2013年8月1日〜15日
8月1日 ミハイル 〔調教ゲーム〕

 ロビンはぼくをじっと見て、少し考えていた。やがて、ちょっと笑った。

「あんたが言うと、本気でそう考えてるように聞こえるよ」

 ……そう考えているんだが。

 ぼくは言った。

「ぼくはシンプルだ。愛するのはご主人様だけだ。ランダムもおまけだし、きみらもおまけだ。それにエリックはおまけからも除外だが、べつに恥ずかしいこととも思ってないぜ」

 ロビンは、おお、と笑ってしまった。

「だから、あんたがいうとシャレに聞こえないんだってば」

 シャレではないんだが。


8月2日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ミハイルが帰った後、少しぐったりした。おれの卑小さを知られてしまって恥ずかしかったし、またぞろいつもの、自分はみじめな平凡な犬、というかなしい感覚が湧いてきた。

 だが、うちあけられたのはよかった。この問題の底を打った感じだ。おれはそろそろ出来ないことをくよくよ悩むのはやめるべきだ。

 ランダムが好きになれないのは、おれが凡人だから。しょうがない。見栄をはがして、素のロビン・オコーネルに戻ろう。

 たいしたやつじゃないが、それほど悪いやつでもないんだから。


8月3日 フィル 〔調教ゲーム〕

 キッチンからドーナツが消えていた。アルに聞くと、

「もうない。怪盗アルがいただいた」

「……アメリカ人からドーナツを奪うとはいい度胸しているじゃないか」

「アメリカ人を太らせないよう怪盗は細心の注意を払っている」

「ぼくは太らない」

「でも、血糖値はあがる。心臓に負担」

「――」

「……アルフォンソ・ドーナツ店が新装開店するよ。ご利用ご利用」

「でも、そのドーナツ屋はコーヒーにつけて食べると怒るんだろ」

「あたりまえだ! 気持ち悪い」

「じゃ、やっぱり買ってこい。同じものだぞ」


8月4日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 エリックが買い物につきあえというのでついて行った。ドッグマーケットではなく、CFのほうだ。

「ランダムの服を買おうと思ってさ。あいつ、だいぶ指の感覚が戻ってきているんだ」

 いっしょに脱ぎ着しやすそうな、それでいておしゃれなパンツやシャツを選んだ。

「きっと最初はもらすだろうな。黒っぽいのがいいかな」

 エリックはすっかりランダムのお父さんになってしまっている。

「ロビンはセンスいいから、彼の服を選ぶ係な」

 エリックは言った。

「これからもちょこちょこ頼むよ」


8月5日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 買い物の後、中庭でちょっと休憩した。

 エリックが飲み物を買ってくる間、おれは前のテーブルのものすごい美形をなんとなく見ていた。

 たまに見かけるロシア人だ。神々しいような美人だった。

「マキシム。サンドイッチさあ――」

 その少し先で、東洋人が彼に声をかけ、そして派手に転んだ。もっていたトレイからサンドイッチと飲み物が飛んでいった。

「ヒロ!」

 ロシア人が立ち上がる。ヒロはすぐに起き上がった。

「ごめんごめん。もう一回とってくるよ」

「もういいよ。おれがいく」

「いいから」


8月6日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ヒロは結局、トレイにこぼれたものを載せ、また店のほうに戻っていった。

 彼は歩き方が少し変だった。片足をわずかにひきずっていた。

 おれは不意にそのことに気づいた。

 前もこの人を見たことはある。彼の姿勢が歩くたびに傾くのを知っていた。だが、その時はなんとも思わなかった。障害とも、気の毒とも立派とも思わず、ふつうのこととして受け入れていた。

 今、気づいたのはその調和だ。またサンドイッチを買って帰ってきたヒロをマキシムはうれしそうに迎えている。愛情でいっぱいだ。


8月7日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ふつうのことなのだ。ヴィラでケガしたり、一生治らない後遺症を持つことはまったくふつうのことなのだ。

 誰もたいして気にしていないのだ。気にしていたのはおれだけだ。

 ヒロとマキシムがニコニコとサンドイッチを食べている姿を見て、なんだか泣きたくなった。

 彼らが、みんなが好きになった。

「ほい。肉まんと春巻き」

 エリックがトレイを置いた。

「愛想よくしたのにおまけはくれなかった」

「次はおれがいく」

 おれは言った。

「次はランダムのパンツも半分に値切ってみせるよ」


8月8日 劉小雲 〔犬・未出〕

 毎日、暑いのでご主人様は冷たいものばかり食べたがります。

 ひやむぎ作れとか、冷やし中華作れとか。

 ぼくは冷たい食事には抵抗があります。内臓を冷やすことは万病のもと。

 でも、ご主人様はまず聞きません。そんなに暑いなら、わざわざアフリカにこなくてもいいのに。

「それがシロウトのあさはかさ。こういう時になまじ涼しい地方に行くとな。冷房が完備してなかったりするんだよ!」

 しかし、暑い暑いといいつつ、夜はいっしょに寝たがるんですよね。それこそ暑いです。


8月9日 ヒロ〔クリスマス・ブルー〕
 
 マキシムは夏になると、閉じこもって精神的に弱くなる。

 それを見越して、今年は彼に水泳クラスを勧めてきた。とにかく外出だけはさせようと、初夏ごろから土下座してクラスを受けてもらった。

 マキシムはじつに迷惑そうだった。彼は男に声をかけられるのが嫌いだ。露出の多くなるプールでは、その確率はさらに高くなる。

 でも、行き始めると彼は文句を言わなくなった。二週間ぐらい通った時、彼は浮かれて帰ってきた。

「今日な、5メートルも泳げたんだ! しゅーって浮いたんだよ!!」


8月10日 ライアン 〔犬・未出〕

 最近のお気に入りのスナックはエダマメだ。

 なんじゃこら。ただのマメのくせに、喰い始めると止まらない。ただ、マメに塩を振っただけなのになんともいえず、うまい。

 冷凍のものもあったが、タクはしょっぱすぎるといって自分で茹でている。山盛り茹でても、テレビを見る時にふたりで食べるとすぐなくなる。

 最近、ポテトチップスはまったく食べなくなった。コーラのかわりに麦茶を飲んでしまうし、おれは彼といるとどんどん健康になる。


8月11日 セイレーン 〔わんごはん〕

 ここにきてはじめて入院してしまいました。

 熱中症だそうです。ドッグマーケットに行った帰り、歩いて帰ったのです。途中で気持ちが悪くなって、めまいがしました。

 荷物を抱えて座り込んでいたら、ハスターティの人が助けてくれたのです。

 ご主人様はなぜリムジンを使わなかった、せめて地下を通れと怒りました。

「ひとが苦しんでるのに怒らないでよ」

「バカもほどほどにしないと死ぬって言ってるんだ」

「バカでも好きでしょ!」

「バカ!」


8月12日 ルイス 〔ラインハルト〕

 最近、おもしろい法則に気づきました。

 アキラのお姉さんがまたうなぎを送ってくれたので、ふたりでよく食べます。

 でも、ふたりでうなぎを食べた晩は、なんとなく盛り上がってセックスになだれ込みます。笑ってしまうぐらいそのように至ります。

 おれが笑って、

「あんまりうなぎ食べると、きみ過労死するぜ」

「日本男児をなめるな。じゃ、やりたい日は晩飯うなぎにする、というのはどう?」

 いやだよ、と笑ってしまいましたが、今度やってみようかな。マンガが届いた日に。(笑)


8月13日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 夏場のヴィラはにぎやかだ。多くの客が長期滞在で来ているため、事件事故が多発する。

 護民官府のウォルフはこの時期もっとも忙しい。ラインハルトは最近寝るのが少ないと、おれの部屋で文句をいう。

「おれは野獣じゃないよ? でも、じじいでもないのよ? こうムラっときてもさ。浮気はしないようにしてるわけよ」

 おれにそういう相談をされても困る。そういう話はふたりでしなさい、と言うと、

「イアンと寝たら、あいつも目が覚めるかね」

 おれは酒を気管に流し込んでむせた。


8月14日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 ラインハルトの悪い癖だ。こっちがひとり暮らしと知ってて、ひとをからかう。さりげなく甘えてくる。

 おれは彼に言った。

「そんなことになったらウォルフに申し訳がたたないから、いっそウォルフと寝る」

 とたんにラインハルトは顔色を変えた。

「やっぱり、あんたウォルフに気があったんだな!」

「ない! いま、おまえに仕返ししたんだよ」

「うそだ。前からあやしいと思ってたんだ――」

 どうしよう。よりいっそう面倒くさいことになってしまった。


8月15日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 ラインハルトがわめきだして、手に負えなくなった。

 この男はおそろしく口がまわる。おれを最悪の色事師のように言う。

 もう帰れといっても帰らない。殴りかかってくるので止めたら、吐きやがった。

 ひとに片付けをさせ、いつのまにかソファで寝ている。おれはウォルフに連絡して、連れ帰るよう頼んだ。ウォルフはすぐ引き取りに来てくれた。

 だが、ラインハルトは帰り際、寝ぼけたふりして、おれに抱きつき、キスしてきた。

 すぐ引き離したが、やつの唇は笑っていた。あいつ、最悪。


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