第7話 |
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ジェイコブがあ然と彼を凝視している。ついで、ふりかえった。 彼の目が大きくなった。いきなりその手がわたしの頭をつかみ、かつらをもぎとった。 彼の口が開く。わたしは動けなかった。 「……ニコルソン!」 ジェイコブは悲鳴をあげた。 「楽しかっただろ」 メリルがケラケラ笑った。 「キミしつこいから、ご主人様に代わってもらった。ぼく、ロミオとジュリエットに興味ないんだよ。辛気臭いんだもん」 「遊びだよ」 イーサンも戸口に現れた。 「さあ、帰って。気がすんだろ。もう来ちゃいけない。われわれも言わない。きみも言わない。これでおしまいだ」 ジェイコブはぼう然とメリルを見つめていた。 メリルは冷かにそれを見返した。 「聞こえなかったのか。帰れ。それとも、金がほしいのか?」 ジェイコブの目に火が宿った。彼はメリルの頬を殴りつけ、身を返して出て行った。 「……ガキめ」 メリルは頬をおさえ、渋面をつくった。 わたしがディータにマッサージを受けている間、メリルはイーサンに叱られていた。 イーサンの計画では、あと何回かジェイコブに通わせるつもりだったようだ。メリルはぶちこわしたのだ。 メリルはいいわけしなかった。返って、イーサンに噛みついた。 「耐えられない。ぼくたちのご主人様だぞ! ぼくたちだけのご主人様だ。あんなやつ、関係ないじゃないか」 「メリル。わたしたちは――」 「うるさい! ぼくはこうなんだ。あんたたちみたいなひねくれたマゾ犬じゃない。あんなやつ、ぼくのご主人様が一瞬でも恋するなんて許さない!」 ドアを閉めることも忘れているようだ。わたしの枕元まで内容が聞こえてくる。 ディータがそっと聞いた。 「あの子、惜しかったですか」 「――」 わたしは枕にあごをうずめ、目をとじていた。 あの太陽の腕はまぶしかった。刹那、自分を忘れることができた。 あれはメリルのものだったからだ。メリルのための贈り物だから味わうことができたのだ。 「犬は三匹で十分。身がもたない」 筋肉をほぐされながら、自然に涙がこぼれた。ディータがそっと顔をよせ、目元にキスをした。 ―― 了 ―― |
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