成犬館に入ったのは久しぶりだ。裸の人間を見るのも。
 だが、感傷にひたるヒマもなく、おれたちは回廊をどたばた走った。

「メリークリスマス! メリークリスマス!」

 客やスタッフとすれ違うたびに騒々しく連呼。相手も笑って挨拶を返してくれるが、それ以上のリップサービスはできない。
 成犬館のプレゼントは特別重いのだ。新参のふたりはすでによたよたしている。

 だんだん足並みも乱れてきた。体力のないダニーが立ち止まって、あえいでいるとキーレンが叱った。

「ぐずぐずするな。今日中にやらなきゃ意味がねえんだ」

「1分だけ――ワゴンとかないのか」

「電気棒ならあるぜ。持ってくるか?」

 おれは彼からプレゼントの袋を取り上げ、ふたつかついだ。
かつぐのは問題ない。だが、おれはふだんあまりしゃべらない。そろそろ声が枯れてきた。

「メッリヒ、クヒスマー!」

 すでに咽喉が笛のようになっている。劉小雲も声がかすれている。あとのふたりはもう、がむしゃらにベルをリンリン鳴らすだけだ。

「メッヒー、ヒスマー」

 セルの犬たちは何を叫んでいるのかわからなかったろう。豚やヤギが騒いでいるみたいだ。
 最後はホッホッホ、と笑うだけ。ホッホッホ、ヒッホッホと笑いながら犬に抱きつく。犬に倒れかかっているやつもいる。

「おまえら!」

 キーレンがケツを蹴り上げるが、おれたちはまたヒッホッホ。疲れすぎて、少しおかしくなっていた。
 そこへアクトーレスがひやかしに来た。

「サンタさん。おれたちのインスラにもきてよ。プレゼントはビールのパックでいいよ」

 キーレン・サンタが今度はそいつのケツを蹴り上げる。つづいて船長。おれと劉小雲とふたりもそいつを囲んで蹴りまくった。





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