和菓子



「ご主人様、これ日本の」

 ロビンが得意げに見せた大きな缶のなかには、行儀よくつめられたおかきの袋が入っていた。

「注文したんです。ご主人様、お好きでしょう?」

 特に大好きというわけでもないが、たまにはいいものだ。あなたはロビンのもてなしを受けることにして、緑茶を淹れるよう命じた。




 急須と湯のみを盆にのせ、ロビンが戻ってきた。

「甘いのも調達しました。イタリア製ですが」

 盆には、黄色い小さな芋ようかんがのっていた。アルフォンソの手作りらしい。

「きらいだったら、おれがいただきますからご安心を」

 そう笑いつつ、ロビンは小さなガラステーブルに湯のみをセットする。急須にはすでに茶も湯も入っていた。

 淹れ方はデリカシーに欠けたものだが、日本茶の香りはいいものだ。あなたは湯のみをかたむけ、やさしい緑の味わいを楽しんだ。

「うん。これいける」

 先にひとつつまみ、ロビンがあなたにおかきを勧める。

 おかきにはいろいろな種類があった。エビ入り。ピーナツ入り。海苔巻き。青海苔入り。ウニ味。小型の草加せんべい。小型のゴマせんべい。

 あなたは塩味のをひとつをとって、口に放り込んだ。
 小さなおかきが砕け、頭蓋に小気味よい音が響き渡る。舌に心地よい塩味がひろがった。旨みのあるやさしい塩味だ。

 熱い緑茶で流し込むと、自然とため息がもれた。
 やはり、からだになじむ。からだが楽だ。

「これはうまい。こっちはおれ苦手だな。これなんだ? 赤いの」

 ロビンはすでにひとつひとつ味見している。
 濃い味に慣れた彼には物足りないだろう。
 だが、楽しそうだった。故郷の味が、あなたの目をなごませたのを見て、よろこんでいた。

 あなたは愛犬のたわいないおしゃべりを聞きながら、おかきをつまんだ。
 バリバリと音をたてて咀嚼し、茶をすすっていると、どこにいるのか忘れる。
 舌がやすらいでいる。茶の香りに、からだがくつろいでいる。

 気づくと、ロビンがニヤニヤ笑ってみていた。

「ご主人様、うまそうに食べて――。かわいいな」

 面食らって彼を見返すと、ロビンはあわてて小皿をすすめた。

「こっちも食べてください。アルの。これね、芋なんだそうですよ。芋をマッシュしたんだって。すんごくおいしいですよ!」


              ――了――




ほかの部屋へ行く          もう少しロビンと遊ぶ


TOPへもどる⇒

Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved