第6話

 おれは家に来たメールボーイを殴り、その着衣を奪った。
 町を歩き、ひとにたずね、アキヅキ子爵のドムスを探した。

 こざっぱりした小さなドムスだった。おれは届け物だと言って、地下の入り口で待った。
 この家にどれほど使用人がいるのかわからない。少なくとも子爵はいない。

 おれの狙いはただひとりだった。
 出てきたのは執事だった。彼はおれを見ていぶかった。

「いつもの彼は?」

「サインをおねがいします」

 近づき、みぞおちにしたたかに当てた。執事が腰を折ると、その手を背後にまわし、手錠をかけた。
 そのまま、中に入る。地下からあがり、明るい広間に出ると、裸の男が床に寝そべっていた。
 彼はふりむき異変を察知した。

「――」

 彼はすぐ闘志をみせたが、姿勢が不利だった。おれはそのあごを蹴り上げ、さらに腹を蹴った。

「ぐ」

 それでも長い腕がおれの足を掴もうとする。それをねじりあげ、背後にまわす。その手首と彼の右足首をつかみ、手錠をかける。えびぞりになった腹にさらに蹴りを入れた。

 その時、後頭部に硬いものが打ち当たった。頭蓋にヒビが入るような衝撃に目が眩む。
 細い腕がまきつき、あごを掴んでのどをさらした。

「動くな。切り裂くぞ」

 咽喉に尖ったものが刺さっていた。横目で見ると、黒い目が光り、けわしく睨んでいる。
 あのメイドだ。
 見つけた。

 おれはひねりざま、彼の腹に肘を突き入れた。メイドがひるんで振り飛ばされる。

 だが、その手は包丁を掴んだままだ。
 ばかなやつ。サムライの子孫のくせに、剣の使い方も知らない。

 おれは手近なクッションをつかむと、その包丁に突きこんだ。すぐにその顔を殴り、さらに殴る。数度殴るとメイドはよろめき、倒れた。
 背後で裸の男がわめく。

「くそ、サム! サム、ハスターティを!」

 まだ誰かいる。全員打ち倒すヒマはない。
 おれは気絶したメイドをかつぎ、二階へあがった。




 部屋のドアの前を戸棚で封鎖した時、メイドが意識を取り戻した。
 おれはふりかえり、彼を見下ろした。
 メイドがけなげに睨み返す。だが、事態を覚って蒼ざめていた。

 後ろ手で手錠をかけ、足もまた手錠でひとくくりにしていた。
 おれが踏み出すと、彼は顔をひきつらせ、尻とかかとであとじさった。

「い、いやだ。やめろ」

 一歩一歩追いながら、おれは興奮のなかでぼう然としていた。
 若い、きれいな貌。男らしい眉、まだ幼さの残る黒い眸。健やかな手足。平らな胸。
 この男は健康だった。愛情のなかで飼われ、あたたかかった。

「ッ――」

 おれが襲い掛かると、彼はエビのように飛びのいた。そのスカートを掴み、引き戻す。

「や――」

 スカートをまくると、下着をつけていた。それをつかみ、おろす。
 白い、まん丸の尻が現れた。

「やめろ。ばか! 殺すぞ!」

 ばかばかしいほどかわいい尻だった。小さいが、張りがある、ミルクでできたようなみずみずしい肌。尻肉を掴むと、肛門は清潔に乾いていた。
 腹がカッと熱くなった。しばし絶えてなかった雄の衝動が身のうちに火の手をあげた。

「いやだ。ヘイスティングス! 誰か!」

 メイドは狂ったようにもがき暴れた。跳ね上がって飛びそうだ。
 おれは彼を数度殴りつけた。おとなしくなるまで、殴り続けた。メイドが血を吐いて伸びると、その足の手錠をはずした。
 足をつかみ、大きく開く。その小さな穴に怒張したペニスを押しつける。
 メイドが呻いた。

「……たすけ……ねがい」

 長い睫毛の間から、涙がこぼれていた。

「……たすけて」

 不意に、おれは止まった。剣先をつけられたように動けなくなった。
 あわれとも、無念ともいいがたい、混乱が生じた。

 この犬は死ぬ、とわかった。
 この犬は爪の先まで、あの主人のものだった。
 おれがいくらこのからだを切り裂いても、それは侵せない。おれはあの公園のふたりの調和を破ることはできない。

 一方、それがどうした、とも思った。おれはこの一太刀を残すほかないのだ。もう二度と会えないあのひとに、引っ掻き傷でも残していきたい。

「――」

 身をしずめようとしたが、うまく腰が入らない。
 無力感が覆いかぶさり、動けなかった。

「カオル! カオル!」

 ドアに重いものが打ち当たる音がした。
 誰かが肩で当たっている。下にいた男たちだろう。もうすぐハスターティがくる。
 おれはメイドの上から降りた。窓をあけ、中庭に飛び降りた。



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