ナイトメア
デクリオンになって雑務に追われるイアンは、イライラしながら大きな足音を立て仔犬館へ向かっていた。
(今この状況で、仔犬の調教に付き合ってる暇はない! オプティオは何考えてるんだ!)
イアンは二時間前にオプティオに言われた事を思い出していた。
「お前が適任なんだ。・・と言うか、お前がする必要があり、お前がするからこそ意味があるんだ」
まったくもって不可解な理由で、仕事を押し付けられたのだ。
「くそ〜、この忙しい時に冗談じゃない」
上からの命令に従わない訳にはいかず、イアンは仔犬が待つ調教館に急いだ。
「イアン・・」
天井から両手を吊るされている仔犬がイアンの名を口にした。
イアンの前にいた子犬は、ハスターティー時代の元上官、百人隊長(ケントゥリオー)のゲイリーだった。
「あなたが、どうして・・」
信じられないと驚きの表情のまま、イアンはゲイリーに近づいた。
「別にヘマをした訳じゃない。お前と同じか、上の誰かに恨まれて落とされたんだろうよ」
イアンの事件で、ヴィラに居る限り、理由もなく突然犬にされる可能性があることは、誰もが知っていた。
そして、それが我が身に起こったのだとゲイリーは言った。
「そんな!上に掛け合ってきます」
「無駄だ。その上が関わっている可能性がある」
「でも!この状況を受け入れるんですか?!」
「簡単に落ちたりしないさ」
確かにケントゥリオーだ。
しかしヴィラの調教はそんなに甘くない。
それを身をもって知っているだけに、イアンは複雑な心境だった。
「これだけは覚えておいてください。無駄な抵抗は苦痛を長引かせるだけです。どうか壊れてしまう前にご自身で見極めてください」
「あぁ、わかっている」
「私も仕事である以上、アクトーレスとしてご主人様の手伝いをしなければなりません。」
「それはもちろんだ」
―――簡単に落ちたりしないさ
その言葉通り、ゲイリーはその強靭な体力と精神で鞭や電気に耐えていた。
「さすがだ百人隊長。そうでなければ面白くない」
日本人のパトリキは、ワインをサイドテーブルに置き軽く拍手した。
「MAXに近い電圧で、許しを請わなければ。失禁もしない。なんてすばらしいんだ」
パトリキはゲイリーに近づくと、唇に滲んだ血を指で拭った。
「これほどまでに強い男が、俺をご主人様と呼び、犬になった時の喜びは計り知れないものがあるだろうな。そう思うだろアクトーレス」
突然話を向けられ、イアンは『はい』だけ答えた。
「さぁ、お遊びはここまでだ。百人隊長様に鞭や電気が通用しない事は始めからわかっていた。ここからが本番。アクトーレス、導尿用のカテーテルとイルリガートルを用意してくれ」
パトリキの指示に、イアンは一瞬固まった。
このパトリキは責め方を心得ている。
兵士やスパイなど、鍛え抜かれた体力や精神力を持つ者には肉体的な苦痛による調教はあまり効果がない。
なのでこのような場合、最も効果的に責めるなら内蔵だ。
肉体と違い、どんな人間でも内臓は鍛える事が出来ない。
まさかゲイリーは本当に自分と同じ理由で犬とされここに居るのか?
この日本人はヴィラが雇ったプロの調教師だったりするのだろうか?
イアンは何とも言えぬ不安にかられていた。
「アクトーレス、まず膀胱をカラにしてやれ」
「はい・・」
イアンはカテーテルにゼリーを付け、ゲイリーの尿道に挿入する。
「やっ、やめろ!」
ゲイリーは初めて味わう苦痛に眉を顰める。
膀胱に届いたカテーテルの先から、強制的に排尿されていく。
きつく目を閉じ、ゲイリーはイアンを視界から閉め出した。
「では、調教スタートといこうかアクトーレス」
パトリキの言葉で、カテーテルの先にイルリガートルを繋ぐ。
「最初は普通の水でいい。まずどんなものかデモンストレーションだ」
イアンはイルリガートルに500ccの水を入れる。
「百人隊長、これから何が行われるか想像できるかな?私の合図でアクトーレスがあのイルリートルを上げると・・」
「やめろ!」
「そうだ。あの水がお前の膀胱に入る。では」
パトリキが軽く頷き、イアンは手に持ったイルリガートルを上げた。
「ぐわっ!!」
「どうかな?ただの水でもかなりのものだろう。あれを塩水に替えたらどうかな?」
パトリキがまた頷き、イルリガートルが下げられる。
「うぅ・・ぁぁ・・」
ゲイリーは驚きに見開いた瞳をまた閉じた。
「塩水も濃度によって感じ方が随分と違うだろうけど、隊長殿はどの濃度が好みかな?」
パトリキがまた合図をし、イルリガートルが上げられる。
「グゥ・・ぅぅ・・」
「お酢なんてのも、なかなか刺激的でいいだろうね」
そしてまた下げられる。
「あぁ・・はぁ、はぁ・・」
そのまま一時間近く上げ下げが繰り返され、ゲイリーにかなり限界が近い事は見て取れた。
「百人隊長、俺に何か言うことがあるかな?」
「くそっ・・たれ」
「結構。明日が実に楽しみだよ」
パトリキは喜色満面の笑みで、部屋を出て行った。
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