夜の町は幻想的だった。
 どの家もクリスマスライトが光り輝き、暗闇のなかにお祝いのうれしさが浮き上がっているように見えた。

 だが、申し訳程度の飾りしかつけていない家もある。そんな家を訪ねると、犬はたいてい顔色が悪かった。

「アクトーレスだ。出て来い」

 痩せたサンタ――キーレンは呼び出す時に愛想をふりまいたりしない。せわしく呼び鈴を鳴らし、警察のように容赦なく命令する。

「早く門の外まで出るんだ! 早くしろ。上着なんか着なくていい」

 犬が怪訝そうに出てくると、わっとおれたちが抱きつく。

「メリー・クリスマース!」

「ホッホッホッホーッ!」

 赤い塊に囲まれ、犬はぎょっとして飛びのきかける。が、すぐに事態を理解して、笑いつつハグを返してくる。
 大柄なサンタ ――船長は彼の頭をなでてやり、

「ホッホッホ、よい子じゃな。でも離しておくれ。おまえにプレゼントを渡さなければならんからな」

「メリークリスマス、ジョナサン」

 キーレンがリボンの結ばれたプレゼントの袋を渡す。そして、おれが手製のカードを渡す。
 プレゼントを手にして犬は少し目を瞬かせる。ありがとう、と小さな声で言う。

「よいクリスマスをな」

 おれたちはまた皆で彼をハグして去る。船長は見送る犬に声をかけた。

「パーティーに出なさい。皆来てるぞ」







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