2011年1月1日〜15日
1月1日 家令フミウス

 あけましておめでとうございます。
 今年もご主人様にとってエロとしあわせいっぱいのよき年となりますように!

 そして、
 今年も今日のわんこをよろしくおねがいします!

 今日ばかりは日本犬にかぎってお雑煮を食べさせます。
 自宅ではカレーでお正月だった犬たちも、ここではよろこんでお雑煮、おせちを食べますよ。

 日本のご主人様のついているコたちは、お年玉をもらうこともあるようです。
いいなあお年玉。


1月2日 直人 〔わんごはん〕
 
 日本ではきっと今ごろはテレビ見て、年賀状の返事を書いてのんびりしていることでしょうね。

 ぼくは今日はせわしなく厨房で働いていました。三が日をすぎたら、ご主人様が帰ってくるのです。

 ご自宅でおせちを召し上がっているはずなのに、ぼくのおせちも食べたいと――。
 お正月気分が好きみたいです。

 さっきようやく重箱にぜんぶ詰めました。
 おわった時、電話がありました。

「姫始め、楽しみにしてるよ」

 ……あの、おせちは?


1月3日 フェルド 〔犬・未出〕

 自慢じゃないが、おれはガタイがいいほうだ。

 子どものころのあだなは一貫してクマ。プロレスラーと並んでも見劣りしないし、おそらく戦ってもひけはとらないだろう。自動車メーカーに勤める前は軍隊にいた。

 だが、おれは本当は荒くれ者じゃない。どっちかというと、かわいいものが好きなんだ。かわいい人形とか、きれいなお菓子とか、小さい動物とか。

 少女趣味というか――ちょっと女っぽいとこがあるんだ。性格的にも。


1月4日 フェルド 〔犬・未出〕

 こんなところへ来たのは、じつはおれの内なる願望がおかしなかたちで叶ってしまったのではないかと思ったものだ。

 正直、ご主人様の足元にはべって、夜はかわいがられて――って、ちょっと悪くないと思ってる部分がある。自分のなかの一部がワクワクしてる感じがある。

 最初の主人は新兵訓練の教官なみに激しい人だったから、気づいたらワン公になっていた。
 彼が脳卒中で死ななければ、おれもけっこう幸せにはべっていたとおもう。

 だが、いまの主人には少し不満だ。


1月5日 フェルド 〔犬・未出〕

 今の主人は冷たい。
 本当に犬として扱う。

 セル暮らしから引き取られ、こぎれいなドムスで暮らさせてもらってるし、CFの会員権もとってくれた。だが、かわいがってはくれない。

 セックスはする。それだけだ。
 セックスをする動物をきれいな檻に入れて飼っているだけだ。

 おれは不満だ。
 おれが選んだ立場ではないし、なにか言える立場でもないんだが、なんとなく面白くない。

 さらに主人が言った言葉でおれはショックを受けた。


1月6日 フェルド 〔犬・未出〕

「ほかの犬とさかるのをとやかくいう男もいるが、わたしはかまわない。おまえの相手ばかりもしてられないんでね。CFで遊んだらいい。家でパットとふたりで楽しんでもいいよ」

 パットというのは、この家にいるもう一匹の犬だ。

 まだ二十二。ハンサムだが、ビデオゲームばっかりやってるガキだ。

 おれはとまどってしまった。無理やりワン公にされたというのに、主人はおれをかわいがらない、というわけだ。

 本来ならそれでいいはずなんだが、――このもやもや感はなんだ。


1月7日 フェルド 〔犬・未出〕

 おれはCFに通いつめるようになった。
 体でも動かしてなければ、もやもや感でウツ病になりそうだからだ。

 CFというのは奇妙なところだ。おれと同じく、無理やりワン公にされた男たちが遊んでいる。

 たいがいのやつはマッチョぶる。
 本来のおれはカマじゃないんだ、おまえらなんかになめられてたまるか、という手合い。

 この時間を勉強に使う犬もいる。解放された時のために、役立つ教養やコネをつくろうとする犬。

 おれはマッチョのほうだ。
 あの素敵なひとに会うまでは――。


1月8日 フェルド 〔犬・未出〕

 アダムは最初、おれにフットサルに加わらないか誘ってきた。

 おれはここでのつきあいには慎重だが、さわやかに誘われ、つい、ついていった。

 彼の仲間も気のいいやつらばかりで、楽しく遊べた。
 その後で、なにか食おうという時、スイーツの話になった。
 アダムとおれはジンジャークッキーの話でもりあがった。

「よし、じゃ、移動して、ここのクラスで作ろうぜ」

 お菓子づくり! 食べるんじゃなくて、作るのか。
 やっていいのか、おれみたいなクマが。


1月9日 フェルド 〔犬・未出〕

 菓子作りクラスの誘いにおれはとまどった。そんなことしたら、おれの乙女嗜好がバレてしまうではないか。

「いや、おれには似合わないよ」

 ほかの犬におれの葛藤はわからない。

「何言ってんだ。みんなやってるぜ」

「プロの菓子職人って、皆おっさんだろ」

 だが、おれの場合は事情が違う。
 おれは本物なんだ。そこからほころびて、全部バレてしまうんだ。

 だが、アダムはやさしく言った。

「ひとの目を気にしてもしょうがない。ここじゃいろんな目に遭うんだぜ。明日死んだらどうするんだい?」


1月10日 フェルド 〔犬・未出〕

 はじめて野郎同士で、お菓子づくりのクラスに入った。おそろしく興奮した。

 楽しい!! 
 自分の手で卵を泡立てたり、かわいい飾りをつけたり。

 面倒くさそうな顔をとりつくろったが、心のなかで「かわいいー!」と身をよじりっぱなしだった。

 出来上がったクッキーをアダムが食べて

「お、すごくうまいじゃない。プロみたいだ」

 と褒めた。

 おれは黙ってしまった。舞い上がって、変なことを言ってしまいそうだったからだ。

 だが、この瞬間おれはアダムに恋をした。


1月11日 フェルド 〔犬・未出〕

 アダムはふつうの男に見える。

 ハンサムだが、ヴィラのなかでは地味なほうだ。妙に色っぽい、というのでもない。

 だが、地に足のついたやさしさがあった。
 ひとを脅かさないが、おだやかな威厳があり、気配りでもある。

 あれから、何度か菓子づくりのクラスに誘われた。おれがひとりでいけないのを見越して、連れてってくれるのだ。

 おれは「しょうがないな」という顔をしてついていく。

 だが、いっしょにパイを焼いたり、生クリームをしぼったりするのは至福の時間だ。


1月12日 フェルド 〔犬・未出〕

「フェルド、うまいよな。解放されたら、菓子職人の道も考えたらいいんじゃないか」

 菓子職人! 
 ハイスクールのころは考えられなかった。とにかく「男」に見せるのに必死だったから。

 今だって、エプロンつけて作業するのはやはり気恥ずかしいが、でも――。

 おれはバラ色の夢にうわずってしまった。

「そんなすばらしすぎること、かないっこない」

 つい、素晴らしいと言ってしまった。

 アダムはからかわなかった。

「おれには見える。フェルドが有名パティシエになって、ケーキを焼く姿が」


1月13日 フェルド 〔犬・未出〕

 アダムと遊ぶようになり、おれは前よりマッチョぶらなくなった。

 以前と少し、CFの風景も違うように見える。

 マッチョぶっている犬は、ここに来たての犬だったり、主人にあまりかまわれてない犬が多い。

 主人にかわいがられ、そのことを受け入れている犬は、わりと自然に楽しんでいるようだ。

 格闘技もやる一方、料理作りもする。ジムで筋肉を練り上げ、エステで疲れを癒したりする。

 主人を好きだということさえ、隠さない。それはとても自然で大人のように見えた。


1月14日 フェルド 〔犬・未出〕

 毎日楽しい。菓子づくりもそうだが、アダムを通して友だちが増えた。

 友だちはいいものだ。
 思えば、おれはここにいて、ひとりで混乱と戦ってきた。が、他人との気さくなおしゃべりやたわいない愚痴で癒されるものがある。

 うちのゲームオタクのパットでさえ「大将、最近機嫌いいね」と声をかけてくるようになった。

 でも、何より一番の幸せのモトはアダムだ。

 なんて素敵なやつなんだろう。
 彼の落ち着いた声が好きだ。砂色の髪も知的なグリーンの目もみんないとしい。


1月15日 フェルド 〔犬・未出〕

 CFには監視カメラからみつからない場所がある。
 恋人同士はこっそり思いを遂げることができる。

 おれは行ったことはない。わりと、そういうところは潔癖なんだ。

 でかいせいで、よく誘いを受けるが、恋人でもないやつと寝るのは苦手だ。寝るなら、かわいく思っているやつのほうがいい。

 アダムなら、おれも……。

 アダムはどっちがいいだろう。
 性格的に彼は男だ。しなやかだが、大地にしっかり立つ男だ。

 彼がおれを組みしくのか。

 おれは恥ずかしくなって、がむしゃらにクリームを泡立てた


←2010年12月後半          目次          2011年1月後半⇒



Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved