2010年8月16日〜31日
8月16日 ペドロ 〔護民官府調査員・未出〕

 昨夜、ウォルフのインスラに行きました。
 相談ごとのあるふりをして、無理にあがりこんだのです。相方の美形は留守でした。

 ウォルフはおれにビールを勧めてくれ、ふたりで飲みました。
 おれはトイレに行くふりをして、あるものを置いてくるつもりでした。

 でも、なぜか小さい頃の話になり、なぜかおれは号泣してしまいました。
 なんだか自分が無性に情けなくなって、泣けてしょうがなかった。

 ウォルフは面食らったようですが、しかたない、というように肩を叩いてくれました。


8月17日 ラインハルト 〔ラインハルト〕

 オフィスに変な電話があった。
 今夜のパーティーに行くなという。

 名前は名乗らず、それだけ言って切った。誰だろう? また嫉妬深い中年男かなんかか?

 行くなったって、おれにも都合がある。

 社交性に乏しいウォルフのかわりに、金持ちと親睦を深めておかないと。いざとなった時、スタッフの立場は弱い。いかようにも切り捨てられる。

 ウォルフは危ない橋を渡っているくせに、そういう配慮をしないんだ。そこは、おれが面倒見てやらなくちゃダメなんだ。
 ああ、世話が焼ける。


8月18日 ペドロ 〔護民官府調査員・未出〕

 計画は失敗に終わった。本当なら昨夜、あるドムスでドラッグパーティーが開かれるはずだった。

 われわれが内部の通報で急行すると、あの美男のラインハルトもそこでラリっているはずだった。
 調査を進めると、ラインハルトのベッドからヘロインが出てくる――。

 だが、ラインハルトは現れなかった。おれも彼の部屋にヘロインを置いていない。

 コリーナの目論見は費えた。
 だが、おれも破滅だ。

 おれの裏切りはもうバレているだろう。あの犬の主人がおれを訴える。おれも犬になるのかな?


8月19日 ウォルフ 〔ラインハルト〕

 今朝、正式に護民官に告訴状を提出しました。

 この調査班はあるパトリキから金を貰い、係争ごとの証拠を秘匿したり、そのパトリキの関係者のために便宜をはかっていました。

 主犯はコリーナで、彼が脅しや利益で仲間を集めていったのです。

 イアンに調査を手伝ってもらったおかげで、証拠、証人の調書などは万全です。

 ただ、この後の調査員らの行く末はどうなるかわたしにもわかりません。この班自体が懲罰的に解散になるかもしれない。

 わたしも再就職先を探さなければ。


8月20日 ラインハルト 〔ラインハルト〕

 今日はウォルフがズル休みした。なので、おれも便乗ズル休み。
 ひさびさに新婚みたいにベタベタして過ごした。でも、ウォルフはまだブルーだ。

 おれはその顔をつかんで

「相手はおれを陥れようとしたゴロツキだ。気にやむな」

 ウォルフはそれには答えなかった。

「なんでパーティーに行かなかった?」

「遅れたんだよ。アキラが熱だしながら残業してたんだ。連れて帰って、ハーブティー買って、淹れてやったんだよ。そしたら、あいつ、おれの肩からゲロ吐きかけやがったんだ」

 ウォルフがはじめてクスリと笑った。


8月21日 アキラ 〔エスプレッソ〕

 夏風邪のほうはなんとかおさまった。けれど、心が癒えない。

 残業してたら、ラインハルトがおれの顔に触った。

「熱あるじゃないか。帰れよ」

 事務を片づけてから帰ると言ったら、無理やり追い立て、部屋まで送ってくれた。
 ついでにマーケットで風邪用のハーブティーまで買って淹れてくれた。

 でも、おれはハーブ、ダメなんだ。あの手の変わったニオイのもの、アールグレイとかもダメなんだ。

 飲んだけど、無理。
 噴水みたいに吐いちまった。

 当然、あいつは怒った。

「飲めないならなぜ言わないんだ」

 言えないよ。
 言えるわけないじゃないか。


8月22日 ルイス 〔ラインハルト〕

 今朝はアキラがしょんぼりしています。
 大好きなラインハルトが声をかけても、気まずそうに目を合わせないでいます。

 ラインハルトはケラケラ笑い、

「大丈夫か。またゲロ吐くんじゃないだろうな。あの日は参ったぜ。シャツ一枚捨てたよ」

 アキラはいよいよ小さくなり、

「言うなって、シャツは買うよ」

「買うの? 高いよ」

「いくらだ」

 ラインハルトはチュシャ猫のように笑い、

「シャツの代わりに休みのほうを都合して――」

「それはダメだ!」

 このデクリアでは公私混同は許されません。


8月23日 ウォルフ 〔ラインハルト〕

 処分が決まりました。

 主謀のパトリキは永久追放処分。
 コリーナとほか二名は強制労働。
 三名が罰金および解雇。

 デクリオンは監督不行き届きで罰金です。

 なお、コリーナ側の陰謀をリークしたペドロとあと一名は、恩情により犬との密通は不問(あれはコリーナの罠でした)罰金刑に留まりました。

 調査班の存続に関しては、有力な会員たちが口添えをしてくれたようです。
 ラインハルトのおかげです。

 ペドロは子どもの頃、警官になりたかったそうです。こんなことでクビにならなくてよかった。


8月24日 アンディ 〔フィル・ゲーム〕

 夏なので、どの家にもご主人様が帰ってきている。
 ドッグマーケットにいくと、主人と犬が仲良くお買い物。

 うちのご主人様は帰ってこない。カメラを手に、中東かどこか、危険な場所で駆け回っている。

 なんとなく寂しい気持ちで、ドッグマーケットのなかよし風景を見ていたら、ジルが

「ああいうおっさんが好みか? ついていきたいなら、止めないぜ」

 とからかった。

 でも、帰ってさびしくテレビを見ていたら、ジルが「喰うか」とクレープを焼いてくれた。
なんでだ?


8月25日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 アルはホントにスケベなやつです。
 ひとがブドウ食ってると、「ア〜ん」なんて口を開けてきます。
 一個放りこんでやると

「口うつしで。プリーズ」

 エリックやミハイルにもエロいこと言ったり、さりげなく触ったりします。エリックは特にそういうのが嫌いなので、あれはわざとやってますね。セクハラです。(笑)

 彼に動じないのがフィルです。
 アーンがやってくると、逆に熱烈なキスを返したりします。でも、一瞬後には無表情にテレビを見ています。

 アルも苦笑しています。


8月26日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 フィルが帰って来て、エリックとミハイルの男臭い角突きあいは減りました。

 かわってフィルとエリックのチャンネル権争いが勃発しております。
 時々ミハイルとロビンも参戦。
 市場みたいにわめきあっています。

 自分の部屋に帰れば、それぞれテレビがあるのに。

(キースだけは見たいものがあると部屋に帰ります)

 唯一、全員がいい子にしている時間はスポーツ番組の時間です。この時はみんなで観戦に夢中になっています。

 あとはナッツとアイスティーでも置いておけば平和は保たれます。


8月27日 フィル 〔調教ゲーム〕

 エリックは本当にわかりやすい男です。
 人見知りで、知らない人間には強面で接します。

 ただ相手が彼を親分と認めると、猫可愛がりします。ロビンとキースのことは舐めるように可愛がっています。

 ロビンはそれを無意識に利用しているところがありますね。

 キースは可愛がられつつ、エリックの使い走りにされてしまっているところがあります。
 エリックはわがままでもあります。(笑)

 しかし、先日、エリックがふくれっつらして帰ってきました。キースと喧嘩したようなのです。


8月28日 フィル 〔調教ゲーム〕

 キースが目に痣をつけて帰ってきました。
 ミハイルならいざしらず、キースを殴るとは。

 が、エリックは手をふりまわし、

「おれじゃない。おれは誰にやられたのか聞いただけだ。だが、あいつは言わないんだ」

 いかに自分が被害者か訴えます。キースは憮然として何も言いません。
 夕食の席ではふたりとも互いを無視。キースは早々に部屋へ退散してしまいました。

 エリックは「マシン貸してくれ」といって、珍しくミハイルの部屋へ行きました。
 ミハイルが肩をすくめたので、笑ってしまいました。


8月29日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 エリックとキースが喧嘩しています。
 ふたりとも互いを無視。

 でも、エリックは本当は動揺しているんです。エリックはキースが大好きですから。

 キースと仲直りしたいけど、自分から折れたりできませんから、しかたなく怒ったふりをしています。
 アルは

「キースはためこむ体質だからね。ついに爆発したのかも」

 などと無責任に笑っています。
 エリックはちょっとずうずうしいところがありますからね。

 でも、飯がまずいので、早く解決してほしいなあ。


8月30日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 ミハイルが部屋にやってきた。

「あれ、なんとかしてくれ」

 エリックとキースの件。
 エリックは面白くないらしく、しょっちゅうミハイルの部屋に来て、トレーニングマシンを使ったり、愚痴を言ったりするとのこと。

「暗にキースに謝らせろって言ってんだ」

 ミハイルは面倒くさく思っていて、わたしに振って来たのだ。

「なぜ、わたしが? たまにはきみがいいたまえよ」

「ぼくはいやだ」

 ミハイルの迷惑そうな顔がおかしい。
 まあ、ふたりとも大人なんだし、そのうちなんとかなるでしょう。


8月31日 キース 〔わんわんクエスト〕

 なんでこんなややこしいことになっちゃったんだろう、って思っています。

 エリックはひどく怒っています。おれは彼を傷つけたし、しかたありません。全面的におれが悪いんです。

 今まで親切にしてくれたのに、本当にせつない。どうしてあの時、もっとうまくいいわけを考えつかなかったのか。

 聞かれたくなくて、つい心にもないこと言ってしまったんです。

 一応あやまるべきかな。たぶん、彼は不愉快なままだろうけど、おれが悪いんだし、あやまったほうがいいんだろうな。


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