夜の犬 |
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陽の出ている間、わたしは人間に返る。犬たちは拘束をはずし、わたしに服を返す。 「外に出て、散歩でもしていらっしゃい。ひとに会って、しゃべって」 賢いイーサンは、女房のようにせわしくわたしを送り出す。 「誰かと世間話でもするんですよ。これは命令ですからね」 命令という甘い響きには逆らえない。そう、ヒトに戻ることも調教の一環だ。ヒトが犬に堕ちるから面白いのであって、犬になりきってしまえば、以前と同じ灰色の退屈が続くだけだ。 「ぼくもいく」 全裸のメリルがリードを持ってくる。イーサンは渋い顔をしたが、 「たまにはぼくもご主人様と散歩したいの。夜はみんなばっかり行って、おいてきぼりだしさ」 主人の散歩に犬はつきもの、と強引にリードをとらせて、床に這った。 「ふふ。こういうのもやっぱり好き。ご主人様は?」 メリルは路上を這いながら、機嫌がよかった。 メリルを散歩に連れていくのはひさしぶりだ。 以前はこんなことを日課にしていた。 公園でほかの犬たちと遊ばせ、排泄させ、時に種付けと称してほかの犬たちに彼らを抱かせた。 犬たちがためらう顔に、わずかに欲望が動いた。わずかに灰色の生活を忘れられる気がした。 「ご主人様?」 「公園で少し座ろう」 「もう休憩? 公園なんてもう誰もいませんよ」 わたしはメリルを連れて、公園に入った。入り口のスタンドで新聞を買い、木々の間のベンチに向かう。 すでに朝の散歩の時刻は過ぎていてひと気はない。若い掃除夫がひとり作業していた。 「おはようございます。ご主人様」 若い黒人青年はきらりと美しい歯並びを見せた。 わたしはふと、まぶしく感じた。 「おはよう。すまないが、この子に水を飲ませてやってくれないか」 わたしは彼にチップを渡し、メリルのリードを投げた。わたしの股に鼻をつけていたメリルが、ぷっとふくれる。 「かしこまりました。ガス入り?」 「彼に聞いて」 ふたりを追い払うと、新聞をひろげた。そして目を閉じた。 まぶたの裏にも赤く光がとおってくる。頭から水分が蒸発していく。 鳥が鳴き、セミの声が降って来る。光、光。大量の光におどろき、皮膚が粟立つ。情欲の澱にまみれた身が、殺菌されていくようだ。 すこしぼんやりした。拘束具も、涙も、精液も、遠い幻のように思えた。このまま太陽に飲まれて、太陽のなかで暮らすのはどうか。 だが、目をひらくと、世界はあまりにも絢爛すぎた。土の上をおどる木漏れ日があざやかすぎる。陰すらも明るい。よそよそしい。 わたしの属する世界ではない。わたしはあきらめ、メリルを目でさがした。 「ハハ、いないよ」 「なんでさ。チャンスはあるだろ?」 メリルと若い掃除夫は木陰で笑っていた。水のボトルを抱えた裸の青年と掃除用具によりかかった若い黒人は、絵のように無邪気だった。 わたしは若い黒人の笑顔をまぶしく見つめた。 昼の世界の子だ。不純物がなにもない。アフリカの大地から掘り出した、素朴な、堂々たる自然物だ。 「ぐ、んんっ」 咽喉元のペニスが気道をふさぎ、咳き込みそうになった。 イーサンの腰がわずかにあごから浮く。 「ディータ、ご主人様が落ちる。引っ張って」 わたしはあおむけにそりかえり、ベッドの端から落ちそうになっていた。 のどにはイーサンのペニスが挿さり、尻はディータに犯されている。 |
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