2014年9月1日〜15日 |
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9月1日 ロビン〔調教ゲーム〕 そこにあったのは、ホラーハウスだ。 「ええと」 エリックは言った。 「おれは残るよ。ランダム見てないと」 しかし、学生テンションのおれたちはもうとまらない。 「ランダムも行く」 「武士に臆病は許されぬ!」 「その剣は飾りか」 四人ずつ分かれて入ることになった。 エリックとミハイルとおれとランダムが先行。 エリックはランダムの手をつかみ、片手でおれの手をつかんだ。 「絶対、おれの手を放すなよ」 「わかったから、進もうよ」 「そんなに早く行くな!」 入ると、暗い。低い単調な詠唱が聞こえた。 |
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8月2日 ロビン〔調教ゲーム〕 「オーマイガー」 ミハイルがつぶやいた。 暗い中に柳が不気味に垂れ、石碑が転がっている。不気味な詠唱が響きわたり、空気が重い。 「エリック」 ミハイルの声が尖る。 「おれを押し出すな」 「早く通り過ぎろよ」 「先行けよ」 「おれはランダムを」 その時、白いキモノを着た怪人が叫びながら飛び出してきた。 おれは絶叫した。ランダムが駆け去りそうになる。エリックは彼に抱きつき、わめいた。 全員、叫びわめいた。 「オーマイガー! オーマイガー! オーマイガー!」 |
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9月3日 ロビン〔調教ゲーム〕 おれは風呂に手足を伸ばし、夜空を見上げた。 ホテルの部屋には、それぞれ日本庭園がつき、露天風呂がついていた。おれが風呂を使っている間、キースは買ったおみやげを並べていた。 「オバケヤシキ、むちゃくちゃ面白かったな」 おれたちは思い出して笑った。キースの班はアクシデントがあった。 さんざんギャーギャー言って出てきた時、フィルが告白した。 「靴が片方なくなった」 貸衣装だ。また戻らなければならなかった。 「あいつ、ケイにとってきてって頼むんだ。あのフィルがだぜ」 |
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9月4日 ロビン〔調教ゲーム〕 ケイは反発したようだ。 「でも、フィルは日本の幽霊だからおまえ行けって。ケイは、ネイティブのほうが怖いの!って。結局、みんなで戻ったけど」 おれは変な感じがした。 「めずらしいな。フィルが」 「だって、怖すぎるよ。ただでさえ暗くて腰がひけてるとこに、血みどろの人間が襲い掛かってきて、逃げたらそこにも死体が倒れてて」 キースは思い出して身震いした。 「怖すぎる。でも、また行きたい」 ちょっと気になったが、おれは言わなかった。 「また行きたいね。いっそずっとウズマサでもいいや」 |
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9月5日 ロビン〔調教ゲーム〕 翌日は、王道の観光名所を見て回った。 金閣寺や銀閣寺、清水寺といった有名所だ。どこも観光客でいっぱいで、さらに蒸し暑かった。 アルとミハイルはやたらと立ち止まり、心奪われていたが、残りの面々は一目見て「ワオ」だけで終わった。 おれたちはゆだりすぎていた。見学の後のモチと小豆の乗ったカキ氷のほうが感動的だった。 しかし、そんな鈍感なおれでも伏見稲荷の赤いトリイの通路には圧倒されたし、嵯峨野の竹林には神秘を感じた。 フィルは言った。 「これ忍者ゲームの風景だ」 |
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9月6日 ロビン〔調教ゲーム〕 「ゲーム?」 おれはケイに説明した。主人たちがプレイヤーとなって冒険し、敵を倒して新しい犬を獲得するのだと。 「おれたちもアシストで出たりするんだ」 「へえ」 「ゲーム自体は最高に楽しいんだ。ご主人様と迷路をさまよったり、剣で戦ったり。アルは敵のボスだったんだぜ」 つい昔話に花が咲いた。海賊になって宝島を冒険したことや、フィルの狡猾なニンジャぶりを聞かせる。ケイはうらやましそうに聞いた。 「おれもやりたいわ」 無理、とフィルが言った。 |
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8月7日 ロビン〔調教ゲーム〕 「きみは会員身分だから、別のプレイヤーとしての参加になるね」 さらに言った。 「それにトップ用のゲームとボトム用のゲームはまた種類が違うんだ。でも、ドムス・ロセでは毎週似たようなゲームがあるんじゃない?」 おれはドキリとしてフィルを見た。フィルは平然としている。ケイはあきらかにあわてて、携帯電話で何かを調べるふりをした。 エリックは陽気に言った。 「別の会員がいっしょにチームを組めるゲームもある。海賊の時はそうだ。そのうちやろうぜ」 |
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9月8日 ロビン〔調教ゲーム〕 川に張り出した涼しいテラスでのディナーの後、おれたちは買い物に繰り出した。 ケイはみんなのまわりをまわって、店員に通訳したり、ランダムの相手をしていた。彼の右手に荷物の袋があった。 「何買ったの?」 「これ? フィルのだよ」 おれはいやな気がした。 「なんでフィルはきみに荷物を持たせてるんだ?」 「いや、ただ番をしているだけだよ。危ないから」 おれはフィルを探した。フィルは京扇の店にいた。 「フィル。ちょっと」 |
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9月9日 ロビン〔調教ゲーム〕 フィルは香木でつくった扇をひろげていた。 「どうかした?」 「自分の荷物ぐらい自分で持ったらどうだ?」 彼はおれを見た。 「ちょっと買い物する間、預けただけだ」 「あいつが嫌いなのか?」 「え?」 彼は吹いた。 「彼は買い物をしないっていうから、預けたんだ。問題あるか」 「あいつはみんなの通訳に走り回ってるじゃないか」 「そういやそうだね」 「ねえ、フィル」 おれは言った。 「あいつに冷たくするなよ。あいつはよくしてくれてるだろ」 フィルは少しおどろいたように見た。 |
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8月10日 ロビン〔調教ゲーム〕 「ぼくは冷たいか?」 「ああ、昨日からなんか変だ」 「まったく覚えがない」 「――」 「気のせいだよ」 おれは彼を見つめた。彼はふだんどおりの顔だ。 だが、こいつは明日宇宙戦争になると知ってても、ふだんどおりの顔ができる男だ。 「わかった。おれの気のせいだよ。忘れてくれ。楽しい旅行にしようぜ」 おれはキースのところに戻った。キースはトウガラシを選んでいた。 ケイが店のひとの説明を通訳している。その手には律儀にお土産の紙バッグがあり、なんともいえない気持ちになった。 |
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9月11日 ロビン〔調教ゲーム〕 翌日は大阪に移動。大阪も東京のようにビルが林立し、人間が多い。猥雑でにぎやかだ。 そして、うまいものがいっぱいある! おれたちはすっかり串カツのファンになってしまった。 「この甘いタレ。サクサク。肉がジューシー」 「タマネギがうめえ!」 「油ものだぞ。喰いすぎるなよ」 ケイは言ったが、皆聞いてはいない。ランダムも自分でせっせとソースに串をつっこんで食べている。 「皆さん。大阪にはうまいものがたくさんあってですね。ここでハラいっぱいにすると――」 「オジサン、レシピ」 |
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8月12日 ロビン〔調教ゲーム〕 おれたちは水陸両用バスで水路をめぐり、大阪の町を見た。 だが、おれたちの話題は串カツから離れない。 「レシピ、気前よく教えてくれるんだな」 エリックが不思議がった。 「お客が減ると思わないのか」 ケイは笑った。 「家庭でひろまったって、店に客が来ないことはない。ホンモノを食べたくなるし、親切で心の広い店ならみんな好きになるからファンがつく。ファンのいる店は絶対につぶれないよ。現に繁盛してたろ」 フィルが言った。 「でも、レシピを秘匿したらKFCになれたかもしれない」 |
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8月13日 ロビン〔調教ゲーム〕 「たとえ、ただの小麦と水の配分でも秘密なら、神秘を感じて客が集まる」 フィルは言った。 「そこでしか食べられない味となれば、世界展開もあったかもしれない」 「そうかもね」 ケイは笑った。 「特許で権利を囲いたがる欧米の考え方だ」 「日本はちがうのか」 「日本は欧米にあわせてるけど、東洋は一般に特許の観念が薄いよ。特許料でラクして喰うって文化じゃなかったから。そういうのはトクに反する」 「トク?」 「善? 善行というか、世を助けるひとのことをトクのある人というね」 |
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9月14日 ロビン〔調教ゲーム〕 フィルはわらった。 「特許料の考え方は悪なのか? 発明者の権利を守ることが」 おれはそろそろまずいと思った。空気に砂がまじりはじめている。 「ビジネスはビジネスだ。善行についていうなら、われわれには十分の一税という習慣がある。ビリオネアは多額の寄付をするよ」 「でも、最下層の労働者は社会保険にも事欠くビジネスだけどな」 ケイもひかない。 「発明者がレシピを公開すれば、競争相手がのしあがる危険もある。だが、また相手からレシピをもらえるとしたら、その産業全般が伸びる」 |
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9月15日 ロビン〔調教ゲーム〕 フィルがいう。 「相手は怠ける。ひとのコピーに終始して儲けるだろう」 「だが、そういうやつは一流とは呼ばれない」 「宣伝しだい。客にはわからない」 「わからなくてもうまいなら、トクのあるオーナーはそれをよしとするだろ。多くの客が幸せになるんだから」 「開発費をかけない分、ライバル店のほうが、利益を得るのにか」 「じゃあ、きみは三流でありつづけたいのか」 「!」 さすがにエリックが入った。 「あのおやじはKFCになりたがっちゃいないよ。KFCも串カツ屋になりたくないし、放っておけ」 |
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