2016年 1月1日〜15日
1月1日  ロビン〔調教ゲーム〕

 おれたちは護民官府に向かった。

「夕飯はバーベキューだってさ」

 アルは夕飯の支度をするといって、ランダムと残った。

 おれたちはもうお祝い気分で、護民官オフィスに入った。ジェリーがニヤリと笑って待ち受ける。

「聞かせてもらおうじゃないか。ワン公先生」

「そっちは?」

 フィルが聞く。

「デクリオンはわかったんですか」

「ああ、メールをコピーしてあるよ。ここにある。そっちが先に話しな」

 フィルは軽く会釈した。

「では、謹んで」

 さあ、ご主人様、犯人が誰かわかりましたか?


1月2日 ロビン〔調教ゲーム〕

「簡単に言えば、これは不幸な事故でした」

 フィルははじめた。

「ある男が復讐をたくらんだ。それは単純にアマデオを落とし穴に落とし、笑ってやるだけの単純なイタズラだった。

その男はアマデオに恋人との逢瀬を邪魔され、腹をたてていた。単なる腹いせだった。

そこで彼、ロベルトはアマデオを呼び出すために手紙を書いた。拳でペンを支えても字はかけますからね。呼び出し、落とし穴を踏ませ、それでイタズラは完了するはずだった」


1月3日  ロビン〔調教ゲーム〕

 フィルは続けた。

「被害者は落ちて痛い思いをするはずですが、目がさめれば叫ぶなり、何かを使って這い出てくると思ったんでしょう。ところが、被害者は打ち所が悪く倒れたままだった。そして、翌日、家に火がついた」

「――」

「誰が火をつけたか。ロベルトはつけられない。彼の手でライターを使うのは無理です。ガンビーノは観劇。恋人のリアンは万が一、この計画の共謀だったとしても、カメラに見張られている。では、誰が?」

 フィルは天井に指を指した。

「太陽です」

1月4日 ロビン〔調教ゲーム〕

 おれたちは眉をひそめつつ、聞いた。

「あの家は放置され、最近までいたずら小僧の遊び場だった。近所のタイ人が苦情を申し立ててハスターティの見回りを要請するほどです。椅子にしみた灯油はキャンプごっこのものでしょう。

そこに犬のボウルを持ち込んだやつがいた。JJです。彼はサドっぽい男にひかれる癖があり、巡回にきた強そうなハスターティ兵と浮気しはじめた。たぶん、アニマルプレイをやって、アルミボウルを家から持ち出していたんです」


1月5日 ロビン〔調教ゲーム〕

 ジェリーはしげみのような眉の下からじっとフィルを見ていた。フィルは続けた。

「JJは浮気現場でご主人様からもらったお守りを落とすというミスをやった。その顛末は、この前聞いたとおりです。

JJはお守りを探している時、声をかけられて、何かに蹴つまづいてひっくり返った。たぶん、ボウルです。

それがおそらくどこかに乗り上げて傾き、西日を受けた。夕方の太陽は弱いですが、焦点になれば火はつきます。

このボウルはのちに放水で地下に落ちた。つまり、放火の犯人はいないんです」


1月6日 ロビン〔調教ゲーム〕

 ジェリーはニヤリと笑った。

「面白かった。限られた情報でうまいことたどり着いたもんだ」

 微妙なニュアンスに気づき、フィルがジェリーを見つめた。

「これが真相ではない?」

「ほとんどの部分は、親分と一致してるよ。犯人だけ違う」

「ロベルトのイタズラじゃないんですか」

「イタズラだが、ロベルトじゃなかった」

 ジェリーは言った。

「うちの親分からのメールで容疑者に今朝、聞きただした。犯人はもう自白したよ」

「誰なんです」

「インゴ・エッカート。リアンのアクトーレスだ」


1月7日  ロビン〔調教ゲーム〕

 帰りのバスの中で、フィルは憮然と黙っていた。エリックでさえからかわない。
 犯人を明かした時、ジェリーは慰めを言った。

「情報を全部開示したつもりがフェアじゃなかった。おれも気づかなかったんだ。おまえさんが間抜けということにはならんよ」

 フィルは唐突に言った。

「とんでもないミスだ。ぼくが警察なら冤罪事件だ」

 仕方ないよ、とキースが言った。

「知らなかったじゃないか。アクトーレスがリアンを恨んでたなんて」

「ぼくは猫のことを無視した。リアンが猫嫌いだと聞いていたのに」


1月8日 ロビン〔調教ゲーム〕

 真相はイタズラと事故だった。
 アクトーレスのインゴは、調教中にリアンに金玉を潰され、腹をたてていた。彼のネコ嫌いを知って、計画を思いついた。
 落とし穴に落とし、ネコを放り込んでやろうとしたのだ。

 そして、いかにも恋人から出したようにブルーデージーの花を添えて、手紙を送りつけた。

 ところが、リアンの旦那のアマデオは、勝手に犬あての封筒を開けた。ブルーデージーを見て、また間男が呼び出しやがったと勘違いした。彼はとっちめてやろうと出かけ、穴に嵌ったというわけだ。


1月9日 ロビン〔調教ゲーム〕

 護民官府のフォン・アンワースがアクトーレスの仕業だと気づいたのは、ネコに着目したからだ。

 彼はそのアクトーレスが数日前、バレリアンというハーブを持っていることを知っていた。バレリアンにはネコを引き寄せる作用がある。アクトーレスはこれでネコをさらい、エレベーターの穴から放りこんで、リアンを待っていた。

 リアンがおびえる様を見て笑おうとしていたのに、旦那のほうがやってきて穴にはまり、仰天したとのことだ。


1月10日 ロビン〔調教ゲーム〕

 家ではアルが庭にバーベキューの用意をして待っていた。

「まあ、いいじゃないの。エリックの疑いは晴れたんだ!」

 アルは笑って肉の皿を出した。

「さあ、とっとと焼くんだ。野郎ども!」

「そうだ。肉だ」キースも応じた。

 ランダムがサラダを抱えて出てくる。

 ミハイルが言った。「ケイ。飲み物がない」

「え」

 ジュースのピッチャーは出ている。

「違う、祝いのための飲み物だ」

 おれも言った。「最初の字はBだ。ブルーベリージュースじゃないぞ」

 エリックもいった。「フィルを元気づけたいだろ!」


1月11日 ロビン〔調教ゲーム〕

 客身分の仲間がいるのはいいもんだ。

 おれたちは熱い肉にかぶりつき、うまいビールに咽喉を鳴らした。冴えなかった気分もしだいに陽気になってきた。

「フィル、自信満々だったよな」

 エリックがギャハハと笑う。

「フォン・アンワースの先生になってやるって言ってなかったか」

 ケイがあきれる。

「おまえ、よくそれ言えるな」

「言える言える。あいつはたまにとっちめられたほうがいいんだ。自分が世界一賢いって誤解を解いてやらなきゃ」

 キースも悪霊とか、と皆が思い出して笑い出した。


1月12日 ロビン〔調教ゲーム〕

 翌日、ケイはアフリカから帰った。

「次は単純に遊びに来い」

「休暇もらえよ」

「ご主人様によろしく」

 おれたちは家の前の地下道まで彼を送った。

 エリックは今朝は無口だ。こいつは結局、最後まであやまらなかったし、礼も言わなかった。
 だが、おだやかな目で、リムジンに乗り込むケイを見送った。

 ケイが去り、また日常がもどった。

「解決してよかった」

 キースが言うと、フィルは否定した。

「よくない。次の事件が必要だ。次は絶対、フォン・アンワースに勝つ」


1月13日 ロビン〔調教ゲーム〕

 フォン・アンワースのメール。
『ルシエンテス殺害未遂事件について。

・容疑者全員のアリバイが確実である場合、時限発火装置の可能性

・その痕跡がなければ自然発火も考慮にいれよ

・花粉、ロベルトの犯行か?

・但し、手の状況から、時限装置等の作成は不可。

・ロベルトでない場合、メッセージは偽装

・ロベルトの花の情報を持つ者の犯行・現場のネコ

・ネコ嫌いのリアン・ターゲットはリアンの可能性

・リアンに動機を持ち、ニーノにバレリアンを与えた事実から、インゴ・エッカートの容疑が濃厚』


1月14日  劉小雲〔犬・未出〕

 今年の正月はあいつが帰ってきませんでした。
 仕事です。かなり前から言い渡されていたので、ぼくも責めませんでした。

 でも、毎年恒例のイベントがないと変な感じです。
 あいつといっしょにソバ食べて、お雑煮作って、お節食べて。

 ゲームして動かないあいつのまわりで掃除したり、最終日に泣きそうになって年賀状書いている隣で、荷物まとめたり。

 それらがなくて、淡々と日常が続くと、やっぱり調子くるいます。
 もう正月のある一年に慣れちゃったんだなあ。


1月15日 アキラ〔ラインハルト〕

 休暇のシーズン到来。
 今年はルイスと行き先でちょっと揉めた。

 おれがベガスに行きたいと言ったら、めずらしくやつは頑なに拒否した。

「どんなに買い物しても一度に貧乏にはならない。でもあそこじゃひと晩で乞食になるんだ」

「……」

 そんなに賭けるつもりはない。ただドラマを見て、どんな浮かれた町なのか見物したかっただけなんだが。
 やつはついに、

「じゃ、ひとりで行ってくれ」

 とまで言った。
 おれは少し不満だったが、あきらめた。

「猿の温泉にしよう」

 ひとりでスロットして面白いわけない。


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