ペニスに湿ったものが触れ、おれはのけぞりかかった。ペニスをうすい舌がせわしなく撫でている。
人間ではない。
おれは鳥肌をたてた。そのおぞましい感覚はまぎれもなく快楽だった。おれのからだは獣の愛撫によろこばされ、うろたえている。
「や、やめてくれ……アッ、クッ」
舌がうごめくたびに、からだのうちが快楽に跳ね上げられる。腰が躍りそうになる。
犬の頭をおさえてしまいそうだった。気まぐれな犬の舌はせっかちに舐めまわし、股間をべたべたにしたが、肝心なところからもすばやくそれていく。
「アッ――ハア――」
おれは膝をひらきかけ、ぎくりとした。
「ははっ、ケツに欲しいんだ」
男たちが笑った。「牝犬として目覚め始めたか」
嘲笑に血がさかのぼった。無意識にからだが開いていた。舌を疼くアナルに誘い込もうとしていた。
――おかしい。
尻がおかしい。尻のなかが熱く溶け、くずれている。骨がおかしい。からだをひらき、ほつれ、ゆるんでしまっている。
おれはどうなったんだ? ペニスが欲しくてたまらない。尻の穴が火口のように燃えている。
「いい子だ。さあ、四つん這いになって」
ぱすた様の声が引き綱のようにおれを誘った。その声にひかれるままに、身をもたげ、ひざをつく。
「お尻をあげて」
おれは床に這いつくばり、尻をさし上げた。尻の穴が空気にふれている。
「すてきな姿だ」
ぱすた様がクスリと笑った。「牝犬、そのものだよ」
屈辱的な姿勢にこめかみの血液がドクドクと脈打った。頬が燃えるようだ。
だが、肛門がヒクつくのがわかる。ペニスからとろとろと粘液がこぼれ落ちるのがわかる。
おれはふるえた。
犬が近づけられていた。尻のうしろに落ち着きのない獣の息づかいがあった。
「お尻を開いて、自分で」
剣が振り下ろされたようだった。
おれはあえぎ、思わず泣き声を出した。
「お許しを……!」
「やるんだ」
ぱすた様は笑った。「われわれはもう十分待った。犬たちもな。それになにより、きみのお尻がもう待ちきれないと言っているよ」
情けなさに目玉が熱くなった。
からだは虎狼のような飢餓に苛まれ、なにもなくても揺れそうだった。欲しい。なんでもいいから欲しい。
おれの手はそろそろと動いた。のぼせ、魔法がかかったように、尻をつかみ、犬のまえに粘膜を開いた。
「言えよ。セリフを」
おれは尻をひらき、背後の犬に言った。
「牝犬のお尻にご主人様のペニスを入れてください」
涙が勝手に頬をつたった。
犬のペニスがからだにおさまっていた。異様に太い、けだもののペニスがアナルを荒々しく削りあげている。
「アッ……アアッ――ヒいッ――あ、アアッ」
頭がおかしくなりそうだ。
犬の爪が背を押さえている。犬に組み伏せられ、犯されている。
だが、おれのからだは悦びにわなないていた。欲しくてたまらなかったところに、猛々しい刺激があった。
粘膜がえぐられ、奥歯が鳴る。さむけのような快楽が皮膚のうちを波打った。
涙があふれた。おれは身をよじり、あられもない嬌声をあげていた。
「面白い趣向だね」
まわりには主人たちが囲んでいた。淫靡な笑いを浮かべ、この見世物に見入っている。
「Dominus様。おたくではいつもこんなことを?」
「ふだんはもっと小型の犬でやるけどね――どう。ファビアン。気持ちいいかい?」
おれはあえいだ。言葉なぞ出ない。
「それはけっこうだ。一匹じゃ足らないだろう」
そう声がしたと思うと、いま一匹の犬が放された。犬はすぐにおれの股間に鼻をつっこんだ。
「ヒ、ヒイッ」
おれは身を跳ねさせた。犬がペニスを舐めまわしている。
二匹の犬にからだをもてあそばれていた。尻から太いペニスをうがたれ、長い舌で敏感な部分をなぶられる。表と裏から狂わされ、おれの四肢は宙におどった。
「やめ――やめてくれ」
瞬時に電流が背を駆けぬけた。腰がはじけるように痙攣し、重い潮が飛ぶ。
(ああ)
朦朧とした頭に、笑い声がかすめていた。あの怪物たちが笑っていた。けだものに人を辱めさせ、手を打って喜んでいる。
みじめな快楽がゆっくりとすぎていく。おれのなかのいくばくかの聖域が枯れ葉のように握り潰され、散じていくのを、彼らはわらって見ていた。
「まだ寝るな」
髪の毛をつかまれ、引き起こされる。七瀬様の黒い笑いがのぞきこんでいる。
「きみのご主人はまだ、満足していない」
ケダモノはまだ尻を犯していた。毛むくじゃらの腰を打ちつけ、馬鹿のように尻穴を突いていた。
「ケツを開けよ。もっと奥まで咥えるんだ」
冷酷な黒い目が命じる。
おれはのろのろと手で、尻たぶを開いた。待ちかねたように犬が腰をすりつける。
「――クッ――」
尻の穴が無理やり押し広げられた。拳のようにでかい瘤が肛門にもぐりこんでいる。
犬のからだは完全におれに嵌りこんでいた。
(いやだ)
うろたえた瞬間、腹のなかで、犬のペニスがわずかに振れた。生温かいものがひろがった。
泣くまいと思ったが、あごがふるえた。
けだものの大量の精液が腹のなかにあふれていた。出口は大きな瘤がぴたりとふさいでいる。わが身のなかで犬の無数の精子が泳いでいた。
(ああ)
おれは痙攣しかけた。
牝犬だ。本物の牝犬になった。
七瀬様がクスリとわらった。不意にその白い顔を近づけ、おれに口づけた。
唇がやわらかい。舌は甘く、やさしかった。ついばむように、おれの舌を吸い、なだめた。
沸騰していた脳から、しだいに熱が引いていく。
「かわいいよ。ファビアン」
彼はおれの頬を手にとり、目でうながした。
彼の股間が大きく膨れていた。
おれはためらいなく、従った。その膨らみにキスし、歯にファスナーをかけて、引き下ろした。下着の間に舌をいれると、あたたかいペニスがすぐにこぼれ出た。おれはむさぼるようにそれを口にふくんだ。
屈従の味は強酸のように鋭く、甘く、脳をうちのめした。
おれは牝犬だ。ご主人様のペット、だ。
犬のペニスが尻から離れた。
大きな蓋がはずれ、途端に大量の精液が尻からどっと流れ落ちた。生温かいものが内股をつたう。
「うはっ、卑猥だな」
尻のほうからシルル様の声がする。「洗うのがもったいない」
「そのままいったら?」
Ray様がかすれ声で言う。Ray様は七瀬さまに変わって、おれに奉仕させていた。
「自慢のプリ尻が汚れるのがいやかい」
「いやじゃないけどね。こっちのほうがいいかな」
Ray様のペニスが口から離れる。不意に腰をつかまれ、からだを転がされた。
あおむいた途端、ペニスの上にシルル様がまたがった。
「楽しませてくれ」
彼はにっこりと笑うと腰をしずめた。その顔がなまめかしく歪む。
「ああ……ファビアン……大きい……」
ペニスに熱い粘膜が巻きついていた。息苦しいほど狭い。尾底骨から痛いような快感が突き上げてくる。
彼は眉をしかめて微笑み、白い腰を上下した。熱い粘膜がペニスを吸い取り、絞りあげる。腰ごと吸い取られるようだ。
「ああ、素敵だ」
シルル様は笑うようにあえぎ、すぐにギャロップにうつった。
鞍の上をはねるように小さい腰を弾ませる。熟れきったペニスにはたまらない愛撫だった。目の前に火花が散った。
「し、シルル様――」
尻の下であふれた犬の精液がびしゃびしゃと鳴った。喘ぎ、首を振ると、その顎をつかまれる。Ray様の濡れたペニスがまた口に詰め込まれた。
苦しい。
ペニスは嵐のように苛まれ、発火しそうだ。肺はふいごのように鳴り、新鮮な酸素を求めている。酸素が足りない。舌が痺れてくる。
どこかで客とフミウスがしゃべっている。
――では次へどうぞ。はい。順番で。じゅら様はどうなさいます?
――じゅらもやりたいけど、あとがこわいもん。
――せっかくのお祭りじゃないですか。しっかり愉しんで、キャッチ&リリースしてやってください。
――そう? そこまで勧められるならしょうがない。ホントはじゅら、こんなこと――。
――ヤマさまは?
――わたしはここでけっこう。
――お召しにならないのですか。一度洗いますよ。
――彼の顔を見ていたい。あの悪党の顔はバルバレスコのいい肴だ。
「んっ――ンンッ――」
思わず強く吸った時、Ray様の腰がぐっとこわばった。咽喉奥に粘液が叩きつけられる。
ほぼ同時にシルル様もおれの上に座りこんだ。彼の足も痙攣していた。
「最高。――」
シルル様がまだ喘いでいるうちに、誰かが近づく。シルル様はケラケラわらった。
「もう――余韻にひたっている間もないな。ファビアン、行列が出来てる。楽しみたまえ」
数人の男がおれを抱いた。尻を、口をかわるがわる犯した。
おれは愛撫によがり、わめき、何度か吐精した。すでに魔法は切れている。気をうしないそうなほど消耗していた。
見たような男が代わった。もう誰だか名前も出てこない。
男はすぐには抱かなかった。おれのからだをじっと見つめ、哀れむように言った。
「これが、きみか」
おれのからだはだらしなくゆるみきり、男と犬の精液、そして自分の精液でまみれ、生臭いにおいを放っていた。
これが、おれだ。男たちのおもちゃだ。
彼はおれの足をつかむと、肩にかつぎあげた。
(あ)
芯の硬いペニスがはらわたにくい込む。熱い。灼けた金棒のようだ。尻のなかが熱い。
彼が突くたびに肛門から卑猥な音がたつ。犬とひとの精液が大量に噴き出ている。
おれは首をふって喘いだ。
「もう、くるし――」
だが、灰のように枯れ果てた体から、埋み火が赤く熾ってくる。じわじわと尾底骨をあたため、ペニスをあたためる。熱い金棒はおれの深奥でねばるように動いた。やわらかい場所をついばみ、舐め溶かすようにしつこく嬲った。
「ア、いや、だ。――だめ――アッ、ん――アアッ」
おれはかすれ声をあげ、泣き喚いていた。からだはガタガタだ。腕もあげられない。
だが、腰が勝手に駆け上がっていく。尻のなかの千の触手に狂わされ、よろこばされ、泣きながら踊っている。
「ハ、アッ――アアアーッ」
おれはのけぞり、泣き喚いた。快楽の牙にうがたれ、首をふり、もがき、哀願した。
何もできない。死にそうなほど困憊していても、抱かれれば狂っていく。されるがままにからだをひらき、つき砕かれ、歓喜に泣く。
「アアッ、アアアッ」
おれはもはやおれではなかった。アクトーレスでもなく、客に色目をつかう小ざかしい悪党でもなかった。
ただのちっぽけな生きもの。愛され、泣かされ、悦ばされる小動物にすぎなかった。
ひどく身軽だった。無力だったが、にごりが晴れたようにからだが軽い。
大きな感覚がからだをうしおのように襲う。細胞が笑いに浮き上がる。手足が跳ね上がった。
おれはただの感覚。名もない光の瞬き。まじりけのない歓喜だった。
だれかが呼んでいる。ご主人様だ。そちらへ行かねばならない。
だが、腰がたたなった。関節はほどけ、足はワラでできているようだ。
「来い。ファビアン」
声がはっきり聞こえた。あのお方だ。いつもかわいがってくださった方だ。
おれは手で這っていった。下肢をひきずり、トカゲのようによたよた彼の足元に向かった。
磨かれた靴先が目に入る。おれは頭を下げ、口づけた。
――愛してください。ご主人様。もっともっと愛して。
だが、ぶざまに潰れた。うずくまったまま、頭を起こせなかった。
やさしい手がおれのあごを捉えた。彼はおれの前にかがみ、
「――いい子だ。ファビアン」
と誉めた。
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