2011年2月1日〜15日 |
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2月1日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕 CFで昼飯を食べている時、「ミミカキ」の話になった。 ヒロがマーケットに「ミミカキ」がなくて困る、という。ナオがいくつかあるからくれるということになった。 ヒロはよろこんだ。 「ついでに膝枕して、耳かきして。美人耳かき」 「それはマキシムに頼もう」 日本には奥さんの膝で耳かきをしてもらう文化があるという話を聞いた。膝枕なるジョーク商品さえあるそうだ。 おれはちょっと興味を持った。 あとでこっそりナオに頼みごとをした。 |
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2月2日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕 おれはナオを呼びとめ「ミミカキ」をおれにも一本くれ、と頼んだ。 「膝に頭をのせて、耳垢を掻き出してやればいいんだろ」 ナオはちょっと不安そうな顔をして、 「絶対奥に入れるなよ。ヘタすると鼓膜が破れる」 気になったのか、彼はわざわざレクチャーしてくれることになった。 耳かきは簡単な細いスプーンだ。それで耳の穴をほじるだけの作業だが、……おそろしく気持ちいい。 ナオの膝はなぜか母さんを思いださせた。 おれはいつのまにかぐうぐう寝てしまっていた。 |
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2月3日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕 満を持して、おれはヒロに「耳かきしてやるよ」と申し出た。 ヒロはおどろいた。 「いや、遠慮する。ぽろっなんて落とされたらシャレにならん」 「やってやるって」 おれは強引にヒロを頭を抱えこみ、ひざに押さえ込んだ。奥につっこまないように注意して耳垢を掘り出す。 しかし、ヒロはケタケタ笑うのだ。 「くすぐったい、うはっ、もうやめてー」 ひざをまげたまま浮かせ、ピクピク痙攣する。あぶなくてしょうがない。頭を動かさないように懸命に押さえつけて耳かきした。 なんか予定と違うような。 |
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2月4日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕 両耳終わると、おれも彼もぐったりした。 ヒロが疲れて言うには「くすぐったくて、チビりそうだった」 どうもナオのような天国気分は味わえなかったようだ。ちょっとつまらない気もちでいると、ヒロは言った。 「マキシム。おれはあんたに膝枕させたいとは思わないんだよ」 ……こいつ、ナオには膝枕して耳かきして、と言ったくせに。 「おれじゃゴツすぎるかい」 「……なんて言ったらいいかな。たとえば、王様に夕飯作ってもらったら、くつろいで食えるか?」 なんの話だ? |
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2月5日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕 ヒロは言いにくそうに言った。 「その、おれはきみが好きすぎるんだよ。崇拝してる。膝枕させるなんて、気安いことはできないんだ」 ……おれは口笛を吹きそうになった。なんと答えたものか。 そのわりには夜はかなりずうずうしくせまってくるじゃないか。 でも、そういういいわけなら悪い気はしない。 「じゃ、いいさ。かわりにヒロがやって」 ヒロはいいよ、とおれの頭をひざにのせてくれた。ナオトほど繊細ではなかったが、やはり気持ちがなごむ。耳かきは悪くないもんだ。 |
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2月6日 セイレーン 〔わんごはん〕 ぼくはCFで素晴らしいアイディアを仕入れました。 耳かきです。日本人はこれをやってもらうのをすごく好むとか! さっそく一本もらって、ドムスに帰りました。 ご主人様に耳かきをして進ぜようとかまえると、彼は耳をおさえて飛んで逃げました。 「絶対だめだ。やめろ」 「ぼくを信用しないのですか」 「しない!」 彼はわめきました。 「鼓膜が破れて、おまえのピアノが聞こえなくなったら、死んだほうがマシだ」 ぼくはウッとつまりました。怒っていいのか、よろこぶべきなのか。 |
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2月7日 アキラ 〔ラインハルト〕 バレンタインデーが近い。 イベントがあったり、プレゼントやカードが行きかったり、それなりにせわしないが、この時期はまだ元気がふりしぼれる。 これが終わったら、休暇をとれるからだ。 ひさしぶりに日本の湿った空気を吸ってきたい。 マンガも読みたいし、むかしいっしょにつるんでいた連中のバカづらも見たい。 居酒屋でチューハイ飲んで、騒ぎたい。 忙しくても、それなりに上機嫌だった。 しかし、その上機嫌にふわりと影が差した。イアンがJCが辞職した、と言った。 |
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2月8日 イアン 〔アクトーレス失墜〕 JCがヴィラを辞めた。 犬との駆け落ちの件で、しばらく停職扱いになっていたが、罰金を支払って辞めた。 船を買うために貯めてあった金を全部吐き出したようだ。だが、彼からの手紙はひどくさわやかだった。 「故郷で海を見ていたら、よそでアルバイトして船を買うという考えがセコく思えてきたんです。海で生きるなら、海で勝負したい」 恋に狂って、プライドを叩きのめされて、目が覚めたのだ。上をめざすことにしたのだ。 JCはいい男になった。だが、うちは――こまったな。 |
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2月9日 アキラ 〔ラインハルト〕 イアンが執務室に呼び出した。 「悪いニュースといいニュースがある」 おれは回れ右して帰りたくなった。このひとは交渉ごとが弱い。いつも損くじをひいてくる。 だが、聞いた。 「悪いほうから」 「サイラスが次の契約を更新しない」 おれは吐き気をおぼえた。JCが帰らず、サイラスが辞めたら、7人しかいないではないか。言葉が出ない。かわりに笑いそうになった。 休暇どころじゃねえ。過労で入院だ。 「泣くな。アキラ。いいニュースもある。……新人がくるよ。ふたり」 |
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2月10日 ルイス 〔ラインハルト〕 今日のアキラは浮かれています。 新人が二人くるのがうれしくてしょうがないようです。 「ひとりはまだ未入荷だが、来たらうちが取る。ひとりはすぐ配属される。ルイス、おまえバディな!」 「おれが?」 「だって、おれ休暇だもーん」 新人担当は面倒ですが、彼のよろこび様を見ていると、許すしかありません。 一年、この男は誰よりも働いてきましたから。 「いいよ。いい男だったら、食べるかもしれないが」 「セクハラはだめよ。合意の上でよろしく!」 ちぇ。あいかわらず、おれのことは眼中ないようです。 |
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2月11日 ルイス 〔ラインハルト〕 「カシミール・ハイネマン。ハスターティ第三にいました。よろしく」 新人は少し緊張気味に微笑み、手を差し出しました。 おれはまわりの連中が考えていることが手にとるようにわかりました。 (犬にしたほうがいいような) ハスターティにいたとは思えない金髪のかわいこちゃんです。白い歯。はにかんだ笑顔にはまだ少年のにおいがあります。 しかし、どこか玄人っぽいような……。 ラインハルトが気づきました。 「俳優?」 ハイ、と新人は照れて笑いました。 「以前、舞台にいました。役者くずれです」 |
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2月12日 ルイス 〔ラインハルト〕 新人のカシミールはものになりそうです。 少し話すと、バカではないとわかります。でしゃばらず、かといって引っ込んだきりでもありません。客とのやりとりもひかえめで、しかし、毅然としていました。 「さすが、役者さんだね」 「とんでもない」 カシミールはおびえたように 「世界的なセレブばっかりで、緊張しっぱなしですよ。後ろにルイスがいなきゃ後じさりしてるとこです」 多少、犬の扱いにかたいところがあるものの、まずは合格点です。いい新人が入ってきた、と言っていいでしょう。 |
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2月13日 イアン 〔アクトーレス失墜〕 「アキラ以来の当たりだ」 ラインハルトが新人のカシミールを褒めた。アキラほど才走ってはいないが、犬扱いも客の応対もそつなくやれるという。 「問題があるとすれば、モテすぎること」 ルイスが笑った。 「客が彼に興味を持ってしまって――、押しの強いのもいるみたいで、ちょっと愚痴ってましたね」 「客は殴れ」とラインハルト。「そのあと、スマイル。それで解決だ」 「きみみたいにずうずうしかない」 「ルイス、しばらくついててやってくれ」 おれはたのんだ。 「元兵隊に殴らせるわけにいかん」 |
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2月14日 イアン 〔アクトーレス失墜〕 新人のカシミールと食事した。 たがいにハスターティだっただけに、自然と部隊の話になる。なつかしい名前を聞いて、楽しかった。 「しかし、役者を辞めて、軍に志願って珍しいな」 「なにも考えたくなくて」 カシミールは子どもっぽく笑った。 「役者ってけっこうドロドロしちゃうんです。たがいの才能に嫉妬したり、劣等感に苛まれたり。軍はまっさらにしてくれるような気がして」 「では、なぜアクトーレスに?」 「お金」 彼はミートボールを口につっこんで、それ以上は言わなかった。 |
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2月15日 ラインハルト 〔ラインハルト〕 アキラが一年ぶりに休暇をとる。おれは彼の首を抱き 「おみやげ、自動販売機がいいな。あったかいのが出るやつ」 「ああ、日本の自販機は優秀だからねーって、買えるかバカ」 すると、ほかの連中も「おれ、ハイテクトイレ」「忍者」「ガンダム」「万里の長城」 アキラがそれは中国だ、とわめく。 「おみやげは全員もみじまんじゅうだ。しかし、留守中の一番の功労者には特賞をつける」 「一夜のデート?」 のった、と皆が調子にのる。が、その時、おれは新人がそれをさめた目で見ているのに気づいた。 |
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