第11話 |
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〔イアン〕 メルは解放され、イギリスへ帰った。 競馬関係者の口ききで、NPOの牧場に職を得たようだ。そこで運営のノウハウを学び、自分の牧場を持つのだという。 仔馬育成のためではない。引退した競争馬たちの面倒をみて生きていく、フレディといっしょに、と言った。 フレディはあと二十日ほどでヴィラを出られる。パンテオンの大神官は彼の退職金も保護した、と言っていた。 「あそこにはうんざりしていた。静か過ぎて」 大神官はおれに言った。 「忘れられた牢獄の主人。パンテオンの陰気さも、いやだった。ワン公も職員もどうとでもなれ、と思った。だが、ヴェヌス神殿の騒ぎを見てしまってね」 福袋の売り場、ヴェヌス神殿はパンテオンのすぐ隣だった。 小さい目が細くわらった。 「若いひとのエネルギーに、釣られてしまったんだよ」 補佐によれば、パンテオン側から客入りを増やすための企画提案が出ているという。 「蝋人形の館だって人は入るんだ。パンテオンも待ってばかりはいられないさ」 パンテオンが活性化するのは、アクトーレスとして複雑なものがあるが、――まあ、逃げ犬を出さぬようにするまでだ。仔犬の躾をきびしくして、パンテオン見学でもさせて。 おれは半休をとって、インスラに帰った。 レオが来る前に、少し部屋を掃除しておくつもりだった。が、スーツを脱いだら、そのままベッドに寝転がってしまった。 眠気が心地よい。 もうサーシャの夢も見ない。 きっとやつはおれなんか忘れて、今頃、天国でハンマーをぶんまわしているのだろう。雲の上を駆け回っているのだろう。 ところで、このこと、ラッセルはよろこぶだろうか。 いや。なんとも思わないな。あいつは、おれにはなんの期待もしてなかったから。 ―― 了 ―― |
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←第10話へ 2012.2.14 |
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福袋の収益 74億2500万は、お正月企画「ヴィラ・スタッフ謹製福袋」のアンケートより算出した最低数値です。 実際はそれ以上、90億以上になっていた可能性があります。(笑) 皆様のおかげで、トルソー犬が一匹、幸せに卒業できました。 ご主人様、 たくさんの福袋を開けてくださってありがとうございました!ヽ(*´∀`)ノ 家令フミウス |
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