最後に向かったのはポルタ・アルブス(病院)だった。
 すでに日付が変わってしまっている。外では花火が鳴り続けていた。もうクリスマスだ。

「あと七つだ」

 おれたちは声をふりしぼって、病床の犬をたずねた。
 廊下を駆け回っている時だった。

「おい、アンディ!」

 ついふりかえってしまった。
 背の高い金髪の犬がいた。

(あ)

 いやなやつだ。いつもおれをいじめているフィンランドの犬だった。

「何やってんだ。その格好」

「あ――その、臨時で」

「サンタのマネか? 歓声が恋しくて、着ぐるみに転身か」

 こいつはからむと長い。おれは行こうとしたが、オーバーをつかまれた。

「待てよ」

 やつは紙袋を出した。

「ついでだ。くそサンタ野郎。こいつを、あそこの奥の部屋にいる死にぞこないに届けて来い」

 おれは袋を見て、彼を見た。どうみてもクリスマス・プレゼントだ。

「自分で渡しゃあいいんじゃないの?」

「おれは忙しいんだ。パーティーに行くんだよ」

「すぐそこじゃない」

「いいから行ってこい」

 紙袋を押しつけられる。しぶしぶ受け取りかけた時、劉小雲がおれの前に出た。

「業務に割り込ませたいのなら、事情を話してほしいな。ぼくたち担当が決まっているんだ」

 フィンランド野郎はうんざりと、

「ただそこまで行ってくりゃいいんだよ。じじいはスパゲッティ状態だ。ぽいって投げてくりゃいい」

 劉小雲はじっと彼を見た。
 フィンランド野郎の薄青い目がいまいましげに泳ぐ。

「めんどくせえ。もういい。ほかに頼む」

「サンタ協会の仲間と相談するので少々お待ちを」

 彼はおれを引っ張り、仲間のところへ行った。ダニーとクォンと短い相談をして、彼のところに戻った。

「プレゼントを渡してやるよ」

 犬がほっと笑った途端、うしろから白い袋が覆いかぶさった。

「!」

 おれたちはわっと犬を袋のなかに包み込み、全員でかつぎあげた。

「おい! 出せ。おい!」

「ホッホッホ、ホーッホッホ。メリークリスマース!」

 奥の病室に入る。酸素チューブにつながれた初老の男が、目を丸くした。

「クリスマス、おめでとう!」

「そして、かわいいプレゼント!」

 もがく袋を置いて、おれたちは笑いながら出て行った。


 





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