「なんだって?」
「おまえが誰かの犬になっている姿を見るのはうんざりだ。おまえをおれの犬にしたい。今晩だけでいい。それでおれは忘れることにする」
「――わかった。取引に応じるよ」
レオポルドはにやりと笑って、テーブルから金色のリボンを取ると、おれの首に結んだ。
「いつまで2本足で立っているんだ?――まずは尻をきれいにしろよ」
おれは四つん這いでバスルームまで這った。後ろからレオポルドがリボンの端を持って付いてきた。
ゼリーをとって、肛門にぬる。湯の量を加減して、蛇口に取り付けたチューブの先を肛門に挿した。十七秒。慣れた作業だ。
「よし。じゃあ、呼んだらリビングに這って来い。出すんじゃないぞ」
バスルームの床にうずくまって便意に耐えた。腹に溜まった水分が行き場を求めて腸を突き刺し、、肛門に襲いかかってくる。
「イアン」
ようやく声がかかった時、おれは一瞬動くのをためらった。今出ていったら、間に合うように戻って来られそうにない。
「イアン、出てこいよ」
おれは仕方なくバスルームからリビングへと這いだした。
リビングの床にガラスのボウルが置いてあった。ボウルの中には、花束が包まれていた大きなセロハンが敷き詰められている。
おれはバスルームに逃げ戻りたくなった。
椅子に座っていたレオポルドが、おれを見下ろしてにんまりと笑った。
「そのボウルをまたげ」
今朝サラダを食ったときは、こんなことになるとは思いもよらなかった。おれは深く息を吸い込んで、言う通りにした。
「レオ、おれ、もう――」
「おれのかわいいわんちゃんは、お願いの仕方を知っているはずだろう?」
「――う、うんちをさせてください――ご主人様」
「よく見えるように尻をこっちに向けろ」
額を床につけて尻を高くかかげて見せる。
「よし。許す」
「ありがとうございます。――うっく」
とっくに我慢の限界に来ていた肛門は、許しを得たとたんに、勢いよく中身をぶちまけだした。リビングにあられもない音が響き、独特の臭気が立った。
部屋の隅のテレビに四つん這いになった姿が映っているのに気付いて、急いで眼を背けた。しかしおれの羞恥の念とはお構いなしに、おれの腹は糞便を噴出し続けた。
「ふん。いっぱい出たな」
顔を手で覆ってうずくまっているおれの上に、レオポルドのおかしそうな声が降ってきた。顔から火が出そうだ。
ティッシュで肛門の周りを拭われた。
「バスルームに行って、よく洗ってこい」
今度は付いてくる気はないらしい。一人でバスルームに這っていって、2度洗腸した。
だるい身体をひきずるようにリビングに戻ったおれは、さっきのボウルを見て言葉を失った。
セロハンでおれの糞便を包みこんで、はしを緑のリボンで結わえてあったのだ。その上、結わえたセロハンの口には、数本の赤い薔薇が差し入れてあった。
「気に入ったか?」
満足げに椅子の上からできばえを眺めていたレオポルドが振り向いた。
「親父にバールの飾り付けを手伝わされていたからな。こういう細工物は得意なんだ」
窓が開け放たれ、よく換気がされたためか、異臭は残っていなかった。辺りに漂っているのは薔薇の香りだけだった。
薔薇――いつまであのボウルを置いておくつもりなんだろう。
おれは、薔薇を引っこ抜いてレオの尻に突き刺してやりたい衝動をぐっと抑え込んだ。
まだ契約期間は終了していない。奴はおれのご主人様だ。
「――はい。ありがとうございます」
「こっちにこいよ」
レオポルドはおれを膝立ちにさせると、赤いリボンで後ろ手に縛り上げた。
「よく似合うよ、イアン」
くすりと笑って、おれの首に巻かれた金色のリボンを引っ張った。
「イアン、ご主人様に奉仕してくれ」
レオポルドは、ゆったりと開いた足の間を指さして見せた。
レオポルドの股間に口を寄せて、舌先でファスナーの先を持ち上げると歯で銜えて引き下ろした。派手な色彩のトランクスの間から、半勃ちになったペニスがこぼれ出た。
口に含むとすぐに、ペニスは体積を増した。そのまま舌を這わせて裏筋を舐めあげる。すぼめた口を上下させ、亀頭をなめ回すと、レオポルドが小さく声を立てた。
尿道口をつつきだしていると、後頭部の髪を掴まれて引きはがされた。
首のリボンを引かれて立ちあがらされる。
「串刺しにしてやる。そのまま腰を下ろせ」
レオポルドの大きな手が、尻たぶを左右に広げた。洗腸でゆるんだ肛門に冷たい空気が触れた。まもなく勃ちあがりきった熱いペニスが中に入ってきた。
「んくっ」
後ろ手に縛られたまま、後ろから刺し貫かれる。犬の扱いを受けてはいても、いつもと変わらぬレオポルドの昂まりをくわえ込むと、全身が静電気を帯びたようにざわついた。
「もう感じているのか。中がひくついているぞ。こらえ性のない犬だな」
ペニスを軽く握られた。
「こんなに濡らして。ご主人様が許す前にいくなよ」
何か細い物がペニスに触ったかと思うと、ぱちっと音がして痛みが走った。
「ヒッ」
輪ゴムだ。薔薇の茎を1つに括っていた輪ゴムが、おれのペニスを締め上げていた。
「クッ」
「なあ、我慢できるように手伝ってやったんだぜ。何か言うことはないのか」
「あ、ありがとう、ございます――ご主人様」
レオポルドはふっと笑うとおれの乳首をつまみあげ、指の腹でつぶしてぐりぐりと回し始めた。
「アッ、痛っ――」
「痛いだけじゃないだろう。輪ゴム一本じゃ足りなかったみたいだな。まだよだれを垂らしているぜ」
ペニスの先を撫でた手は、すぐにすっと離れて、再び両方の乳首を嬲り始めた。
乳首以外には触れず、おれの体を貫いたあとはまったく動こうともしない。
「くぅん」
声を抑えようとしていて、却って妙な息が漏れてしまった。
「かわいい声だ。もっと啼いてみせろよ」
執拗に乳首を弄られつづけた。弾かれ、はさみ上げられ、こねくり回される。
「ふ、ふ、く、あああ――も、もう、お願いだから」
「なんだ」
「お願いします。動いてください」
「よくわからないな」
おれの頭の奥で何かがはじけ、最後のプライドが消し飛んだ。
「牝犬の、お尻を、ぐちゃぐちゃに、犯してください――ご主人様」
耳元にふっと息がかかった。
「よく言った。可愛がってやるよ、おれのかわいい犬」
レオポルドはおれの腹に手を回すと、椅子から立ち上がった。前に崩れ落ちそうになったおれをレオポルドの力強い腕が抱き留めた。おれはそのまま運ばれて、ソファの上で押しつぶされた。
レオポルドはおれの身体を思うさま、貪った。
おれは額をソファーにつけ、腹の下にクッションを敷かれて尻を高く上げさせられた。
屈辱的なおねだりの褒美とばかりに、レオポルドはおれの中をかき乱し、おれを快楽で啼き叫ばせた。
時折ソファに突っ伏しそうになると、首のリボンが引っ張り上げられた。
酸素を求めて反らせた首筋にキスの雨が降った。
「あ、ああ――お願いです。外して。いかせて、ください。あ、――ご、ご主人様」
「名前は?」
突然、耳元でささやかれた。
「電話の相手の名前」
「それは、忘れてくれるって」
「忘れるといったのは、昨日までのことさ。今日の電話の話は別だ」
詐欺師め。おれは口をつぐんで、にらみつけた。
「ふふっ。強情な犬だ」
一段と激しく腰が揺さぶられた。快感の奔流が身体の中心から四肢の隅々までほとばしった。
「アアア、アアア、アアアアア――――――――」
おれは、解放を許されないまま、絶頂を強要された。
レオポルドは、おれの身体を抱き上げて、床のラグの上に転がした。後ろ手に縛られていたリボンが解かれて、頭の上で縛り直された。それからレオポルドは、おれの手を押さえ込みながら、顔を覗き込んできた。
「電話の相手、教えろよ」
「いやだ」
「じゃあ、このままだな」
レオポルドはそう言い放つと、先ほどのボウルを手に取った。あのおぞましいオブジェだ。
「しっかり抱えていろよ」
頭上で縛められた腕の間に、おれの糞が入ったボウルが置かれた。気を抜くとボウルが傾きかける。おれは懸命に腕を広げて力を込めた。
「倒したら顔にかかるかもな。それも一興だが」
ペニスをそっと握り込まれた。
「んふ」
いまだに解放されていないペニスが物欲しげにびくびくと波打っている。
レオポルドはフラワーホールから薔薇を抜き取ると、おれのペニスの尿道口に突き刺した。
「あ、な、何を――やめてくれ」
「動くと危ないぞ。じっとしていろ」
レオポルドは薔薇を差し込み終わると、胸の隠しポケットから手鏡を取り出して、おれの姿を映して見せた。
頭上で赤いリボンに縛られた手首。抱え込まされたボウルには、セロハンに包まれた糞に数本の赤い薔薇が突き刺さり、緑のリボンが飾られている。首には金色のリボン。ゴムで拘束されたまま勃起したペニスに赤い薔薇の花が揺れていた。
レオポルドはおれを見下ろしてにっこり笑った。
「綺麗だよ、イアン。おれの犬。おれの花束」
レオポルドはおれの足を肩にかかえ上げると、一気に侵入してきた。
がくがくと腰を揺さぶられながら、尿道に刺さった薔薇を抜き差しされる。
「アア、アア、アアア」
おれは声を限りに泣き叫んでいた。わけもなく涙が流れた。
「レオ、ご主人様、お願いです。もう許して――許して下さい」
レオポルドは、おれの頬を伝う涙をすくいとって、指を舐めた。
「そうだな。外してやるよ」
レオポルドは輪ゴムに爪を立てて、ぱちんとちぎった。
「薔薇は自分で出してみろ」
抑えられていた欲望は、たちどころに脱出口に向かって流れ出した。身体中にほとばしる快楽の激流が、一気に頂点へ押し寄せて一切を洗い流した。
「アア、アアアア、アアアア、アアアアアアア――――――――――――」
尿道に挿されていた薔薇が、勢いよく吹き飛んで床に落ちた。放たれた精は、なかなか止まろうとしなかった。
右手がひんやりして目が覚めた。レオポルドが鞭の傷を消毒していた。おれのからだは既に吹き清められていた。
いつの間にかソファーに移されていた。
「あ、ありがとうございます、ご主人様」
「もういいよ、イアン。日付は替わった。取引は終了だ」
「ああ」
起こしかけていた身体を再びソファーに横たえた。レオポルドは包帯を巻き始めた。
「なあ、レオポルド。電話の相手のことは、ほんとうに何でもないんだ。はっきりしたら話すよ。ごめん」
「そうか」
それ以上尋ねて来ない様子に安心した。
彼はどうしているだろう。今晩にでも電話してみよう。
レオポルドは包帯の端を留めると、そっとおれの右手の指を握った。
「謝らなくていいよ。おれも嘘をついたからな。
――ウイスキーには、製造年月日や賞味期限の表示が義務付けられていないんだ」
ぼうっとした頭には、意味がすぐには伝達されなかった。
「だから瓶には表示されていない」
殴ってやろうと振り上げたおれの拳は、動きを予測していたレオポルドにあっさり封じ込まれた。
「あの程度の埃じゃ3年半前の物とは思えなかったから、はったりをかましたのさ。――いいじゃないか。おあいこだよ」
「どこが?おまえ、取引だとかいって、おれを犬に――」
「おまえが花束を見ても、思い出してくれなかったから」
「思い出すって何を」
レオポルドは例のボウルを指さした。
「薔薇は何本ある?」
「――6本」
「今日は何日だ?」
「25日――いや、26日か?それがどうかしたか」
「6ヶ月前の今日、おまえの所に生きて戻ってきた。今日は半年後の記念日だ」
「ああ、そうだったな。――でも、半年で記念日っていうのか」
「毎日生きていくのが必死の思いだよ。でも、その気になれば、おまえに電話して声が聞ける。
いつでもヴィラ・カプリのおまえの部屋に来ることができる。おまえの愛を感じていられる。
1日1日がおれの宝物だ。ずっと守っていきたい。
だから、一緒に祝おうよ、今日の記念日」
窓辺で薔薇の花が揺れて、香りが部屋に漂った。窓の向こうには青い海が光っていた。
あの海はタスマニアに繋がっている。
フミウスさま
サイトオープン、半周年記念日、おめでとうございます。
ぱすた
――――――了――――――
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