産卵



 常夜灯の照らす裏庭にいたると、あなたはミハイルにあごで芝生を示した。
 夜闇のなかでミハイルが一瞬、悶えるのがわかる。
 白いガウンの下は素裸だ。そして、彼の腸はいくつもの白い陶器の玉で張り詰めていた。

 ――ここで。

 ここで卵を産むのだ、と命じると、ミハイルはうつむいた。そして、そろそろとガウンを脱ぎ、見事な裸形をみせる。

 この犬はあなたの命令に逆らうことはない。だが、恥ずかしくないわけではない。
 芝生の上にしゃがみこむと、雄偉な肩に隠れるように首をすくめる。

「……」

 いきむ声もためらいがちだ。邸内の仲間を恐れ、素肌が緊張している。
 ミハイルは暗闇のなかでしばし沈黙した。

「ん、ふ」

 白いものがわずかに出かかっている気配がした。
 あなたは笑い、ストップ、と止めた。四つんばいになって、尻をもっと高くさしあげるように。常夜灯の光に尻を向けるように。

 ミハイルはかなしげにあえいだ。だが、素直に手で芝をつかみ、ひざをつく。
 男らしいがっしりした腰、美々しい尻肉が白い光を受けて浮かび上がった。その中心の穴は濡れ、白い卵がなまなましくせりあがっていた。

 ミハイルの肩がかすかに震えているように見える。
 あなたの視線を感じて、身悶えている。

 彼は犬になろうと、決めている。ご主人様の命令がどんな破廉恥なものであれ、喜んで奉仕する。あなたを愉しませるためなら、自分のプライドは押し込め、恥知らずの犬であろうとしている。

 そうはいえ、元来保守的な男だ。他人の目を思えば、わが身のおそるべき痴態にすくみ、ふるえる。
 そこがあなたにはかわいかった。

 あなたは尻の穴から出かかっている卵をそのままに、彼の睾丸をつかんだ。

「!」

 ひるむミハイルに、卵を出さないよう命じる。睾丸を揉み、ペニスを握り、四指を動かす。

「ア、く」

 尻穴に卵をはさんだまま、ミハイルは手いたずらに悶えた。
 手のなかのペニスはにわかに熱く太り、芯をおびていく。すぐに指が露に濡れる。

「ハッ、ご、しゅ……はあっ」

 大きな尻が揺れる。その中心でいまにもこぼれそうな陶器の卵が濡れて光っている。
必死に尻をしぼって、とめているはずだ。だが、卵はなかば飛び出している。粘膜はひらききっている。

 熟れきった肛門の感覚とペニスの激しい快楽に苛まれ、ミハイルの腰はおどった。

「ハアッ、アアッ」

 手の中でミハイルのペニスが跳ね上がった。精液が鋭く飛ぶ気配がした。

「……!」

 ミハイルの骨組みから熱い蜜が気化していく。それは肛門の筋肉をも弛緩させ、卵を取り落とした。

「ア、ア」

 狼狽するミハイルの尻から、また卵が肛門をまくりあげて生まれ、落ちる。つづけて、粘膜がふくれ、卵が生まれては、落ちた。

 四つ目の卵が顔をのぞかせた時、あなたは笑った。いいつけを守らない、恥ずかしい尻。それをとがめ、ひとさし指で出掛かった卵をおさえた。
 なじろうとした時だった。夜闇のなかから声が響いた。

「そこに誰かいるのか」

 闇が蝋のように固まった。
 ロビンだ。警察犬が裏庭の不審な気配を嗅ぎつけたのだ。
 ミハイルの白いからだが凍っている。彼は全裸だ。しかも尻にはバカげた陶器の卵をはさんでいる。

「誰だ」

 ロビンの声が低くなった。すぐにも警棒を持って、乗り込んできかねない。
 あなたは、自分だ、と陽気に答えた。散歩だから気にしないよういった。

 言いながら、なお指で、ミハイルの尻穴に卵を押し込める。硬くなって卵が動かないのがおかしい。
 ロビンは何かいいかけたが、別の声が彼を呼んだようだ。彼は邸内に戻っていった。
夜闇に沈黙がもどった。

 あなたがふりかえると、ミハイルは頭を抱え、ちぢこまっていた。消え入りたいとばかりに丸くなり、芝生に張りついている。その尻にはやはり滑稽な白い卵が突き出ていた。

 あなたは笑い、彼の前にまわって、その頭を抱き寄せた。
 大型犬は泣くようにあなたに飛びついた。あなたの腹にもぐりこまんばかりに、しがみついてくる。

 大きな裸の背さえ、ほんのり赤くなっているようだ。
 こんな男が恥知らずの犬になどなれるはずがない。また、そんな犬はあなたには必要なかった。

 その顔にふれると果たして熱かった。あなたは火のようなその頬をはさみ、かわいい愛犬に口づけた。


              ――了――




ほかの部屋へ行く          もう少しミハイルと遊ぶ


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