最終話 |
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子爵のからだはあたたかかった。 冷たい窯に火が入ったように、おれのからだはあかあかと燃えた。 彼の手足はおそろしく力強い。抗えない。 おれは自ら床に這い、尻を高くして彼に服従した。 奥底まで侵されたかった。身のすべてをささげたかった。 彼のペニスをふくんだ時、天地左右がわからなくなった。興奮のなかであがいていた。 頭蓋のタガがゆるみ、涙があふれでた。奥歯が鳴る。胴が震える。 熱い。焼けた木のように硬い。 それがおれのなかで脈打ち、息づいていた。 「は――」 すべらかに突かれ、からだのなかが動転した。最奥を揺るがす重い突きに、ペニスの、乳房の感覚が発火する。火炎が逆巻く。 組織が分解する。骨格が瓦解する。ずっと芯に巣食っていた冷気が蒸発してゆく。 おれは涙で見えない目を瞠いた。 おれは新しい地平にいた。からだの芯に、軸のように熱いペニスが突き通っている。強い指がおれの腰をしっかりつかんでいる。 おれはそこで揺れ、弾み、歓びにおめいていた。流れるように乳房が揺れる。ペニスがおどる。 「ひ、イイ、――ん、アアッ!」 あられもない嬌声をあげていた。大地と空にからだをひらいていた。思念のかけらもない、ただの明るい炎となって吼えていた。 もっと。もっとこのまま。永遠にこのまま。 「アアッ! おお、――アアッ!」 おれはいつしか夢のなかをただよっていた。光と水の夢を見て、無限にひろがっていた。 やさしい指が額に触れていた。永遠にそこにいたような、やすらかな気分だった。 だが、目を開けた時、子爵のからだはすでに離れていた。 彼は窓をあけていた。 おれはあわてて彼の影にすがりついた。 「行かないでくれ。連れて行って。あなたを待ってた。ずっと、あの広場で会ってから。わたしはあなたのものだ」 懇願した。 「置いていくなら、この場で殺せ」 影はふりかえり、見下ろした。 「いまはだめだ」 影は笑っているように見えた。 「だが、次は玄関から迎えにくる。それまで待てるか」 いやだ、とおもった。いますぐ連れていくか、殺して欲しかった。 だが、やさしい手がおれの額に触れた。 おれは泣きながらうなずいた。 「はい……。はい、マスター」 手が髪をくしゃりと掴んだ。 主人は窓から影のように消えた。 交渉は難航している。 飼い主はおれを惜しみ、子爵側と対決する姿勢を見せている。護民官府に訴え、仲間に応援をたのんでいる。 子爵の要求は不利に見えた。 暴行被害を受けたとはいえ、他人の犬を取り上げるのは不当。一般には金で解決するものだ、というのが護民官府の見解だ。 だが、おれはあまり悲観していない。 からだはもう冷えていない。かつてないほど軽い。 世界は変わった。主人間の取り決めに関係なく、おれはもうあのひとのものだ。すでにあのひとの手元にある。 「レオン」 ハゲがベッドから尊大におれを呼んでいる。 おれは顔をあげ、一歩前へ出た。 ―― 了 ―― |
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←第6話 2014.8.6 |
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