晩飯のしたくといっても、料理人はべつにいた。
おれは彼の指示のまま、タマネギの皮をむいたり、野菜を洗ったりすればよかった。
だが、その動作がつらい。
動くと直腸のなかで道具が動く。その刺激がなぜか妙に甘く、ペニスは小さいパンティの中で半立ちになってしまっている。
料理人も彼らの仲間である。おれに手仕事を言いつけては、スカートのなかに手を入れてくる。アヌスのなかの刺激とパンティごしの指の愛撫に、おれはシンクをつかんだままふるえかけた。本当の女性にやったらセクハラで職を失うだろう。
「さあ、サーブしてこい」
おれは小間使いのようにキッチンとダイニングを往復せねばならなかった。
金髪の男がおれをみるなり、首をふる。
「メアリ。膝をのばせ、背をまっすぐだ。いい加減になれろ」
すでにばかげた女靴のつま先が痛い。パンの籠を持ち、唇を噛んで黙っていると、金属が足元に跳ねた。フォークだ。
「返事だ!」
はい、ご主人様。メアリというよりは、怯えた一兵卒のようにわめいていた。
わたしは往復し、サラダ、スープ、前菜、魚料理を運んだ。ただ運べばいいというのではない。途中でボディガードのふたりが足をひっかけたり、腰に抱きついたりする。
「おっと、落とすんじゃないぞ。落としたら罰だ」
アフリカ系フランス人のロジェというボディガードはたまらなかった。腰に抱きつき、パンティの中に手を入れてくる。
「どうした。濡れてるじゃねえか」
歩く度に尻のなかの道具がおかしなところを突くのである。何往復もさせられ、皿をおきながら喘ぎそうになっていた。
「ルビー、この変態の弁護士さん。もうよがってやがるぜ」
「離してやれ。ソースが床にたれる」
ルビーと呼ばれた金髪の男は物憂げに言い、おれの顔を眺めている。黒人の指と前の男の目に犯されているようで、おれは腰が砕けそうになっていた。
ようやく、黒人から離れ皿を置く。ルビーはよろこばなかった。
「メアリ、おまえは料理を運びながらさかっていたのか」
顔が火照る。答えられずうつむいていると、ルビーは、どうした、と目をあげた。
「は、いいえ、ご主人さま」
「いいえ、か。じゃあ、スカートをまくってみろ」
おれは自分のペニスに消えろ、といいたかった。だが、馬鹿な器管はいよいよ強張って、痛いほど下着をつきあげている。
「メアリ」
おれは自分のスカートの裾をもちあげた。なんて格好だろう。突き上げたペニスはパンティから頭を出して濡れていた。
ルビーは鼻でわらった。
「この下着からはみ出て濡れているのはなんだ」
「……ペニスです、――ご主人さま」
「おや、メアリ。おまえは女の子だろう? 女の子にペニスなんかないよ。これはなんだ?」
なんだ、とデザートスプーンではじく。頭に血がのぼり、声がかすれた。
「ヴァ、ギナです」
男は含み笑いした。
「これはおまえのクリトリスだよ。ヴァギナはこっちだ」
とスプーンを会陰にずらし、アヌスをはじく。悶えてるからだに羽根のようなかすかな刺激がつらい。
からだが浮き上がりそうだった。おれは目のなかでわめいた。
――もうなぶらないでくれ。いかせてくれ。めちゃくちゃに犯してくれ。
「まるで牝犬だ」
ルビーは椅子をひいた。「こんな淫らな娘にはおしおきが必要だな」
そういい、彼はひざの上へと指で合図した。おれがわからずまごついていると、すぐ背後からロジェの黒い手が腰をつかんだ。
ルビーのひざを支点にして、からだがふたつに折られる。
「ロジェ。おもちゃをとれ」
ロジェらしい手が乱暴にパンティをひきおろす。指がアヌスに触れた。
「あっ」
「よがるんじゃねえ」
ロジェは笑い、湿った音をさせ、中から道具を取り出した。尻のなかが空洞になる。
(――犯される)
と身をすくめていた時だった。
パンと派手な音がたった。尻がはじける。また重い手が尻を打つ。
おれは一瞬、声をうしなった。尻を打たれている。
また重い手のひらが派手な音をたてる。けっこう痛い。
「メアリ、おれは色気のある女は好きだ。だが、淫売にはそそられない。おれを誘うんじゃない。おれは淫売には興味がない」
男は倦まず叩きつづける。何度も打たれるとさすがにこたえる。少しずつずれようとするが、足首を黒人がまとめてつかんでいた。
「痛い。もうやめてくれ。わかった。わかりました。ご主人様」
「生意気なあばずれだ」
男は笑いながら、打ちつづけた。おれはついにたまらなくなり、のけぞって逃れようとした。
だが、男の左手ががっちりおれの首根をおさえて動かせない。足は黒人におさえられている。動くところは口だけだった。
「やめて。やめてください。ご主人様。もうやめて」
本気でわめいていた。だが、打つ手はやまず、いよいよ重く骨をゆるがせる。痛みは脳天につきぬけ、肉がはがれ、骨が分解するようだった。おれは知らず髪をつかみ、子どものようにわめき叫んでいた。
「やめて、やめてくれ。おねがい。おねがいです」
「あばずれ。おまえはおれをなめていたな」
目の前に男の足があった。金髪の男の声はやさしかったが、おれは顔をあげられなかった。
「おまえのような男が何を考えているかわかるんだよ。『おれのほうが目方が多い。いざとなりゃひっくりかえして逃げられるさ』そんなとこだろ。――ん?」
男のきれいに光る靴が、おれの指を踏んだ。
「あ、お許しください」
「おれを試したいんだろう? 粉々にしてほしいんだろう?」
指の節がつぶれかけ、おれは悲鳴をあげた。「や、やめてくれ。指が」
「指がどうした。背骨にしてほしいか」
熱湯に触れたような冷たさが脳髄を走った。おれはとっさに胸を床に押しつけた。夢中で男の靴にキスしていた。
「お許しください。ご主人様。ぼくのご主人様」
恐怖と湿った甘いものが下肢をつつむ。這いつくばりながら、骨のなかでは痺れるような快楽を感じていた。
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