Dionysia
ディオニュシア祭



「立て。両手は頭のうしろだ」

 男はステッキで軽く、おれの肩を打ち、ひじを打った。おずおずと立ち上がり、両ひじをあげる。

 男のヘイゼルの目が細くなる。ステッキと目がはだかのからだをなぞっていく。胸、わき腹、そけい部。内股。正視に堪えられず、顔をそむけるとステッキが顎をもちあげた。

「恥ずかしいのかい。お嬢さん」

 目を伏せかけ、さらにステッキに顎を突き上げられた。金色のようなヘイゼルの目が冷然と見ている。

「ご主人さまが尋ねたら答えろ」

 背後の大男が面倒くさそうに忠告した。「むごいやり方が好みじゃないだろう」

 おれは小さく喘いだ。

 恥ずかしいかどうか、言えというのか。恥ずかしいさ。自宅のエントランスだ。扉一枚のむこうは外だ。
 だが、おれは絶え入りそうな声で、ノーと答えた。
 向かいの男は金色の眉をあげた。

「おや、そうかい。よほどはだかに自信があるらしいな」

「ここは落ち着かない、中へ」

 その時、傍らにいた男が何かを横腹に近づけた。バチンと音がして、腹が鋭く痙攣した。髪の毛が逆立つ。

 おれは身を跳ね上げ、おめいた。すぐステッキが顎をとらえる。ヘイゼルの瞳が面白そうにのぞきこんでいた。

「勝手に口を利いていいと誰が言った」

 おれは痛みにたじろいでしまった。相手の目に飲み込まれそうだ。

「なんてかわいい顔だ」

 男は満足そうに言った。「おまえの名前はメアリにしよう。おまえはメイドだ。皿を運んで働くんだ。わかったな」





 男たちはおれにストッキングを穿かせ、ガーターベルトで留めた。さらにブラジャーをさせ、白いレースのパンティを穿かせた。小さな布はとても性器を隠しておけず、端からはみ出してしまう。
 キャミーソール。ペチコート。紺のメイドの服を着せられる。尻をほとんど隠せないミニスカートだ。
 その上に白いエプロンドレスを着る。

「ほう。かわいらしい」

 男はクスクス笑った。

 おれは今度こそ顔をあげられずにいた。かわいいわけがない。おれは6フィートある。学生時代ラグビーをやっていたせいで肩は張り、胸も厚い。厚手のストッキングに隠れていたが、足も胸も毛だらけだ。

 男は箱の中から靴を出した。メイドはまず穿かないでかいハイヒールだ。

「さあ、ご主人さまを寝室に案内しておくれ、メアリ」

 おれはそのハイヒールに無理に足をつっこんだ。直立しておどろいた。女性たちはなんという荒行をこなしているのだろう。これならフォークの上を歩いたほうがまだマシだ。

「そいつを持って、早く歩け」

 ステッキがスカートの下の尻を突く。おれはしかたなく男のスーツケースを持ってよたよた廊下を歩いた。
 階段をあがるのは一苦労だ。背後から男がクスクス笑いながらついてくる。

「メアリ、ひざをのばしなさい。おばあさんみたいだよ」

 この金髪の男が主人だ。

 年は三十二、三ぐらいだろうか。丈は、おれと同じぐらいあるが、ややシャープだ。隙をつけば、こちらが優位をとれるかもしれない。

 だが、手下のふたりはおれよりも頑丈そうだ。ひとりは黒人でエジプトで銅鑼でも叩いていそうな巨漢だ。

 おれは金髪の男を寝室に案内した。金髪の男は上着を脱いでベッドに放った。

 男はスーツケースを開けながら、命じる。「背広にブラシをあてて、かけておけ」

 まったく! 百年もこの家にいるようだ。あんな香水つけておれたちのベッドに寝る気なんだろうか。

 シーツににおいがつけば、妻になんと釈明したらいいのか。
 おれはよたよたと背広を拾い、ハンガーにかけた。ブラシなぞどこにあるのかわからない。

「メアリ」

 男が顔をあげている。冷かな目だった。「返事は」

「……はい」

「はい、ご主人さま、だ」

 屈辱に声がかすれかけた。「……はい、ご主人様」

「そいつを仕舞ったらさっさと来い。愚図はおしおきだぞ」

 おれはブラシもかけず背広を仕舞い、転びそうになりながらベッドの脇に進み出た。

「そこの端にうつぶせろ」

 男がベッドにあごをしゃくる。

 ためらいかけ、男の強い視線にぶつかる。「……はい、ご主人さま」

 ベッドの上に状態をうつぶせると、男がきびしく言った。

「尻をあげるんだよ。お嬢ちゃん」

 足を蹴りつける。おれはおののいて、尻を高くあげた。

「でかいけつだ」

 男は嘲笑い、ゆっくりパンティがおろした。その感触におれは腕のなかに顔をかくし、身をすくめた。

(……畜生)

 クスクス笑う声が聞こえる。男の息が尻に触れるようだった。おれは鳥肌をたてた。

「お嬢ちゃん。ケツの穴のまわりまで毛が生えてるぜ。剃ってやろうか」

「や、やめろ」

 はねおきかけ、途端に背を抑えられた。有無を言わさぬ腕だった。

「そう恥ずかしがるな」

 おれは落ち着かなくなった。この男の力を見くびっていた。この男はケンカ慣れしている。兵隊の筋肉だ。

「かみそりが怖いなら。除毛クリームを使ってやるよ。少しも痛くない。髭がないほうがかわいいぜ」

「お願いだ。やめてくれ。妻に――」

「お願いする時はどうするんだ。メアリ」

 いきなり尻に、ぬるりと指がささった。おれは仰天して叫んだ。反射的に逃れようとするが、腰をつかんだ手がさせない。指はあっというまに奥深くめりこみ、鉤のようにささった。

 おれは釣り針にかかった魚のように狼狽した。いきなり異物が食い込み、やわらかい内臓をえぐっている。淫らさよりも恐怖が先にたった。

「お願いする時はどうするんだ。メアリ」

「お願いします! ご、主人さま」

 おれはつっかえながらも叫んでいた。男はすぐ指を抜いた。

「そのまんま動くなよ」

 何かをプラスチックの箱から取り出す音、瓶の蓋をあける音がした。

「おまえはたいして慣らされていないみたいだからな。まあ、こいつはたいしてでかかない。ちょっとかさばるが座薬みたいなもんだ」

 そういうと硬いものを尻の穴にあてがう。

「息を吸え」

 いきなりの指示にあわてて息を吸う。

「吐け」

 吐いたとたん、尻の穴に棒が入ってきた。短いが、けして座薬のように小さくはない。おれは腸にあたる異物感にふるえそうになった。

 男はまたパンティをずりあげた。最後に尻をポンと叩き、

「ロジェたちの荷物も運んでやれ。それが終わったら晩飯のしたくだ」





          第2話へ⇒




Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved