現代風刑務所、独房、雑居房など。 　もちろん、雑居房の囚人は訓練を受けたスタッフです。見習いのアクトーレスやウエリテス兵などがまじっていることもありますよ。 　ただし、Ｋ様にはオフィスはミスマッチだったようです。少しアクシデントがありました。

１０月０６日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　わたしは自分がプレジデント用のデスクに座り、Ｋ様を前に座らせて、軽く面談の仕上げをしました。 　Ｋ様は先よりビジネスライクな態度をとり、声も若干低くなっています。肩は引き勝ちで、いつでも逃げられるように身構えているのがわかります。 　わたしは彼の前に三種類のベルトを差し出しました。 「これがあなたの首輪です。このタグがついたものは、セックスおことわり。こちらの宝石付きのは、セックスＯＫ。こちらの模様入りは、『犬として扱ってください』というメッセージ」

１０月０７日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　Ｋ様は少しためらい、聞きなおしました。 「セックスＯＫと犬はどうちがう？」 「セックスＯＫはマギステルやほかの客との合同プレイでのセックスです。犬は、町や施設で犬として扱われるほか、ほかの犬にマウントされる恐れがあります」 　Ｋ様の手が首輪の上で少し揺れました。結局、ぐっと唇を結んで、セックスＯＫの首輪を選びました。 「首輪をつけたら、わたしはあなたのＮＯを一切聞きません。よろしいですね」 　彼はうなずきました。わたしは彼に首輪をかけました。 「では、はじめます」

１０月０８日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　わたしはＫ様のスーツの上着を脱がせました。 　ネクタイをはずし、彼の手を後ろ手に縛りました。さらにベルトをはずそうとすると、彼はにわかにあわてました。 「あの」 　ぴたりとひざを閉じて、腰をちぢめます。 　わたしは人差し指をあげて、制しました。彼はこわごわ身を起こしましたが、ベルトをはずし、ズボンのボタンをはずしにかかると、パニックをおこしました。 「ワーッ！」 　叫んで、彼は後ろに飛びのきました。その勢いに椅子がひっくりかえり、彼は後転して、絨毯にころがりました。

１０月０９日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　わたしもあ然としました。お客様に頭を打たせたミスと、思いがけない本気の拒否に戸惑いました。 「すいません。すいません！」 　Ｋ様は部屋の隅まで転がり逃げ、わめいています。 「やっぱり、セックスナシでおねがいします！　さっきのは間違い！　絶対ダメ！」 　プレイ後の注文は一切聞くべきではありません。取引に応じるマギステルは、結局、客に飽きられてしまいます。 「ルール違反です」 　わたしは言いました。 「すみません」 「二度とは聞きません。この後は絶対服従を誓っていただきます」

１０月１０日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　首輪をとりかえると、Ｋ様はホッとされたようでした。 　わたしは勘づきました。この方は調書に経験アリと記されています。 　心理テストでもアナルセックスへの恐怖心はそれほど出ていません。だから油断したのですが、何か彼には守りたいものがあるようです。 　おそらく、貞操。 　彼には恋人がいるのです。彼は遊びたいが、裏切りたくはないのでしょう。 　こういうケースはマギステルとして扱いにくい？　 　いえいえ。わたしはこの手の相手には俄然燃えるタチです。

１０月１１日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　わたしは彼を脱がせるのはやめ、プレイルームから連れ出しました。 「すでにヴィラはごらんになりましたか」 「……少し。広場とか住宅街のほうは」 「では、ちょっと観光をしましょう」 「でも、あの――」 　Ｋ様はドムス・ロサエから出ることをためらわれました。着衣とはいえ、首輪が恥ずかしいようです。 　しかし、セッションがはじまった以上、彼はわたしの犬。わがままは聞かず、まずハーレムに連れていきました。 　ハーレムとは女装嗜好のご主人様のためのサロンです。

１０月１２日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　ハーレムとは女装したお客様が憩う館です。 　スタッフにはＨＭと呼ばれています。口の悪いアクトーレスにはホーンテッドマンションの略といわれています。 　このサロンでは女装したお客様たちがお茶会を楽しんでいます。 　女装好きの方といっても様々。女装してセックスを楽しみたい方もいれば、単純に女性に変身するのが好きという方もいます。 　最高のメーキャップアーティストと衣装がそろっているので、なんの用意がなくとも誰でも美女になれますよ。 　では、Ｋ様に変身していただきましょう。

１０月１３日　キアラン　〔未出・マギステル〕 「ええ？　おれが？」 　Ｋ様は面食らったようです。なかなか衣装が決められません。 　衣装は、カクテルドレスからフランス人形のような古典的なドレス、アラブ風の踊り子の衣装、中国のチーパオなど種類豊富です。 　わたしは彼に日本人に人気のある服を選びました。スカートの短い、女子高校生の制服です。 「……」 　Ｋ様は顔を赤くして笑ってしまいました。それでも、スタイリストに連れられて出てきたＫ様は、ハッとするほど可愛い女子高生になっていましたよ。

１０月１４日　キアラン　〔未出・マギステル〕 　わたしは彼をエスコートし、サロンの、新人に寛容なテーブルに案内しました。 「あら、キアラン」 　フランス革命時のドレスを着た大臣に挨拶し、Ｋ様を紹介しました。 「かわいいこと。日本人？　中国人？」 　Ｋ様は消え入りそうな声で、日本人と答えました。 「あら、この子」 　ダミ声の看護婦がめざとくＫ様の首輪を見て 「男はキライ？　おぼこってこと？」 「キャー、初物ね。誰がいただく？」 「アナタ、女同士のセックスもいいものよ」 　ひとりがＫ様のスカートをまくりあげました。

１０月１５日　キアラン　〔未出・マギステル〕 「ちょっ――」 　あわててＫ様がスカートをおさえます。 「かわいいパンティ！　うさちゃんよ」 「見せて見せて！」 　さすがに、わたしも頼まねばなりませんでした。 「Ｋ様は今日がロセ・デビューなんですよ。どうか、お手柔らかに」 　あら、とおねえさんたちが少し静まります。 「はじめてなの？」 　カーニバルのビキニを着た船長がＫ様に言いました。 「勇気を出してきたのね。えらいわ。ここには欲しいものはすべてあるわよ。恋も快楽も冒険も。代償は勇気だけ。楽しんでちょうだい」

←２０１３年９月後半　　　　　　　　　　目次　　　　　　　　　　２０１３年１０月後半⇒

Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved