2010年12月1日〜15日
12月1日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 アルバイトがはじまった。

 農場の簡単な作業だ。行ってみて安心した。

 まわりの犬たちが、ご主人様とクリスマスを過ごす幸せなやつばかりではなかったからだ。おれと同じようにクリスマスにひとりで過ごす犬も多い。

「親切なメイドにプレゼントをあげてもいいしね。クリスマスなんだからさ」

 もちろん、幸せいっぱい、のろけいっぱいの迷惑なやつもいる。

「彼はおれにトレーニングマシン一式買ってくれるって。おれは何を贈りゃいいんだ」

 よく見ると、あいつだった。あの小僧だ。


12月2日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 あの小僧のはしゃぐ声は畑によく通った。

 旦那がああしてくれた、こうしてくれた、とノロケが止まらない。おれは土から根をよりわけながら、すっかりブルーな気分になっていた。

 なんでこんなことしているんだか。
 旦那はあいつに夢中なんだ。おれが何か贈ったって、うっとうしいだけじゃないのか。

 途中で帰ろうと思ったが、あいつの目を引くのもイヤだ。我慢して土をほじっているとそばにいたやつが呟いた。

「あのガキ。うるさいな」

 ほかのやつも言った。

「おれなんかさっきから泣いてる」


12月3日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 今日は遅れてアルバイトに行った。

 本当は行くのはよそうと思った。あの小僧の顔は当分見たくないし、ほかのさびしい連中といっしょにいるのもみじめだ。

 だが、CFにいるとアルがまた声をかけてきた。

「バイトはどう?」

 おれはついぽろっと言ってしまった。

「旦那の新しいワン公が来てんだ。うんざりさ」

「ああ、あの地下の子ね」

 アルの言葉におどろいた。地下? あんなハンサムなのに?

「地下にいて病気になって、殺されそうになっていた時、ご主人に救われたんだって言ってたよ」


12月4日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 アルバイトに行った時、畑にあいつはいなかった。
 ちょっと拍子ぬけの気分で持ち場に入ると、まわりのやつが言った。

「あのうるせえの絞めてやったよ」

 おれは見返した。なんだって?

「おめえも犯りてえなら、用具倉庫の二階に行ってみな」

 おれはおどろき、駆け出した。

 用具倉庫の二階にやつはいた。
 カカシみたいに頭に袋をかぶせられ、裸で縛られて転がされていた。

 肛門には鋤の柄が刺さり、まわりには失禁の痕がひろがっていた。


12月5日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 彼はみじめに泣いていた。
 おれは彼から縄を解いてやり、ズボンをさがしてやった。

「訴えたりするなよ。おまえもひでえことをやってんだぜ」

 彼は顔を覆って泣いていた。

「うるせえ! こんなのなんでもねえ!」

 肩がふるえていた。たくましい、男らしいからだがつくりもののように、むなしく見えた。 おれは彼をスタッフのところに連れて行った。

「気分が悪いそうです」

 彼は去り際、少しもの言いたげにおれを見た。おれは急いで持ち場に戻った。


12月6日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 畑の連中には、あれは自分の旦那の犬だと教えた。手出ししないでやってくれ、と頼んだ。

「手出しするよ。また来たら、今度は埋めちまうかもな」

「おたがいにワン公なんだ。少し我慢してやってくれ」

 なんでこんなことをおれが頼んでいるのか。アホらしい。あいつはドムスに帰れば、旦那が慰めてくれるのだ。怪我した尻に軟膏を塗って、ついでにアンアン楽しませてくれるのだ。くそくそくそ! 

 だが、我慢してやるさ。地下にいてずっと怖い思いをしていたなら。少しぐらいいい思いさせてやる。


12月7日 キース 〔わんわんクエスト〕

 今日でアルバイトは終わりです。
 給料は3万セス。ノンアルコールワインとお菓子、きれいなカードセットをもらいました。

 おれたちは帰り道、上機嫌でした。この3万で、みんなへのプレゼントが買える。ご主人様へのプレゼントが買える。とっても誇らしい、ゆたかな気分です。

「あの」

 呼び止められて、ふりむくと若い男が言いました。

「これ、アルフォンソにあげたい」

 ティノという、以前アルと刃傷事件を起こしたイタリアの若いやつでした。彼はもらったばかりの給料袋を差し出しました。


12月8日 キース 〔わんわんクエスト〕

 ティノの英語は早口の上、間違っているので、わかりにくいのですが、アルにクリスマスプレゼントを贈りたいようなのです。

「自分でプレゼントを買って贈りなよ」

「ダメ。わたしのダメ。キースが贈る。キースの金合わせる。キース、アルにプレゼント贈るでしょう?」

 おれがアルにプレゼント贈る時の足しにしろというのです。

「それはできないよ。自分で贈れよ」

「ダメ。アル、困るから」

「困らないよ。よろこぶよ」

「わたし困るよ。それイヤ」

 ティノは気づかれずに贈りたい、というのです。


12月9日 キース 〔わんわんクエスト〕

 彼は英語のできる友人を引っ張ってきて、通訳を頼みました。

「ティノはアルに振られたんだって」

 そいつは言いました。

「アルのことはあきらめたけど、まだ好きなんだって。でも、彼には好きだと気づかれたくない。――ええと、今は友だちになったから。でもプレゼントをこっそり贈りたいんだってさ」

 ティノは真っ赤になってすまなげに見つめています。

 ややこしいやつです。でも、気持ちはわかる。

「じゃあ、匿名にしなよ」

 おれは言いました。

「黙ってもみの木の下に置いてあげるから」


12月10日 キース 〔わんわんクエスト〕

 ティノは納得して、給料を持って帰りました。

 アルにはほかにもファンがいます。カードや小さいプレゼントをもらって帰ることもあります。

 だから、あんなややこしいことせずとも、と思いますが、おれにもそういう気持ちはあるから責められません。

 おれもご主人様にいろんなことしてあげたい。喜ばせたい。でも、そのことに気づかれるのは恥ずかしいのです。
 お礼とか言われたくない。

 ティノの背中がはずんでいて、かわいかったです。


12月11日 ティノ 〔犬・未出〕


 アルに何贈ろう? 
 毎日、イントラネットで品物を見て迷っています。

「バスローブは?」

 いっしょに住んでいるジャン・ルカが言いました。

「『シャンパン』で人気らしいよ」

 ぼくはすぐにCFのバスグッズ・ショップ『シャンパン』に駆けつけました。しかし、なんたること! もう売り切れていたのです!! 

 しょんぼりして帰ろうとすると店員さんが「こちらのコロンも人気ですよ」と勧めました。

 素敵です。男らしい清涼感とセクシーさがすごくアルに似あいます。

「三万三千セスです」 

 へ? 予算足りないんですけど。


12月12日 ティノ 〔犬・未出〕

 アルにあのコロンを贈りたい。ぼくは店員に訴えました。

「三万しかないんだ。アルバイトをして稼いだお金全部なんだ」

 アルがどんなに素敵なやつか店員に話しました。ぼくがとち狂って彼に怪我させたことも。
 となりでジャン・ルカが呆れてましたが、ぼくは必死でした。

 でも、店員は

「わたしからのプレゼントです」

 といって三千セス、値引きしてくれました。

 幸せ気分の帰り道、ジャン・ルカが言いました。

「おまえ、ご主人様には何もしないの?」

 ぼくは彼に笑いかけました。

「貸して、お金」


12月13日 エリック 〔調教ゲーム〕


 SBS(イギリス海兵隊特殊部隊)のロニーが最近上機嫌なので、何かあったのか聞いた。
 彼はとぼけたが、じつは話したくてしょうがなかったらしい。

「じつは、クリスマスに里帰りするんだ」

 帰って、世界一いとしい女に会ってプレゼントを渡してくるのだと言った。

「ビールもしこたま飲んでくる。急性アルコール中毒で死んじゃうかもな!」

 がはは、と笑う。

 おれはちょっと動揺した。
 叔父が死んで、おれには帰る家はない。

 軍籍はもうないだろうし、会いたいような女友だちもいないけど。

 ちぇ。今日はたくさん走ろう。


12月14日 エリック 〔調教ゲーム〕

 昨日の晩、めずらしくロビンがやってきた。

「寒いね。今日、こっちで寝ていい?」

 ええ? 
 ものすごくビックリした。
 アルならともかく、ロビン? 

「なんか寒くて、人恋しくてさ」

 ロビンは勝手に毛布にもぐりこんで、アルバイトの話をする。

 おれはどぎまぎした。
 ……ロビンは、ロビンは、アルと同じことしちゃいかんだろう。

 だが、彼はそのまま熟睡してしまった。
 おれはそろそろとその隣に入った。

 毛布があたたかい。となりに彼のからだをなまなましく感じた。
 ダメだ。やっぱり!


12月15日 フィル 〔調教ゲーム〕

 エリックが風邪を引いたようです。
 あの男は扁桃腺が弱いようで、頑丈そうに見えてすぐ風邪をひきます。

 「おれのせいだ」とロビンが苦笑しました。

 エリックが寂しそうに考えこんでいたので、アルの真似をして彼のベッドにもぐりこんだのだそうです。

 しかし、エリックはベッドに入りませんでした。朝、彼は居間のソファで毛布をかぶってくしゃみしていたそうです。

「おれ、アルよりやらしく見えるのかな」

 とロビンは首をかしげています。


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