添い寝



 誰とも口を利く気になれない。
 犬を抱く気分ではない。なぐさめでさえ、欲しくない。
 そんな日があるものだ。

 そんな日にふらりと足がむくのは、ミハイルの部屋だ。

「ご主人様――」

 ミハイルはあなたの訪れによろこび――そして、一目で察した。
 彼は、どうぞ、とあなたをベッドにいざなった。

 清潔なシーツがピンと張ったベッドに、あなたを座らせ、自分は屈んであなたの靴を脱がせた。

 重い靴がとられ、靴下が剥がされる。上着が脱がされ、締め付けていたネクタイが抜き取られる。

 あなたは幼児のようにされるがままに、衣服を脱がされた。かわりに洗い立てのパジャマが着せられる。

 この犬は何も要求しない。抱いてくれとせがむことはおろか、礼の言葉ひとつ期待していない。
 ただ、あなたが疲れにもかかわらず、自分をたずねてきてくれたことを喜んでいる。

「オシボリです」

 バスルームから湯をしぼったタオルをもってきて、あなたに渡す。

 CFで犬仲間から仕入れた知識だろう。熱々ではないが、顔と手をぬぐうと少しさっぱりする。その間にミハイルはあなたの足指をひとつひとつあたたかいおしぼりでぬぐっていた。
 顔と手足の汗がぬぐわれると、ようやく服を脱ぎ、素顔にもどった感覚になる。

「ナイトキャップをなにかお持ちしましょう」

 ミハイルが出ていこうとするのを、あなたは止めた。

 ベッドに倒れざま、ミハイルも引き倒す。もう、なにもいらない。ただ眠りたいだけだ。
 あなたは枕に頭をしずめ、目をとじた。

 ミハイルがそっと上掛けをひっぱりあげ、あなたの肩にかぶせる。
 明かりが消される。

 暗闇のなか、あなたは眠りを待った。からだはだるいが、頭の一点がなかなかゆるまない。疲れているのに寝つけない。

 やがて、暗闇のなかに規則正しい寝息が聞こえた。
 寝息とともに、ミハイルの大きなからだがかすかに揺れている。

 あなたは思わず微笑んだ。
 この犬は以前、あなたの隣ではほとんど寝なかった。番犬のように目を覚まして、一晩中じっと動かず、時を過ごしていた。

 だが、あなたは彼にも眠るように命じた。ただいっしょに眠りたい日があるのだと。セックスぬきに、動物の子のようにただ互いのぬくもりを感じて眠る。そんなことに癒される日もあるのだ。

 ミハイルのしずかな寝息がきこえる。
 昼間CFでからだを鍛えて疲れているのだろう。健康な、安らいだ寝息だ。
 すこやかな寝息をきき、あなたの体内でもスピードがゆっくりと落ちていった。

 ようやく思考が溶けていく。心地よいまどろみが訪れる。
 あなたは大きな、あたたかいぬいぐるみに寄り添い、意識をとじた。


              ――了――




ほかの部屋へ行く          もう少しミハイルと遊ぶ


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