2010年7月1日〜15日
7月1日 ヤスミン 〔犬・未出〕

 長く待っていた恋人が迎えにきてくれました。手続きが済んだら、おれたちはヴィラから出ます。

 恋人はすまなそうに言いました。

「ぼくは今、素寒貧なんだ。外に出たら、きみにあんまり贅沢させてやれないんだよ」

ほ んとに不器用なやつなんです。社会でよくこんなクソ真面目でまっすぐで無邪気なやつが生きてこれたと思います。
 だから、おれは言いました。

「大丈夫。おれが贅沢させてあげるよ。すごく面白いゲームを考えたんだ。これをゲーム会社に売れば、ふたりで楽しくやっていけるよ」


7月2日 ルイス 〔ラインハルト〕

 ヤスミンのことが片付いてホッとしています。犬が処分にならなくて本当によかった。

 アキラのことも見直しました。
 上や下に出向いて、交渉して、営業してくれたんです。ポスター貼りまでして。
 彼の行動力にはビックリです。

 おれは丸投げしてしまって恥ずかしい。
 でも、アキラは

「べつにおまえだってなんの得もしちゃいないだろう。でも、犬のために頭下げて仕事頼んできてさ。そういうところ、おれはいいと思うぜ」

 そんな風に褒められたのははじめてです。


7月3日 直人 〔わんごはん〕

 CFで日本の犬と知り合いになりました。

 ヒロという元おまわりさんです。うらやましいことにマキシムという恋人といっしょに暮らしているとか。でも、

「悩みもあるよ。ご主人が帰ってくる時は、マキシムは尻尾振っていっちまう。おれはお預けだからね」

 主人が帰っている時はこうしてCFで体力を消費しているのだそうです。
 そういいつつ、恋人がプールから戻ってくると、いとしげに彼の腰を抱き寄せていました。

 うちのご主人様も早く帰ってこないかな。ハモ料理を作ってあげるのに。


7月4日 アンディ 〔フィルゲーム〕

 最近はCFでもちょっと話したりする友だちが増えた。
 前はレイプされるのが怖くて、誰とも話せなかったけど、人と話すとやっぱり少し気晴らしになる。

 でも、おれっていじめやすいのかな。たまに乱暴なやつにからかわれる。
 賞なんかもらったからゲームの後は特にひどかった。金の船をよこせって。

 でも、そうするとたいがいジルが出てきて「うちの坊やになんか用か」と追い払ってくれる。
 あいつもいじめっ子だけど、他人がいじめるのはイヤみたいだ。


7月5日 ジョシュ 〔犬・未出〕

 ぼくが中庭で土いじりをしていると、時々、小鳥がやってきます。

 いま、トマトを作っています。
 朝来ると時々赤くなりかけたトマトが下に落ちています。鳥の仕業です。
 
 鳥よけでも置こうかと思いましたがやめました。

 ご主人様が回廊のベンチに腰かけて、小鳥のさえずりを聞いていたから。

 黙って聞いてみたら、とてもきれいな啼き声でした。ご主人様にはもっときれいに聞こえるでしょう。

 ぼくはトマトは鳥にやることにしました。
 人間は、食べたかったら買えばいいですからね。


7月6日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 昨晩はエリック飯でした。
 メニューは握り。手巻き寿司ではなく握ったんです。

 素人はこわい。握りなんて日本じゃ家庭でだってなかなか作らないのに。
 そこは外国人だから勘弁してもらうとして、指紋が見えるぐらい押し潰したシャリは……。
 和風だといって梅干をのせた握りは……。

 それでも、われわれは食べましたよ。彼もそれなりに傷つきますからね。
 でも、咽喉をすぎた時、ワサビの塊が鼻を直撃。文字通り泣きながら食いました。


7月7日 プサ吉 〔家令控え室〕

 今日は七夕ですね! 短冊に願いごとを書きましたか?
 おれの願いごとは「もっと旅行にいけますように」です。
 フミウスの短冊を見てみると

「昇給!」

部長のは

「開発予算」

……笹がせちがらいです。
イアンに願い事は何か聞くと、

「最近、足が攣るので治したい」

――それは病院に行きなさい!

アキラにも願い事を書いてもらいました。

「あのひととあのひとが別れますように」

……アキラ。七夕にその願いは……。 


7月8日 補佐 〔家令控え室〕

 犬の処遇について小さな決定があったのでお知らせします。

 これまで逃亡犬はドムス外に出すことを禁じてきましたが、3年間、同一主人に飼育され、無事故であった犬は、外出、カニス・フォルムの利用を認めることになりました。

 カニス・フォルムは多くの犬に利用して(利益をあげて)もらいたいですからな。
 あのフィルにもこれは適用されます。


7月9日 モモ 〔仔犬の手サロン〕

 わたしは仔犬の手サロンで働いています。

 最初の頃は早くチップをためたくて、客に愛想をふりまいたりしてました。気に入った方が買い取ってくれないかな、とかフラフラ思ったり。

 でも今は違います。
 ご主人様がたが、心地よげにしているとそれだけでいいと思ってしまいます。時に涙を流して礼を言われると、幸せだなあ、と思ったり。チップよりうれしかったりします。

 でも、以前よりチップがたくさん溜まるようになったんですよ。
 パラドックスですね。


7月10日 アンディ 〔フィルゲーム〕

 最近はジルがいじめなくなった。
 あいかわらず皮肉屋でひねくれ者だけど、彼も落ち着いてきたみたいだ。

 たぶん、ご主人様のサー・コンラッドが彼を可愛がっているからだと思う。
 前はご主人様と寝た後は、ジルのイヤミが大変だった。でも、ご主人様が彼のやきもちに気づいてやりかたを替えたんだ。

 ご主人様は帰ると、まずジルと寝る。次にビセンテ。次におれ。
 家のなかの相談事はまずジルにする。

 ジルを一番にたてるようになってから、家のなかが平和になったみたいだ。


7月11日 フィル 〔調教ゲーム〕

 ヴィラの決定で、わたしも外出ができるようになりました。

 といって、特に用もないのですが。買い物はイントラネットでできるし、筋肉作って見せびらかす趣味もありませんしね。

 それでもキースがしつこく誘うので、CFの見学にいってきました。

 成犬館の中庭とはだいぶ雰囲気が違いますね。中庭の連中より、空気がなごやかです。喧嘩もあるそうですが、中庭のような荒々しい勢力争いがありません。

 あと、気に入ったのは本屋です。実物を手にとって選ぶのは、やはり楽しいです。


7月12日 ヒロ 〔クリスマスブルー〕

 マキシムがバテている。
 アフリカの夏はこたえるらしい。

 おれは夏は好きだな。そうめんかっこんで、プールでひと泳ぎして、可愛いこちゃんに声かけて。

 でも、マキシムはおれがほかの犬と仲よくするのが嫌みたいだ。カフェで直人が時々、和食の惣菜をくれるんだが、マキシムはそれだけで不機嫌になる。

 ご主人様が帰ると、尻尾ふって飛びついていくくせに、おれにも悋気するんだ。

 しかし、直人の煮しめはあきらめきれない。あいつにもロシア人の友だちを探してやらなくちゃいかんな。


7月13日 ヒロ 〔クリスマスブルー〕

 さびしん坊のマキシムに友だちを作ろうと、ロシア人を探しているが、なかなか見つからないもんだ。

 ロシア人はいるが、皆マキシムに恨みを持っていた。
 好色な彼らは、一度ならず美男のマキシムに言い寄り、無礼な言葉で撃退されていた。うちのお姫様は貞操観念が異常にかたいのだ。

 そのあおりを食らって、最近はおれの友だちも敬遠するようになった。

「あの雪の女王みたいな友だちが睨むからよ」

 明日は直人が山菜いなりを作って来てくれる。どうか、マキシムの夏バテが続きますように。


7月14日 直人 〔わんごはん〕

 今日はヒロに大好物だという山菜いなりを作って持っていきました。
 ヒロはうまいと言って、食べてくれましたが、今ひとつ顔色が冴えません。

「出掛けにマキシムとやりあったんだよ」

 マキシムがやきもちを妬いているというのです。ぼくがヒロを食べもので釣ろうとしていると勘違いして。

 迷惑をかけていたのだなあ、と思っていると、

「違うんだ。これは異常なんだよ。彼にもふつうの友だちが要るんだ。おれにも必要だ。なんかいい考えないか?」


7月15日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 昨日、ヒロと喧嘩した。
 正直、つらい。

 おれには伯爵をのぞいたら、ヒロだけだ。
 伯爵はいつもいない。

 ヒロはおれに友だちを作れという。昔は友だちがいただろう、と。

 昔はおれもまともだったから友だちはいた。

 でも、いまは犬だ。変態だ。
 変態の仲間なんか欲しくない。

 でもヒロは別だ。あいつはこんなおれでも、軽蔑しない。好きでいてくれるから。あいつの黒い目はあたたかい。やさしい。

 でも、あいつはおれに飽きたんだろうか。


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