最後のひとつを無事手渡し、おれたちは廊下に出た。
 病室を離れると、ふたりがくずれるようにへたりこんだ。

 おれもさすがにどこかに座りたくなった。廊下に椅子はなく、つきあたりはガラスで仕切られていた。

「ちょうどいいわ。諸君とはここでお別れしよう」

 船長が、よいクリスマスをな、といって、ガラス扉のほうへ向かった。
 ガラスの仕切りは二重になっている。むこうは隔離病棟らしい。

「おいおいおいおい」

 キーレンがあわて、

「カシミールのとこに行く気か。うつるぞ」

「大丈夫。おれ風邪ひいたことないのよ」

 よせって、とキーレンがその袖をつかむ。だが、船長はホホと笑って、

「アクトーレスにもクリスマスが必要なんじゃよ」

 大きな肩がガラス扉の向こうに消えていった。

「アホが」

 キーレンは鼻息をつき、おれたちを見た。

「ご苦労さん。これでおわりだ。そいつを脱いで、地下でリムジンつかまえて帰れ」
 



 キーレンが衣装を抱えて去った後、おれたちは少し放心していた。
 重いオーバーを脱いで、へたりこんでいた。汗が湯気になって出て行くのがわかる。口をきくのもおっくうだ。

 だが、去りがたい。泥のように困憊しているのに、まだ走りたい。ベルを鳴らし、にぎやかにプレゼントを渡してまわりたい。

 ふりかえると、劉小雲が廊下の一点を見ていた。
 キーレンだ。エレベーターホールにむかって、ひとり歩いていく。三人分の衣装を脇に抱え、その肩は疲れ果てていた。

 劉小雲は立ちあがり、走り出した。おれも駆け出した。なにも考えずそうしていた。

「キーレン!」

 劉小雲が彼に飛びかかった。

「メリー・クリスマス!」

 キーレンが、ぬお、っとよろけかかる。続いておれがダイブ。

「キーレン、よいクリスマスを!」

 ほかの足音もバタバタ駆けつけた。

「メリー・クリスマス! 今日はありがとう!」

「キーレン! 幸せなクリスマスを!」

 キーレンはわかったよ、とわめいた。

「はいはいメリークリスマス! もう帰れ。疲れてんだから」

 邪険に引き剥がして、エレベーターに乗り込んでいった。だが、扉がしまる瞬間、ほんのわずか、彼は少しおどけたように小さく微笑んだ。



                     ―― 了 ――









←第10話へ           2012.12.24


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