2013年11月16日〜30日
11月16日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 一方、隣に目をやると、K様は肩をすくめ、口をおさえて必死に声をこらえています。

 彼のスカートは王子の頭で盛り上がり、ふわふわ揺れています。ぴちゃぴちゃと舌の音がしています。

「ア、は――もうやめ」

 K様の手が頭をおさえます。わたしはその手を掴み取り、

「騒がないで。ひとが見てますよ」

 ぎくりとその肩がこわばるのがわかりました。

(可愛い)

 羞恥にその頬が染まるのが見えるようです。

 でも、もう限界。いま膝の上に抱いてやれば抵抗しないでしょう。
 わたしはその肩に手を回しました。


11月17日 キアラン 〔未出・マギステル〕
 
 その時、わたしの隣に人影が立ちました。

「そこにいるのは、王子か?」

 とっさのことで、一瞬身動きできませんでした。

「王子なのか? キミ、来ているならなぜ、護民官府に出てこない!」

 王子の頭が止まります。K様も硬直。

「お客様――」

 わたしは押しとどめました。

「ご遠慮ください。いまはこちらのお客様の遊び時間で」

「わたしが話しているのはそのまたぐらに隠れている男のことだよ! こいつはわたしにドムスを売ると言ったんだ。なのに全然手続きしない!」

 ……台無しです。


11月18日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 やっとのことで客を追い払った時には、色っぽい空気はすっかり消し飛んでいました。

 野外プレイのリスク。いえ、サー・コンラッドの仕業です。妨害をかけてきたに違いありません。

 劇場を出た後、わたしはK様に言いました。

「申し訳ありません。埋めなおしをします。今夜――」

「あ、今夜はダメなんだ」

 K様は惜しそうに言いました。

「サー・コンラッドと会う約束をしてて」

 ノー。こんなホットなまま彼に会ったら、ぺろりと食われてしまいます。


11月19日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 わたしは彼に言いました。

「では、明日の夜は空けていただけますか。明日はシンデレラのイベントがあるんです」

「シンデレラって、あの」

 K様の顔がぱっと赤くなりました。

「ええ、初心者用のイベントですから簡単ですよ。女性用のステップも覚えたことだし、冒険しましょう」

 K様は恥ずかしそうにうなずきました。
 彼を帰した後、わたしは王子に言いました。

「悪い子だな。遊び中に邪魔をひき入れるなんて」

 王子は悪びれません。

「鞭? 甘んじてうけるよ」

「いいや。罰として護民官府にいくんだ」


11月20日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 午前中、寝ぼけたまま電話に出ると、サー・コンラッドが言いました。

『昨日はよくもやってくれたな』

「……?」

 頭が動きだし、ニヤリと笑いました。

「何かありましたか」

『あのニオイ、なんだ?』

「ニオイがどうか?」

『あのスーツ、捨てたよ。まだ吐き気がする』

「なんか踏んづけたんじゃないですか。犬のフンとか。ニシンの缶とか」

『クソッ! 笑っていろ。今夜のシンデレラ、おれも出るからな。そこでタグをいただく』

 わたしも言いました。

「……無理ですな。その時はもうタグはないでしょうから」


11月21日 キアラン 〔未出・マギステル〕

「さ、お尻を出して」

 わたしはK様に伏せるように命じました。
 しかし、K様はひと目を気にして、もじもじとためらっています。

「無理やり押さえつけられるのが好みですか」

「ノー!」

 K様はしかたなく草地にひざをつきました。遠慮がちにスカートをまくりあげます。

「もっと高くして。お尻を開いて!」

「――ッ」

 K様はこわばった手が動きます。きれいな丸い尻を掴み、こわごわ開きます。

「とてもいやらしいポーズですよ。お尻の穴が開いて、口みたいに動いてる」

 K様の内腿が震えました。


11月22日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 K様のアヌスは貞淑に引き締まり、少し色が沈着しています。

 そうした景色を実況してやると、K様は悲鳴のようにさえぎりました。

「キアラン、ひとが。ひとがくるから!」

「早く挿れて?」

「――」

「言って。早く挿れてって」

 K様は絶え入るような声で言いました。

「……はやく、いれて」

 わたしは笑いました。挿れるのはバイブですが、擬似おねだりです。自分の淫蕩なセリフが暗示になるのです。

 彼の耳は真っ赤でした。わたしはジェルをたっぷり指に塗りました。

「先に少しほぐします」


11月23日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 K様は草の間に顔を伏せ、必死に声をこらえています。しかし、

 ジェルの音をわざとたてながら、アヌスをほぐしつづけると泣くようなあえぎが漏れきこえてきます。可愛い声です。こちらもたまらなくなります。

「すごく締まりがいい」

 わたしはからかいました。

「ただし、処女の締まりじゃない。熟した人妻のように、ものほしげだ。ココがとくに、あたたまっています」

「ヒッ、ン」

 その腰が跳ねます。射精寸前。わたしは指を抜き、叱りました。

「勝手に射精することはゆるしません」


11月24日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 わたしは少し語気を強くして、K様のはしたなさをなじりました。

 もちろん人格的な攻撃ではなく、責めの一環です。
 彼をあまやかし、賞賛しつつ、時にこうして、彼のからだの卑猥さ、淫らさを責め、場の支配権を握っていくのです。

 懲罰のようにバイブを仕込んで立たせると、K様は羞恥と恐怖に、乙女のように涙ぐんでいました。わたしは彼の目元にキスしました。

「可愛い子。行儀よくふるまいなさい。じゃないと悪い狼があなたのにおいを嗅ぎつけて集まってきます」


11月25日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 わたしはK様をスタッフ居住区に連れ出しました。

 ここのインスラ(アパート)の一階はみなスタッフ用の店舗になっています。調教用ではありませんが、ドムス・ロセのプレイに使うことは許されています。

「ここで買いものをしてきてなさい」

 リストとお金を渡すと、K様は泣くように見上げました。しかし、もうイヤイヤは言いません。

「早く。わたしは外で待っています」

 K様はしかたなく歩きはじめました。

「待って」

「?」

 わたしはバイブのスイッチを入れました。


11月26日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 5分後、K様は泣きながら店から出てきました。それでも律儀に買ってきた飲み物の袋を差し出します。

「どうしました。いじめられたんですか」

 引き寄せて抱きしめると、K様は泣きじゃくりました。

「もういやだ。もうダメ。帰る。もう終わりにして」

 わたしは彼の頭を撫で慰めました。片手でさぐると、スカートが少し濡れています。おそらく刺激に耐え切れず、射精してしまったのでしょう。衆人環視の中。

「ちゃんと買い物できたじゃないですか。いい子いい子。じゃ、きれいにしましょう」


11月27日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 仕上げです。わたしは彼をテルマエ(公衆浴場)に連れていきました。

 彼の衣装を脱がせます。わたしも裸になります。いっしょに熱浴室の湯船に浸りました。

「落ち着いた?」

 笑いかけると、K様はまだ拗ねた顔をしていましたが、うなずきました。

「じゃ、こっちにおいで」

 お互いに裸です。K様はさすがにためらいましたが、わたしか彼の腕を引き寄せました。浮力でからだが軽いです。

 ふわりとその細身を抱き取り、腕のなかに抱えました。

「キアラン!」

「黙って。きれいにしてあげるから」


11月28日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 わたしは湯のなかで彼のペニスを握りました。

 K様は少しあわててもがきましたが、なだめるようにそれを愛撫しました。さらに片手でその乳首をなぞります。

 K様のからだがこわばり、よじれはじめます。首筋にキスを落とすと、ヒクッとその咽喉が鳴りました。

 しかし、その息遣いが少し変です。甘いものではなく、引き攣れて硬い。

 見ると、K様の目から涙が落ちていました。

「思い出しちゃって――」

 彼はすまなげに笑いました。

「いやなやつのこと。最初、犯られたの、風呂だった」


11月29日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 どうも地雷を踏んだようです。

 彼はもぞもぞとわたしの腕から抜け出ました。

「そいつ、ほかの犬と遊んでるから、おれも遊びにきたのに、やんなっちゃうな。おれだって浮気していいのに!」

「しょうがないですよ」

 わたしは言いました。

「あなたはそういう性分なんです」

 彼は少しおどろいたようにわたしを見ました。

「あなたはひとと軽々しくつきあえない。からだをモノみたいに他人に分かち合えない。でも、心を開いた相手にだけは全身で尽くす。そういう人なんです」

「……」


11月30日 キアラン 〔未出・マギステル〕

 わたしは、はや執着を去っていました。

 K様の泣き顔を見たら、失恋の痛みに転げまわっている最中だとわかります。

 次の恋にはまだ早い。わたしは横取りは好きですが、弱みにつけこむのは好きではありません。この勝負はおりたほうがよさそうです。

 わたしはK様をもう一度、軽くハグしました。からだを離し、

「でも、遊ぶのは悪いことじゃありませんよ。自分を傷つける目的じゃなければ」

 そう告げ、風呂からあがりました。


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