2010年10月1日〜15日
10月1日 アキラ 〔ラインハルト〕

 おれは頭を抱えている。

 主人からの嘆願でJCは解放された。主人の運動で解雇処分さえ留められ、半年の停職と減俸で済んだ。(イアンも減俸)

 イアンはJCの罰が軽くて、喜んでいるが、残された人間の前にあるのは8人体制という地獄の事態だ。

 おれはイアンに人を入れるようマジ進言した。だが、

「会議でそれが言えると思うか、いま」

 イアンは勘弁してくれ、と言った。

「ほとぼりが冷めるまで陳情はできない。8人でがんばろう」

「いつ言うんですか」

「誰か倒れたらだ」

 いやだあああ!


10月2日 フミウス 〔家令〕

 実りの秋でございますね。

 マロングラッセやスイートポテトなんて楽しみのほかに、サンマなぞ七輪で焼くのもオツでございます。

 ファビアンに

「文化は食からという。きみも日本のお得意さんが多いことだし、サンマの味というものを知るべきだ。今度、うちへ来ないか。サンマでも食べに」

 と誘ったのですが、

「……きみが作って、招待してくれるなら行くが、行って作らされるのはごめんだ」

 牽制されてしまいました。
 ……サンマ苦いかしょっぱいか。


10月3日 アンディ 〔フィルゲーム〕

 うちのジルはひねくれもので意地悪だ。CFでもよく諍いをやらかす。
 海賊ゲームで競い合ったエリックとも、しょっちゅう睨みあっている。

 もっともジルは彼ほど人望がない。というより、おれしか子分がいない。

 でも、ジルは時々、キッチンで飯を作る趣味がある。それがけっこううまいんだ。

「弟や妹に作ってやってた。誰も作らねえから」

「おふくろさん、何やってたの」

 ジルはつまらなそうに

「淫売――みてえなもんだ」

 言うなり、足を蹴り

「なれなれしく立ち入ったこと聞くな!」


10月4日 直人 〔わんごはん〕

 ご主人様は客好きな方です。
 日本の方にかぎらず、よくお友だちをドムスに招かれます。

 料理はお客様のお年やお好みに合わせて作るので、急なお招きだと大変です。
 先付を作りながら、材料の注文をしていることもあります。

 でも、ご主人様やお友だちの楽しそうな笑い声を聞きながら、刺身を引いたり、煮物の味を見ていると、気持ちが充実しますね。

 料理を出して、ヒマになった時、ふと玄関にたくさんならんだ靴を見て、なんだかうれしくなってしまいました。


10月5日 セイレーン 〔わんごはん〕

 CFで日本の犬がライスを玉にして食べていました。

「いかが」というから、食べたら、栗が入っていて美味しかった。
 クリゴハンというものだそうです。

「日本の料理?」

「そうだね。この季節には家庭でよく作るよ」

 ぼくはひとつもらって帰りました。ご主人様に食べさせると、うまい、なつかしい、と言って涙をながさんばかりでした。
 ぼくのディナーを食べる時とは褒め方が違います。

「もっとないのか」

 ぼくは嫉妬でムカムカしてしまいました。よし、次はクリゴハンを作ろう!


10月6日 セイレーン 〔わんごはん〕

 日本の犬にクリゴハンの作り方を教えてもらいにいきました。
 でも、その犬は

「きみはピアニストだから、栗を剥くのはよしたがいい。剥いてある栗を使うか、ほかの人に剥いてもらいなさい」

 それは道理です。ご主人様も指を切るようなら、料理はもうさせない、と言っています。

 コックに剥いてもらうことにして、大量に栗を買って帰りました。
 ところが――。

 コックに、今日は休暇をとっていい、と言ったのを忘れていたのです。

 しかたない。栗は剥かないでそのまま入れて炊きました。


10月7日 アンディ 〔フィルゲーム〕

 ジルはテレビドラマが嫌いだ。
 おれが罪のないアメリカのコメディを見ていると、勝手にスイッチを切る。

「くだらねえもん見るな」

 まったく横暴なやつだ。でも、へそをまげると怖いから、おれは黙って自分の部屋にいく。
 ある時、ビセンテがめずらしくおれに言った。

「あのコメディ、やつのママンが出てるんだ」

 おれは驚いた。
 そういやあの女優とジルはそっくりだ。あんな幸せそうな女優が……。

 先日、ご主人様が帰って来てあのコメディを見ていた。
 おれはジルのかわりにスイッチを切った。


10月8日 アキラ 〔ラインハルト〕

 人の間には、間合い、というものがある。
 武士ならば刀が届く範囲には人を近づけないものだ。今風にいうなら、パーソナルスペースか。

 イアンはこの幅が広い。笑ったり、冗談を言っていても、なんとなく距離をとる。

 ところが、ラインハルトときたら、いつのまにかするっと傍に寄っていたりするのだ。

 最初は皆、あの美貌と威厳でビビらされる。だが、そいつが「元気かい」なんてガキみたいに首に腕をまわしてくると、男どもはふにゃっとなっちまうんだ。

 ちくしょう。


10月9日 ルイス 〔ラインハルト〕

 アキラがパブでまたラインハルトの話をしていました。
 あいつも賢いようで、バカです。あのふたりが別れるわけないのに。

「ほかにいいやつ見つけろよ。きみなら引く手あまただろう」

「やだよ。あいつら人に乗りたがるじゃねえか」

 ……まあ、そうですが。

 おれはちょっと言ってみました。

「おれなんか、どう?」

 アキラは、ばあか、と一蹴しました。

「ステファンに殺されるよ」

 ステファンには遠慮するのに、ウォルフには遠慮しないのかい。


10月10日 ルイス 〔ラインハルト〕


 第四のステファンとはけっこう長いつきあいです。
 前はそれなりに楽しかったんですが、最近はなんか――。

 お互いにリスペクトがなくなっているんですよね。
 おれは浮気はあんまりこだわらないんですが、金借りに来られるとさすがにげんなりします。

 彼はちょっとトラブルに巻き込まれて減俸になったんです。アフリカのある村に学校を建てるつもりで金貯めているんで、けっこうきりつめた暮らしをしているんですが。

 そういう夢のあるところ、前は好きだったんですがね。


10月11日 ルイス 〔ラインハルト〕

 ステファンは旅好きです。

 はたちの時、大学をやめて、世界中をバックパック背負って歩いたそうです。いろんな場所で親切なひとに会い、またたくさんの悲惨な世界を見たそうです。

「おれは旅行記を書いた。少しは彼らのことが知られて、善意が集まればいいと思った」

 その旅行記はそこそこ売れたそうですが、ちっぽけな印税の寄付ではなんの風も起こらなかったそうです。

「教育がいるんだよ。チャンスをつかめるだけの基礎体力が」

 おれは夢のない男なので、こんなやつが珍しかったのです。


10月12日 ルイス 〔ラインハルト〕

 おれはステファンとは逆に一箇所に落ち着きたい人間です。

 親父がギャンブラーで、チビの頃は学校には行かず、あちこち親父についてまわっていました。
 親父がチンピラに撃たれて死んでからは、親戚の家をたらいまわし。

 だから、ヴィラで金を貯めたら、自分だけの家をドンと建てて、穏やかに釣りでもして暮らしたい。

 でも、ステファンはそんなおれに哀れむように言いました。

「そんなのすぐ飽きるさ。人間、自分のためだけに生きることはできないもんだぜ」


10月13日 ルイス 〔ラインハルト〕

 ステファンはお金が嫌いです。

「この金という愚にもつかないアイディアのために、どうして全人類がみじめな思いをしなきゃなんねんだ」

 一方、

「ああ、おれは死ぬほど金が好きだ。それがイヤだ」

 酔っ払って100ドル札を窓から撒いたこともあります。おれが金にこだわりすぎるといって、非難します。

 でも、おれには金は大事です。金があればこそ、屋根のある場所に住んで、ひもじい思いをしなくて済みますから。

 そういえば、この話題でステファンとアキラが喧嘩になったことがありました。


10月14日 ルイス 〔ラインハルト〕

 アキラとステファンと三人で飲んでいた時のことです。
 ステファンがまた未開の村の学校の話をした時、アキラは、

「そんな学校いらないんじゃないか」

 ステファンはムッとして、

「やつらにいつまでも貧しいままでいてもらいたいからか」

「貧しくたっていいじゃないか。幸せそうだぜ。日本を見ろ。誰も餓え死にはしないが、幸福度は低いわ、自殺率は高いわ――やつらに勉強させて、週40時間働かせて、何がいいんだ?」

ステファンは激怒しました。


10月15日 ルイス 〔ラインハルト〕

 ふたりは貧困について口論になりました。

 ステファンのほうが正論には違いないのですが、おれはアキラの言葉を新鮮に感じました。
 最後にステファンは「おまえは本当の飢餓を知らないから言えるのさ」と席を立ちました。

 アキラはおれに、ボーイフレンドを怒らせてすまなかった、とあやまりました。

「気にするな。あいつだって、腹を減らしたことなんかないのさ。それがうしろめたいだけだ」

 言ってから、おどろきました。おれはステファンの正論がけっこううるさかったんだ、と気づきました。


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