2010年11月16日〜30日
11月16日 マシュー 〔犬・未出〕

 ギャビーの鞭傷の熱でへたばっていました。ほとんど飲まず食わずで拷問されていたようです。

「バカが、くだらないことをしやがって」

 次は面倒見ないぞ、と叱ると、やつは

「悪かったな、バカで!」

 急にヒステリーを起こしました。

「どうせ、おれは下等なコソ泥だよ。高尚なお茶の時間には混ぜてもらえない低脳だよ」

 やつが盗もうとしたのは、わたしが好きなジョットでした。
 わたしにいばりたかったのか、ほめられたかったのか。

 泣きべそをかいているやつの顔は、若くて、無知で、みじめでした。


11月17日 マシュー 〔犬・未出〕

「CFには行くな。そんな傷だらけで」

「いいじゃねえか。うちの旦那の趣味ってことにすりゃ」

 ギャビーは若いだけに熱が引くと、すぐに元気になりました。

 ハスターティが何も言ってこないところを見ると、例の主人も黙っているようですが、用心にこしたことはありません。

「とにかく一週間はじっとしておけ」

「一週間も?!」

「授業してやるから」

 ギャビーはきょとんとしました。

「なんの」

「贋作の見分け方だ」

「……それ、いいね」

 はにかんで笑ったやつの顔はたしかに女神に似ていました。


11月18日 セイレーン 〔わんごはん〕


「これ作ってくれ」

 ご主人様が渡した箱を見て、ぼくはむっとしました。ケーキミックスです。

「またバカにして」

「バカにしちゃいない。そいつが食べたいんだ」

 しかたなく、ぼくはパンケーキを作りました。

「うまそうに焼けたじゃないか」

「出来あいの褒めてもらってもうれしくありません」

「そうかい」

 ご主人様はむしゃむしゃ食べました。でも、ちょっとさびしそう?

「これな。おふくろがよく焼いてくれたんだ。あったかくてふかっとして、疲れると喰いたくなるのさ」

 ぼくはもっと焼くことにしました。


11月19日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 アルはエロいやつですが、彼がセクハラしない相手がひとりだけいます。キースです。

 口ではエロいことを言っても、彼にはタッチしないことを発見してしまいました。

 こうしてみると、あのスケベは好き放題しているわけではないのだなあ。

 夜、ベッドに入り込んでくるのも、おれはじつは嫌いじゃありません。
 ただ寝るだけで、べつにセクハラもしないし。

 涙が出そうな気分の日は、ちょっと背中をくっつけて寝るととても落ち着くのです。



11月20日 フィル 〔調教ゲーム〕

 カフェにいると、時々変な相談をもちかけられます。
 逃亡の方法を聞きにくるのです。

 ぼくはどちらかといえば、無礼に報いるために遊んでいたのであり、また、捕まった後は相応の罰を受けています。

 パテルの庇護がなければ、とっくに手足を切り落とされていたはずです。
 しかし、彼らはリスクは恐れないと言い張ります。

 わけを聞くと、ご主人様が浮気したとか、帰ってこないとか、甘ったれたことを言います。

 うっとうしい。全部アルに投げてしまいます。
 クリスマスが近いと感じますね。


11月21日 ジャコモ 〔犬・未出〕

「いい子にしてないとサンタさんは来てくれませんよ」

 孤児院の尼さんの冬の脅し文句を思い出す。

 いい子にしていても、今年は旦那は来ない。新しい犬を買ったからだ。

 半年前に買ってから、もうほとんどきてくれなくなった。おれになじられるのがイヤなんだろう。

 気持ちはわかる。むかし、おれも二股かけたことはあるからね。

 彼女は何も言わなかったが、悲しんでいるのはわかった。向こうが正しいだけに、それは面倒くさいものなんだ。

 今のおれの状況は、あの子の呪いはじゃないのかな。


11月22日 ジャコモ 〔犬・未出〕

 旦那の新しい犬はCFに来ている。金髪のかわいいやつだ。
 おれよりたくましい。おれより若い。

 彼もおれの存在を知っていた。だが、無視していた。

「あの子が喰いたい?」

 おれの視線をたどって、友だちがからかった。

 喰う? それは考えなかったアイディアだ。

 やつを食ってしまったらどうだろう。旦那はおれに罰を与えるだろうか。それとも、少しは人の気持ちをわかってくれるだろうか。

 友だちは舌なめずりして、

「喰うなら協力する」


11月23日 ジャコモ 〔犬・未出〕

「やつを喰っちまおうぜ」

 せっかくの申し出だが、おれは友だちに断った。
 喰うどころか、焼き殺したいぐらいの相手だったが、おれにもプライドはある。

 あの犬に嫉妬を哀れまれるぐらいなら、死んだほうがマシだ。

「それより、おまえのほうがいいよ」

 おれは冗談めかして友だちの尻を撫でた。

「あっちいって遊ぼうぜ」

 友だちの肩を抱いて、引き立てながら、おれはあの小僧を意識した。

 わざと見せ付けていた。ちょうど彼女がわざと男友だちの話をして、モテて困るふりをしたように。


11月24日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 アルバイトの募集が来て、ロビンたちがよろこんでいます。

「今年は何買おう」

 やっぱり男ってのは、好きな相手に何か与えたくてしょうがない生きものみたいです。 わたしはやりませんが。(笑)

 でも、CFの子たちにはアルバイトを勧めますよ。最近、浮かない顔をしているジャコモにも言いました。

「アルバイトしたお金でプレゼント贈ったら?」

「贈ったって、旦那は帰ってきやしないさ」

「帰ってくるために贈るんじゃない。贈りたいから贈るんでしょ」

 ジャコモはちょっと考えたようです。


11月25日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 最近、ミハイルがあやしいのです。
 夕食後、テレビも見ないで部屋にこもっているのです。

 エリックがマシンを使わせてもらおうとドアを開けたら、鼻先で閉められてしまいました。
 アルは「エロいビデオを堪能しているに違いない」などと言います。

 エリックは「またクリスマス病か」と心配しています。

 フィルは何やってるのか、ズバリ聞いていました。
 答えは「ちょっと遊んでいるだけだ」

 しかし、たまにむすっと不機嫌そうな顔で出てくるのです。エロビデオじゃなさそうです。


11月26日 マキシム 〔クリスマスブルー〕

 クリスマスのアルバイトに応募した。
 ヒロも誘ったが、

「ノー。せっかく養われてるのに、何が悲しくて労働せにゃならんのだ」

 ちょっと残念だ。
 おれにクリスマス・プレゼントくれないのかな。日本人はクリスマス関係ないのかな。

 ナオとカフェでそんな話をすると、

「ヒロは今、フォルムのほうに行きたくないんだよ」

 農場に行く送迎バスが地下のフォルムのほうを通るらしい。つらい暮らしをしている仲間を思い出すからイヤなのだという。

 そうなのか。あんまり言わないから気づかなかった。


11月27日 アンディ 〔フィルゲーム〕

 クリスマスのアルバイトに応募した。

 ジルはわらった。

「また、いじめられんなよ」

 ちょっと不安だ。クリスマス時期は機嫌の悪いやつが多い。へんなとばっちりを受けるかもしれない。

 でも、ご主人様にプレゼントを贈って、クリスマス気分を味わいたい。ジルやビセンテにもクリスマスくらい何か贈りたい。

 たぶん、キースも登録する。いじめられそうになったら、キースのそばにいればいい。彼はやさしいから。

 でも、気づくとジルも登録していた。

「家にいても、ヒマだからな」


11月28日 ジル 〔不貞〕

 去年の今ごろだ。

 おれは地下で陰気な顔をしていた。クリスマスが近くて憂鬱だった。
 地下にいて四回目のクリスマスだ。薬殺が近いと感じて、つらかった。

 客は抱くだけ抱いて

「きみはハンサムだ。すぐ買い手がつくよ」

 といって消えた。

 誰も買わなかった。
 おれはかわいい人間じゃない。

 チンピラだ。薄情な、ろくでなしだ。おれだって、おれをそばに置きたくない。

 だが、クリスマス直前、サー・コンラッドがぱっと見て、おれを買った。
 
助かったが、正直、こいつは損をした、とも思ったものだ。


11月29日 ジョシュ 〔犬・未出〕

「クリスマスには戻るよ」

 ご主人様はそう言って、アメリカに帰国されました。

 目が悪くなってから、ずっとヴィラにこもっていたので、本当にひさびさです。

 ご主人様がいなくなり、ぼくはからだの半分がなくなったみたいにぼう然としてしまいました。

 このむなしさはなんでしょう。誰にも必要とされていないみたいです。
 庭の花をいじっていても泣けてきます。

「アルバイトをしたら?」

 アクトーレスがアドバイスしてくれました。

 ご主人様に何を贈ろう、と思うとまた不思議と元気が出ました。


11月30日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 シチリアのボスからボイス・メールが入っていた。

『12月24日、一日休暇をとれ。でないと離婚だ』

 おれは返事をいれておいた。

『残念だ。よいクリスマスを』

 ボスからの返事。

『半日でよい』

『ご期待に添えず申し訳ない』

『五時間ほどでは?』

『一時間』

『三時間!!!! これ以上の譲歩は不可能!!!!』

 なんでクリスマスに会わなければならないんだ。寝るなというのか。

 だが、おれは思い直した。

『わかったよ。来るのを楽しみに待ってる。ありがとう』

 要注意犬が一匹増えたと思えばいいさ。


←2010年11月前半          目次          2010年12月前半⇒



Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved