2010年6月1日〜15日
6月1日 家令フミウス

 6月ですね。ここアフリカは乾期に突入しております。

 陽射しも強いので、ドムス・レガリスなどの施設では、中庭にサンシェードがかけられています。

 わんちゃんたちの肌を若々しく保つための措置です。でも、紫外線というのは殺菌作用がありますから、少しは当たって殺菌したほうがいいのかもしれませんね。

 欧米のわんちゃんは日焼け大好きですから、ドムスの中庭で甲羅干ししている子も多いようですよ。カニス・フォルムではプールが大賑わいのようです。

 もうすぐ夏ですね。

6月2日 セイレーン 〔わんごはん〕

 ホワイトソースを作るのは大変です。何度やってもなぜかニョッキみたいになるのです。

 それでも半日がかりでやっと美味しいキノコソースができたのです。
 ご主人様は待ちくたびれてうたた寝してました。

 ぼくが出来たというと、なぜかキッチンに行きます。そして、テーブルに戻るなり、ホワイトソースにいきなりジャッと醤油をかけたのです。味見もせずに!

 ぼくはショックで涙が出そうになりました。ご主人様はあやまりましたが、もっと熱心に機嫌をとらないと許さないことにします。


6月3日 セイレーン 〔わんごはん〕

 昨日はご主人様を許す前に寝てしまいました。

 今朝、起きたら、ご主人様がいませんでした。仕事で日本に帰ったようなのです。
 ちゃんと許してないのに撤退するとは!

 そのことをカニス・フォルムで友だちに言うと、ばかばかしい、ととりあってくれませんでした。
 なんだよ、料理ぐらい、というのです。問題はもう料理じゃないのに!

「じゃ、おれの主人とこ来なよ。きみみたいな美人が大好きなんだ。五人ぐらい囲ってるぜ」

 ……それはいやです。愛情が五分の一なんて。


6月4日 パコ 〔CFスタッフ〕

 わたしはカニス・フォルムのカフェで働いています。

 ここでの犬はイキイキしていますね。ふだんご主人様に頭があがらないせいか、マッチョぶる犬もよくいます。

 でも、中庭と違い、ここは規律がきびしいので、派手な喧嘩をやると遊びにこれなくなります。

 犬たちもそこは心得ていて、あやうくなると仲裁が出ます。なんとなく仲裁屋として頼られる犬たち、というのがいるようです。
 あの美男のアルフォンソも人気があるようですよ。


6月5日 ハン 〔ウエリテス兵・未出〕

 中庭の警戒もわれわれの仕事です。
 中庭はけっこう広い上に、木々が邪魔になって死角が多いのです。
 欲求不満の犬たちはそこで相手を見つけたりします。

 一応、犬同士のマウントは禁止されていないので、われわれも大目に見ていますが、たまにリンチもあるので油断がなりません。ケガをすると商品価値が下がってしまいますからね。

 いまは温厚なボスがおさめているので、中庭は平和なほうです。

 われわれはそうしたボスを上下中庭のファラオと呼んでいます。(笑)


6月6日 セイレーン 〔わんごはん〕


 ご主人様はどうしちゃったのでしょう。ぜんぜん連絡してきません。

 反省中?
 ……それとも?

 ぼくがゆるしてあげなかったのでスネちゃったのでしょうか。

 それはちょっと大人げないですよね。だって、悪いのはご主人様なんですから。
 こっちは朝にはゆるしてあげようと思ってたんですから。

 電話ぐらいしてくるものですよ。
 ぼくはひとりで食事をして、ひとりで寝ているんですから。


6月7日 セイレーン 〔わんごはん〕

 ご主人様がぜんぜん連絡してこなくなりました。
 ぼくは泣いています。

 ぼくが何をしたというのでしょう。ほんのちょっと怒っただけなのに。もうちょっとていねいにあやまったら、ゆるすつもりでいたのに。

 もうおしまいです。ご主人様はぼくを捨てる気なのです。
 すごく楽しかったのに。大好きだったのに。

 今日はずっとショパンを弾いています。ピアノを弾いている時だけはいろいろ考えないので、気持ちが楽なのです。


6月8日 セイレーン 〔わんごはん〕

 毎日、悲しくてしょうがありません。

 カニス・フォルムで友だちに話しながら、泣いてしまいました。友だちは「気分転換に走らないか」と勧めてくれたので、屋上にいって走りました。

 すると、友だちがちょっと休もうといって、棕櫚の陰でいきなりキスしてきました。

 ぼくが驚いて突き放すと、「慰めてやる」と言い出し、抱きついてきました。ぼくは彼を殴って逃げました。

 彼は追ってきましたが、ほかの犬たちが助けてくれました。そのうちひとりはプラチナ犬のアルでした。


6月9日 エリック 〔調教ゲーム〕


 昨日はアルがマラソンしないか、と言ってきた。
 めずらしいなと思っていると、1マイルも走らないうちに、すぐ事件が発生した。

 喧嘩だ。
 ひとりがわめきながら逃げてきた。

 追っかけてきた奴をおれたちが阻む。アルがやつを説得する間、おれはとなりで睨みを利かせていた。

 相手はひきさがり、アルは逃げてきた美青年をカフェにつれていった。
 おれも行こうとしたら、アルは小声で、

「帰って。あとでうまいもの作ってやるから」

 前は職業軍人だったのに、いまはうまいもので……。


6月10日 セイレーン 〔わんごはん〕

 一昨日のこと。
 ぼくは友だちに襲われたのと、ひとを殴ったショックでぼんやりしてしまいました。

 アルは手首を調べ、

「なんともなってないけど、医務室へ行く?」
 
 と聞きました。
 ぼくはそれで泣き出してしまいました。

 アルはカフェで話を聞いてくれました。ホワイトソースのことも全部、聞いてくれました。

 アルは、くだらない、とはいいませんでした。桃のタルトを勧めながら、まじめに聞いてくれました。
 タルトを食べながら話して、だいぶ気分が落ち着きました。


6月11日 セイレーン 〔わんごはん〕

 アルに全部話したせいか、なんだか気持ちが軽いです。

 ほかの友だちは相談すると、「おまえが悪い」とか「じゃ、こうしろ。ああしろ」というのですが、アルはべつに何をしろとも言いませんでした。

 なので、やっとすっきり話した気分です。

 午前中はずっといい気分でピアノを弾いていました。お昼にはジョシュが自分で育てた豆を届けてくれました。生でもおいしいです。
 
 豆を食べていたら、執事が呼びました。
 なんと「ご主人様から電話です!」


6月12日 セイレーン 〔わんごはん〕


 なんと、ご主人様のお義姉さんが脳梗塞で倒れたというのです。

『でも、いい医者に手術してもらえたから、もう大丈夫だ。半身不随にはならずにすみそうだ』

 ご主人様はその名医に手術をとりつけるために奔走していたそうです。

 その後、『変わりなかったか』ときくので、ぼくは困ってしまいました。
 いっぱい訴えたいことがあるのですが、今話すのはさすがにかわいそうです。
 するとご主人様が、

『この間は、醤油、ごめんな』

 ぼくはご主人様を許すことにしました。


6月13日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 CFが改修工事でお休みです。

 エリックとミハイルがまた暴れないよう、アルが「バイオハザード5」で対戦しようと言い出しました。
 おれとキース、エリックとミハイルのペアでスコアを競います。
 (アルとフィルはうまいので今回はナシ)

 ミハイル・クリスとエリック・シェバの仲の悪いこと!


「早くこっち回復させろ。死ぬ死ぬ死ぬ」

「またか」

「おまえが餌になれ」

「ばか女、こっちを焼いてどうするんだ」

「早く電源入れろ、グズ!」

 ……コントローラーは自前で用意してほしいなと思いました。


6月14日 キース 〔わんわんクエスト〕

 我が家では昨日からゲーム対戦が続いています。
 おれとロビンはけっこう楽しく進めています。

 ロビン・シェバは新しいエリアでも、すぐちょこちょこ宝探しに行きますが、おれがピンチに陥るとどこからか狙撃で助けてくれます。
 ロビンが敵に組み付かれている時は、おれがガツンと殴りつけて助けてやります。

 現実だったらありえないけど(ロビンのほうがおれより強いので)なんかマッチョなヒーローになったみたいで楽しいです。
 たまにはビデオゲームも面白いですね。


6月15日 キアラン 〔マギステル・未出〕

 わたしはドムス・ロサエでマギステルとして働いています。
 アクトーレスと違い、われわれの仕事はクリエイティブな部分が多く占めます。

 お客様の要望を聞いているだけでは、一流にはなれません。お客様の満足は当然のこと。一流のマギステルともなると、その先が大事です。

 意外に思われるかもしれませんが、マギステルをやる連中は愛情深いんですよ。
 逆にいうと、どんなお客様でも可愛がれる懐の深さがないと、一流にはなれないんです。


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