La Freccia di Apollo  第2話


 メイン料理を待つ間、前菜とともにキャンティを味わった。軽い口当たりの赤ワインが、心地よく渇きと疲れを癒してくれた。前菜の盛り合わせを食べ終わる頃に、支配人が満面の笑みをたたえて近寄ってきた。

「ご用意ができました。お席に運んでもよろしゅうございますか」

 わたしがうなずくと、支配人は厨房に向かって手をあげて合図した。

 奥の厨房の扉が開き、メイン料理の皿――ミハイルが運ばれてきた。
 ミハイルの四肢は枷で身動きができないようにワゴンに縛り付けられていた。
 ワゴンの側面に取り付けられた黒板に、チョークで美しく料理の説明が記されていた。
 「本日のシェフのお薦め料理――鴨フィレ肉のソテー〜特製オレンジソースでお召し上がり下さい。限定12皿まで」。

 ワゴンには12本の細長い赤いキャンドルが立てられていた。11本はワゴンの脇に、1本はミハイルが口にくわえさせられている。先端には豆電球が点って、本物の火のような炎を揺らしていた。根元はコルク製で催淫剤が仕込まれている。先ほど支配人に渡した箱の中身である。ミハイルがくわえたキャンドルは、料理を食べ終えた客に記念にプレゼントするように伝えてある。キャンドルの数だけ料理を提供する仕組みだった。

 ミハイルのワゴンは、どよめきを起こしながらテーブルの間を移動している。

「うまそうだな。見ろよ。ペニスが茹で上がってはち切れそうだぜ」

「見られて感じているんだろう。マゾ犬め」

「特製ソースはペニスから出すのか?」

 ミハイルは羞恥で顔を真っ赤にしていた。催淫剤のせいでペニスは今にも爆発しそうなほどだったが、コックリングできつく縛められている。彼はキャンドルを噛みしめ、きつく目を閉じて屈辱に耐えていた。震える睫毛の先から涙が流れ落ちた。


 ワゴンがわたしの前に届くと、ミハイルは眼を開いた。キャンドルの明かりを受けたピンクの瞳が、じっとわたしを見つめた。わたしが見つめ返すと、まもなくミハイルは視線をそらしてまっすぐに天井を見上げた。

 わたしは料理を眺めた。ミハイルの白い腹部に桃色の鴨肉の切り身が並べられていた。へその窪みにシェフご自慢のオレンジソースが溜まっている。両胸の乳首の周りにはオレンジの輪切りが飾られ、その上にミントの葉に載ったホースラディッシュのペーストが添えられていた。好みでオレンジソースに加えるとぴりりとして上手い。そそり立つペニスの根元には、フォアグラのパテが盛られている。ペニスの先端にはオリーブほどの大きさの陶器の鴨が飾られていた。尿道に指した楊枝の先についているようだった。

 わたしはシェフの腕前に満足して、フォークとナイフを手に取った。腹の上の鴨肉をフォークで刺し、へそからナイフでオレンジソースをすくい上げると、ミハイルの身体がぴくりと動いた。

「フッ」

 ホースラディッシュを取ろうとしたとき、ナイフの先が乳首をかすめた。冷たい金属の感触にミハイルはびくりと身じろぎをした。
 ソースがこぼれる、とわたしはミハイルをしかり、ナイフに取ったホースラディッシュを乳首に塗り込めてやった。

「ヒッ、イッ、ウア――ッ、ク」

 まだ直りきらないピアスの傷に染みたにちがいない。ミハイルは悲鳴をあげて一瞬身体を浮かせたが、胸を波打たせながら痛みをやり過ごそうとしている。わたしは鴨肉を口に運び、絶妙な味わいに顔をほころばせた。
 ペニスの根元からパテを削り取ると、ペニスがびくびくと動き、先端の陶器の鴨が動いて翼をはためかせているように見えた。

「ウッ、ウッ、」

 天井を見つめるミハイルの両眼から涙があふれていた。わたしは美しいミハイルの泣き顔を鑑賞しながら、じっくり料理を堪能した。

 わたしが食べ終える頃には、給仕の元に鴨料理の注文が殺到していた。キャンドルを口から外してやると、ミハイルはほっと息をついて、わたしに初めて顔を向けた。

「どうして、どうしてあなたはぼくを、」

 そのとき給仕が近寄ってきて、ミハイルの言葉は途切れた。待ち受ける客たちに奉仕するために、ミハイルのワゴンは速やかに厨房に下げられていった。



 最初の客は、先日ミハイルが給仕として働いたとき、チップをくれた客だった。ミハイルは彼の姿を認めて、おびえた眼をした。

「やあ、ミハイル。おまえにまたごちそうしてやるよ」

 客は錠剤をつまみ上げた。ミハイルはキャンドルをくわえたまま懸命に口をすぼめたが、客は無理矢理歯をこじあけて、喉の奥に錠剤を放り込んだ。ミハイルが苦しそうに飲み下すのを、淫靡な笑いを浮かべて見守っている。

「いい子だ。さあ、食事を楽しもうぜ」

 客は威勢良く食べ始めた。オレンジソースをミハイルの腹から胸へとなすりつけ、オレンジの輪切りを乳首の上で押しつぶしている。

「フッ、フッ、フッ」

 ミハイルから絶え間ない喘ぎ声が漏れてきた。乱暴な扱いにすら感じてしまっている。さらに催淫剤を追加されて、快感は限界に達しているようだった。ワゴンの上で撥ねそうになる身体を押さえつけようと苦労している。

「ク、うあ――ッ、ウッ、ウゥ」

 ひときわ高い喘ぎ声が響いた。客が嬉々としてペニスにホースラディッシュを塗りつけていた。確かにこの客は盛大に食事を楽しんでいた。わたしも、後は店とアクトーレスに任せて、自分の食事を楽しむことにした。



 食後のブランデーを味わっているところに給仕がやってきた。

「最後のひと皿をお出ししますが」

 今まで任せきりだったのに、と不思議に思いつつ給仕の指し示す方向を見て、少なからず驚いた。
 いつのまに来ていたのだろう。
 3つほど先のテーブルにヤニスがいた。2匹の犬が彼の足下の皿に頭を突っ込んで食事をしていた。一方の犬の首と手首に赤い擦り傷が見えた。広場に繋がれていた犬だ。彼がヤニスを案内したというわけだ。

 奥の厨房の扉の前で、アクトーレスがわたしの指示を待っていた。
 わたしは、問題ない、というように軽く手を振った。
 アクトーレスの気遣いは分かるが、注文を受けた以上、店には料理を出す義務がある。それに、中途半端な理由で断ってヤニスにしたり顔で嗤われるのは我慢ならなかった。

 ミハイルのワゴンがヤニスの前に到着した。ヤニスがわたしの方に手を振って笑いかけてきた。きれいな唇が淫らにゆがんでいる。わたしもにっこりと笑い返してやった。
 気にしないように努めたが、無駄だった。わたしの五感は奇妙に鋭くなっていた。ヤニスの微細な動きが眼に飛び込んでくる。ミハイルの息づかいまで聞こえてくるようだった。

 ヤニスは、すました顔で、鴨料理を食べ始めた。洗練された無駄のない動きには非の打ち所もなく、女王主催の晩餐会に出席しているかのようだった。
 ミハイルは、まったく無視されて皿同然に扱われていた。とっくに限界を超えているミハイルは、身体をひくつかせながら疲れ果てた眼で天井を見上げて、静かに解放の時を待っていた。

 異変は、ヤニスが鴨肉を食べ終えたときに起こった。
 パテを少しずつナイフで削り取ってミハイルのペニスをもてあそんでいたヤニスが、飼い犬たちに残飯処理を命じたのだ。2匹の犬は歓声を上げて、ミハイルのペニスにむしゃぶりついた。

「ヒッ、グッ――ッ、ウッ、フッ」

 ミハイルの身体が痙攣していた。目の端でわたしの視線をとらえ、すがるような目つきで懇願してきたが、わたしは表情を崩さずにブランデーグラスを傾けた。

「うあ、ああ――ッ、や、やめて、ヤニス」

 ヤニスはミハイルのキャンドルを外していた。左手でミハイルの乳首をなぶり、右手はペニスに刺さった楊枝の鴨をつまみ上げ、上下に抜き差ししていた。
 ペドロがコックリングについたパテを舌先でこそげ取っている。
 広場にいた犬は、ミハイルのアヌスを舐めあげていた。
 ミハイルの絶叫が響き、背中が弓なりにのけぞった。ワゴンが激しく揺れ、黒板がゴトリと落ちた。

「助けて、ご主人様」

 たまらず、立ち上がったわたしの肩をそっと押さえた者がいた。支配人だ。彼は鷹揚にわたしに頷いて、テーブルの間を滑るようにヤニスの席へ近づいていった。

「お客様、お食事はお済みでございますか。コーヒーをお持ちいたしましょうか」

 ヤニスと犬たちの動きが止まった。ヤニスは不愉快そうな声を出した。

「ダメ。まだ食事の途中だよ」

「申し訳ありませんが、お料理がお済みになりましたら、すぐに下げさせて頂いております。他のお客様がお待ちですので」

「なぜ?ぼくが最後だろう?キャンドルは一本しかなかったよ」

「はい。ですが、鴨料理が終わったあとに、この皿でお客様全員にデザートを振る舞うように申しつけられております」

 ヤニスがくすくすと笑い出した。わたしは唖然とした。まったくこの支配人という奴は――

「本当に喰えないな。」



 
ミハイルは仔犬館に帰ってくるまでの間、一度もわたしを見なかった。調教部屋に入った途端、ミハイルは床に崩れ落ちた。

「もう、許してください・・・・・、どうか、おねがいします」

 わたしは容赦するつもりはなかった。
 後ろ手に枷で縛り付けてから、コックリングを外す。リングが食い込んで赤い跡をつけたペニスが、びくびくと震えた。裏筋を撫で上げ、陰嚢を軽くもんでやると、威勢よく精液が飛び散った。せき止められていた精液はしばらくの間どくどくと流れ続けていた。

 いっぱい出るな。皿にされてずっと感じていたのか?とわたしはあざ笑った。
 ミハイルは激しく喘いだ。感じすぎて声も出せないようだった。

 わたしはミハイルの身体をひっくり返し、床に肩を付き尻を掲げる形に這わせた。慎ましやかに閉じた薄桃色のアヌスを指でなぞってやると、ひくひくと震えた。
 どうした、入れてほしいのか、アヌスがおねだりをしているようだぞ、と言ってやる。

「い、いや、やめて」

 やめていいのか?ペニスはもう固くなっているぞ、と指摘すると、ミハイルは恥ずかしそうに身を捩った。
 催淫剤の効果は一晩中続くことだろう。欲望を放ったばかりのペニスは、再びはち切れんばかりに固くなっていた。指に精液を塗りつけて、アヌスに突き入れた。一本ずつ指を増やしていくたびにミハイルは眉を寄せたが、唇からは歓喜の喘ぎ声が漏れていた。

「ん、ん――ッ」

 三本の指をバラバラに中で動かすと、ミハイルは自分から腰を振り始めた。

「あ、クッ、あ、アアッ、ウッ」

 わたしの指が前立腺に触れると、ミハイルの身体は瞬間電撃を受けたかのように硬直して、それから痙攣が止まらなくなった。

「あ、あ、ウッ、アアッ、フウッ、あ、あ、ク」

 わたしはたまらなくなって、指を抜いて、一気にわたし自身で彼を貫いた。

「ああ――ッ」

 反動で射精しそうになったミハイルのペニスのピアスを引っ張り上げると、ミハイルは絶叫しながら大粒の涙をこぼした。しかし、催淫剤の効果は強く、痛みすら快感になるようだった。

「あっ、ウアッ、あっ、あ、あ、ク――ッ」

 ミハイルは乳首とペニスのピアスの鎖を引っ張り上げられ、ピンクの瞳を涙で濡らしながら、よがりつづけた。
 わたしは自分が押さえられなくなり、欲望のままに彼を突き動かしていた。

 気が付くと、彼はわたしの下で気を失っていた。枷をはずし、汗と精液で汚れた身体をシャワーで洗ってやったが、彼のまぶたは閉じられたまま、ぴくりとも動かなかった。疲労しきった大きな体をタオルで包み込んでやる。彼のなめらかな体躯を愛撫しながら、わたしも眠りに落ちていった。




 目を覚ますと、辺りは明るくなっていた。ミハイルが起きあがって、寝ているわたしをじっと見下ろしていた。いつから起きていたのだろうか?

「どうして、どうしてあなたはぼくを――」

 語尾がかすれて消えた。

「あなたは、ぼくを人に与えようとするのですか?初めての時からずっと。
 ぼくは、あなたの犬だ。ヤニスの犬じゃない。
 ぼくをそばに置いてください。もう人に与えないで――怖いんです。」

 ミハイルはそこで言いよどんで俯いたが、まもなく顔を上げて目尻に涙をにじませながらも気丈に言った。

「でも、罰は受けます。昨夜のレストランで、ぼくは務めを完遂できずに騒ぎ立てて、店とあなたに迷惑をかけた。償いはします。」

 わたしはあっけにとられた。この仔犬の思考回路ときたら。わたしは、ヤニスの皿になるのか、とたずねた。

「どうか、ヤニスがヴィラにいないときに。残りひと皿分、いや、1ダース全部やり直します。でも、どうかお願いです。こんなのはこれで最後にしてください」

 わたしは、愉快になってクスクスと笑った。店への償いは、最後のデザートの皿で済んでいる。まったく抜け目のない支配人だ。
 しかし、とわたしはしかめ面をしてミハイルを見据えて言った。わたしへの償いとして罰は受けてもらう、と。
 ミハイルのピンクの瞳が瞬きを繰り返した。おびえた表情が愛らしい。

 わたしは、うつぶせになってわたしの膝の上に尻を乗せるように言った。
 ミハイルは従順に言いつけどおりにした。形の良い引き締まった尻がわたしの目の前に突き出された。
 わたしは右手を振り上げると、力一杯ミハイルの尻を打ち据えた。パ――ンと小気味よい音が響いて、ミハイルの白い尻にわたしの手型が赤く浮き上がった。わたしはミハイルに数を数えるように命令した。

「いち。――ハッ――に。――グッ――さん」

 まもなくミハイルの尻は真っ赤になったが、わたしの手もじんじんと疼いてきた。

「――アアッ――じゅうに。」

 わたしは手を止めた。ミハイルの身体の向きを変えさせて、顔をのぞき込んだ。幼児のようなお仕置きを受けて、羞恥に頬を染めている。思わず唇を重ねたくなったが、ぐっと衝動を抑えた。
 まだだ。まだ早すぎる。

 そのかわりに、わたしは、ミハイルの頬を軽く平手で打って突き放しながら、言った。
 1ダース分の罰だ、淫乱な仔犬め。尻を打たれて感じたのか、と。 

「はい、ご主人様」

 ピンクの瞳がレーザーのようにまっすぐにわたしを射抜いてきた。

                ―― 了 ――



〔フミウスより〕
いや、すごい! 萌えどころのフルコース。ぱすたさま、すごいサービス精神です。(≧▽≦)こんなセクシーな犬だったとは――。自分で略奪したくなってしまいました。スバラシ!
ご主人様、楽しんでいただけましたでしょうか。
ひと言、ご感想をいただけると鬼のようにうれしいです♪ 
(メアドはaa@aa.aaをいれておけば書かなくても大丈夫です)

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