2012年12月16日〜31日
12月16日  ルイス 〔ラインハルト〕

 ラインハルトにとってはこれが常態なのだ。

 彼は真実美しい。賞賛も贈り物も彼のまわりに積み重なる。

 ぼんやり見ていると、ラインハルトが言った。

「なんか欲しいのあったら持ってっていいぞ」

「そりゃ、贈ったやつに悪いだろ」

「なんで?」

「え?」

「コレはお礼みたいなもんだよ? おれといっしょにいて楽しかったよってことだろ? じゃ、いいじゃない」

「……もっといたいってことじゃないの?」

 ハハ、と彼は笑った。

「そんな取引に応じる気はないんでね」


12月17日 ルイス 〔ラインハルト〕
 
 ラインハルトを見ていると、世の中に愛されるために生まれてきた人間というのは存在する、と思う。

 お客は皆彼をちやほやする。

「今日はいちだんと綺麗だな」

「セクシー、少しこっちを向いてくれ」

「きみの顔を見て、いい気分になったよ。ありがとう」

 かまって欲しくて、おだてたり、ジョークを言ったり。

 うちのデクリアの連中も皆、彼が好きだ。ひとの好意はあるのが当たり前。それが彼の人生だ。ラインハルトに不幸なことなんてあるんだろうか。

 ――いや、あったな、むかし。


12月18日 ルイス 〔ラインハルト〕

 ウォルフと別れた時期は、たしかに彼の空気にも影が差していた。人は集まっていたが、悪意もあった。犯罪にも巻き込まれ、取り巻きは溶けるように消えて行った。

 ウォルフが戻ってきてからだ。彼の空気がかろやかになったのは。いっそう明るく、綺麗になった。

 あいつといると、何も言わなくてもうれしい気分がするし、楽しいのだ。わがまま言われ、時にわけのわからないことで怒られても、いやじゃない。あけっぴろげで、底意がなくて、かわいいのだ。

 それはたぶん、ウォルフのせいだ。


12月19日 ルイス 〔ラインハルト〕

 寝床でそんなことをつらつら考えつつ、まどろんでいた。

 アキラが帰ってきた気配がした。足音でわかる。また飲んでいる。

 最近ついた主人とのつきあいで、よく飲まされて帰ってくる。

「ルイス? ルイース?」

 うは、また酔っ払ってる。

「ルイス、寝た? 寝ちゃったー? イエース! 寝ちゃったところをいただきだー! ルパン・ザ・サード!」

 身構えた途端、酔っ払いが降ってきた。ぐは。

「アキラ、先に服」

「かわええな。ルイスはん、むっちゃかわええな」

 脱ぎながら襲い掛かってくる。


12月20日 ルイス 〔ラインハルト〕

「おまえ、かわいいなあ。ホントかわいい。ホント好きよ」

 酔っ払いアキラは、口数が多い。キスする間もおしゃべりがとまらない。

「かわいいなあ。おまえなんでこんなにかわいいの? なんでこんな色っぽいの? おまえ、神? エロの神?」

 セックスして、疲れ果てて寝ながらも、まだつぶやいている。

「ルイス、かわいすぎるよ。チクショウ、好きだ。ホント好きだ」

 大好きと首を抱え込んでくる。おれは酔っ払いをいなしつつ、その手を毛布にしまってやりながら、ふと気づいた。

 あ、これだ。


12月21日 ルイス 〔ラインハルト〕

 最近のお誘い続きのわけがわかった。こいつのせいだ。たぶん。

 こいつが寝耳に好きだの、かわいいの、言ってるせいで、おれはシアワセな気分になっていた。最近、ほかほかと気分がよかった。

 たぶん、それで機嫌のいい顔をしていたんだ。それで、まわりのひとが誘いやすかったんだ。

 ステフが金を返したのはどういう吹き回しかわからないが、運の神もニコニコしているやつのところに来るということだろう。
 いいことは続くというものな。


12月22日 ルイス 〔ラインハルト〕

 アキラはよく寝ている。クリスマスシーズンなので、彼はふだんより犬たちの様子に気を張っている。

 ヴィラにいる客も多く、つきあいも忙しい。気絶しているのかと思うほど、深く寝入っている。

 起きたら、朝飯作ってやろう。
 彼の好きな米を炊いて、ミソスープを作って、魚を焼いておいてやる。

 それから、アレをやってやろう。抱きしめて、キスの雨を降らせて、大好きだ、と浴びせてやろう。


12月23日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ランダムはここのところめきめきと歩くのが達者になりました。

 リハビリのドクターはまだ無理させないで、といいますが本人がやめないのです。

 クリスマスだから。

 クリスマスなので、住宅街はどこも飾りつけが綺麗です。夜になるとイルミネーションが華やかで、ランダムはこれがうれしくてたまらないのです。

 夕食後、いつもマフラーを持ってきて、お散歩をねだります。おれたちはそのたびに、彼をマフラーでぐるぐるまきにして、オーバーを着せて、連れ出してやります。


12月24日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 今日はクリスマス! 今年は残念ながらご主人様は遅れるけれど、アルが素晴しいご馳走を用意してくれたから我慢します。 
 ご主人様のおれへのプレゼントも楽しみだしね! 

 さっき、皆でマシュマロで顔面破壊ゲームをやって笑い転げました。頬にできるだけマシュマロを詰め込んだやつの勝ち! 

 ミハイルとエリックがノドを詰めんばかりに競りあってたけど、リスみたいになったフィルがのぞきこむと、ふたりとも機関銃みたいにマシュマロ吹いて敗退。マシュマロと爆笑で顔が痛いです。


12月25日 キャンベル 〔執事・未出〕

 今朝、コスタがツリーの下のプレゼントを開けるのをそっと見ていました。

 中身は園芸好きな彼のために選んだ植物大辞典。いつものように騒ぐのを待っていると、彼は座りこんだまま押し抱いて、固まっています。

 不意にボロボロ泣き出しました。

「コスタ」

 声をかけると、彼はわたしに抱きつきました。

「おれ、なんて幸せなんだろう。神様、おれに、どうして……」

「二階のサンタにもそう言ってやりなさい」

 彼はわたしの頬にキスして、二階へ駆けていきました。クリスマスはいいですね。


12月26日 フィル 〔調教ゲーム〕

 今日はエリックがおでんを作っています。ランダムもいっしょです。

「とってもカンタンおでんおでん♪ 仲良し家族はおでんおでん♪」

 エリックのでたらめな鼻歌に、ランダムが隣でノっています。アルが闖入して、

「そのむかし、カツオを放り込んだバカもいた♪」

 と続きます。
 あいつらホントにご機嫌で楽しそうです。

 しかし、いつのまに家族になったんだろう。


12月27日 ミハイル 〔調教ゲーム〕

 昨日の晩、ロビンがギターで面白い歌を歌ってくれました。

「原曲はエリックな」

 彼は少し哀切な伴奏に合わせて口笛のようにやさしく歌いました。

『とってもカンタンおでんおでん♪ 
なかよし家族はおでんおでん♪ 

昆布としょうゆとみりんマジック。むかし、生魚入れたバカもいた。ああ、バカもいた♪ 

なかよし家族はおでんおでん。あつあつチクワにかぶりつく。

 さびしい冬空、曇り空。笑顔のとなりにまた笑顔。

とってもカンタンおでんおでん♪ なかよし家族はおでんおでん♪』


12月28日 ヒロ 〔クリスマス・ブルー〕

 ヒロがしょげている。あんまり顔には出さないが、空気がしぼんでいる。

 仲のよかったナオトが日本に帰ってしまったからだ。

 ナオトは料理人だ。もう一度、料理の勉強をするために帰国を決意した。彼はすばらしい料理を作るが、満足していなかった。プロにしかわからない世界だ。

「日本人はそうなんだよ」

 ヒロは言葉すくなに、彼の決意を肯定した。
 おれは聞いた。

「きみも帰りたいか」

 ヒロは首を横に振った。

「おれは道を究める必要はないよ。凡人だもん。……ただ、来年のおせちがね」


12月29日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 レオが来た。

 ひさびさに笑った感じがする。彼はいつも底抜けに陽気だ。キラキラ光る目をして、バカな冗談ばかり言っている。

 すぐ歌う。家のなかが急にドタバタとうるさくなる。

 今日は仕事に出たが、一日なんだか気分がさわやかだった。よく遊んだ感じだ。

 しばらくこんな気分は忘れていた。毎年、忙しい時期にきやがって、と面倒くさく思っていたが、やつがいるとやっぱり楽しい。いっしょに飯を食うと心があたたまる。

 ひとりで暮らしていて笑うことなんてないものな。


12月30日 劉小雲 〔犬・未出〕

「年末の買い物行こうぜー!」

 ご主人様は帰るなり元気です。少し前に、今年は何も用意するなと言っていました。

「今年は何かあるんですか」

「別に」

「なんだ。期待してたのに」

「じゃ、獅子舞でも踊る?」

 浮かれています。マーケットでも、やたらじゃれて手をつなごうとします。カニやかまぼこを買う間も楽しそうでした。

「いっしょに年越しの支度したかったんだ。仕事中から、これが終わったら、おまえといっしょにあれして、これして……」

 仕事、大変だったようです。手はつないであげました。


12月31日 ライアン 〔犬・未出〕

 今日はタクが粉だらけになってパスタをこねていた。茶色いパスタだ。

「ソバ、アレルギーある?」

「知らん」

「これ、31日の夜中に食べるのが日本の風習なんだ」

 タクは言わなかったが、おれといっしょに食べたいようだった。

「タクの作るものなら、なんでも喰うよ」

「いや、アレルギーあると危険だから」

「じゃ、検査してくる」

 タクは小さく笑った。

「ありがとう」

 うれしそうで可愛い。なんだかんだ言って、この可愛いありがとう、のためにホイホイ動いてしまう。


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