ナイトメア  第2話


次の日、イアンはパトリキと共に調教室に入った。

「隊長殿、夕べはよく眠れたかな?」
パトリキはゲイリーに声をかけ、ソファーに座った。

「さて・・今日は何から始めようか」
その言葉で、ゲイリーの顔にほんの一瞬怯えが走ったのをイアンは見た。

「ん〜そうだな・・とりあえず腹を洗ってくれ」
「はい」
イアンは頷き、床のパネルを開ける。

スカには余り興味がないらしく、洗腸が済むまで新聞を読んだまま一言も指示を出してはこなかった。

イアンもゲイリーも元ハスターティだ。
訓練中はジャングルで用を足す事だってある。
兵士に羞恥プレイはさほどダメージを与えない。
このパトリキはその事がちゃんとわかっているようで怖かった。

「終わりました」
イアンはパトリキに声をかける。

「腸が綺麗になった事だし、ついでに膀胱も洗って綺麗にするか?」
パトリキは新聞をたたんでテーブルに置くと、ゲイリーに相談するかのように話かける。

「そっ・・・それは」
昨日の事を思い出しているようで、ゲイリーは明らかに動揺していた。

「アクトーレス、仔犬を吊るしたら食塩水を用意してくれ。そうだな〜濃度が違うものを三種類ほど」
「かしこまりました」

「頼む・・やめてくれ」
イアンが食塩水を用意する間、パトリキ自らカテーテルでゲイリーの膀胱を空にしていた。

「それで俺にお願いしてるつもりか?」
パトリキはカテーテルを抜き差ししながら、この後行われる事に対して恐怖を植えつけていた。

「うっ・・やめてください」
「大事な言葉が抜けているようだが?」
カテーテルの動きを一旦止め、ゲイリーの言葉を待つ。

「食塩水はやめてください。ご・・主人様」
ゲイリーは目を伏せ、自分の言葉に打ちひしがれた。

「ご主人様か・・やっと自分が犬だと自覚したか?そうだお前は犬として、ご主人様である俺にお願いしなければ、ここでは生きていけないんだ」
突きつけられた現実に、ゲイリーの眉がきつく寄せられる。

「俺はこう見えて優しい主人だ。犬の願いを聞いてやろう。食塩水はとりあえず中止だ」
そう言って、カテーテルを抜き去った。

「良い犬にする為には、最初の躾が肝心だ」
パトリキは器具が乗るワゴンに近づき、浣腸用の注射器を手に取った。

「アクトーレス、100ccじゃなく200ccのシリンジはないのか?」
「持ってまいります」

さっき洗腸の際は興味を示さなかったのに、200ccのシリンジだなんて水遊びをつもりだろうか・・・?
イアンはパトリキの考えている事が読めずに、器具を手渡した。

「これでよろしいですか?」
「結構。昔、日本には遊郭と言って、女郎遊びが出来る場所があった。
そこでは接客態度が悪かったり、稼ぎの悪い女郎の罰や躾として『河豚(ふぐ)責め』というのが、行われていたそうだ」
説明しながら、パトリキはゲイリーの後ろに回りこむ。

そして空のシリンジの内筒を200ccまで引き、ゲイリーのアヌスに押し当てそのまま空気を送り込んだ。

「ぐぁ・・」
「シリンジでいちいち入れるのは面倒だから、本当はエネマポンプで入れたいんだが、この仔犬には初めてだから、どれ位入れるとどの程度膨らむのか確認しないとな」
そう言いながら、二回・三回・・と空気を入れる。

「うぅ・・くは・・」
「おっと、大事な事を忘れていた。アクトーレス、仔犬の鳩尾辺りを紐できつく縛ってくれ。このままじゃ、ゲップとして上から空気が抜ける」
パトリキの指示に、イアンはゲイリーの腹の上方を紐で縛った。

「こうしておけば空気の逃げ道はなくなる。よし、今で八回目だから・・1600ccほどか」
「くっ・・苦しい」
ゲイリーの腹が、少し膨らみ始めていた。

「普通3000〜4000ccは入るから、まだ半分ほどだ」
「もう、やめてくれ!」
まだ半分と聞いて、ゲイリーが少しパニックを起こした。

「こうやって空気をどんどん入れると、まるで妊婦のように腹が膨らむ。
この姿が河豚に似てるから『河豚責め』って言ったんだろうな」
ゲイリーの状態を見ながら少しずつ、でも確実に空気を入れていく。

「ヒィーー!・・・腹が破れる!」
腸が無理やり押し広げられる感覚に恐怖を覚える。

「大丈夫だ。今日の所は2400cc程しか入れない」
パトリキはそう言うと、アヌスストッパーで栓をした。

横隔膜が上へ押し上げられ、肺が広がらない為に胸式呼吸が難しくなり肩ではぁはぁと息をしながら、かろうじて腹式呼吸が出来ている状態だ。

「遊郭では廊下の梁に吊るして、何日かさらし者にしたらしい。私はこの後、友人と食事をする約束があるから町に出てくるよ。アクトーレス、君もデクリオンだから本当は忙しいんだろ?町から戻ったら連絡するから、それまで仕事していればいい」

「ご主人様・・」
このまま放置されると知ったゲイリーは苦しげな息で声を出した。

「1人で残されるのは淋しいか?何なら中庭の木に吊るしてやろうか?あそこなら散歩にみんなが出てるから人が居て紛れるだろう」
「いや・・です」
ゲイリーは必死で首を振る。

「この素敵な腹を見せてやればいいじゃないか」
パトリキは楽しそうに笑いながら、大きく膨らんだゲイリーの腹を擦った。

「ご主人様・・どうか」
「だいぶ『ご主人様』って言葉が板についてきたな。これは夕方戻って来た時が楽しみだ」
そう言って、パトリキはイアンを連れだって部屋を出てしまった。

「ご主人様ー!」
取り残されたゲイリーの悲痛な叫びが、ドアが閉まる直前微かに響いた。





「どうかした?」
スキンシップの後、腕の中で一点を見つめたまま考え込んでいるイアンにレオポルドが声をかける。

「えっ、何が?」
「何かあった?仕事の事?」
レオが心配そうに、イアンの瞳を覗き込む。

「ん・・久しぶりに仔犬の調教に入ってるんだけど」
そう言って、またイアンは黙り込んでしまう。

「わかった。その仔犬が問題犬とか」
「そうじゃなくて・・・」
「もう、ハッキリしないな〜」
レオは胸に抱いたイアンの頭に、鼻を押し付けて擦りつけた。

「ハスターティの時の上官なんだ」
「えっ!? それって」
イアンが犬にされた経緯を知っているレオは心配する。

「表向きは、上に楯突いて暴力沙汰を起こした事になってる」
「でも違うのか?」
「本人はヘマをした覚えはないと言ってた」
レオは大丈夫だというように、イアンの背中を優しく撫ぜた。

「それにパトリキが調教をすごく心得ている。
俺の時のように、ヴィラが外から雇い入れた調教師かもしれない」
あの時の悪夢を拭い去る為に、レオの背中に手をまわしてしがみつく。

「ここは本当に狂ってからな」
「つくづく嫌になるよ」
それでもここに留まり続ける自分が理解できない

「何かする気か?」
「上に掛け合おうかと考えたが、その上が絡んでる可能性があるんだ」
「無茶な事はしないでくれ。またもしイアンに何かあったら・・」
「あぁ、わかってる」
イアンは思考を中断し、レオの胸に顔を埋めた。



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