目の前の扉が開くと、何人かのパトリキたちが外科部長や按察官補佐を中心にして集まっていた。 (まだいたのか...) 最後までこの茶番を見ていくというのだろうか。 俺はドアにもたれてじっと待っていた。
どうせ逃げることがかなわないのであれば、出来るだけ体力は温存したい。幸い俺が人らしく佇んでいることを咎めるつもりもないらしい。 呑気な金持ちのパトリキ達。狡猾さと稚拙...、なんてチグハグな手順。
優秀なアクトーレスの1人でもつければ、もっと効果的にコトを運べるだろうに。 (......何を考えているんだ!?) 不意に一人の男の顔が浮かんで、慌てて俺は頭を振った。
イアン・エディングス...一度は犬に堕とされて、再びアクトーレスに戻ることを許された優秀な男。 (俺は何を望んで...)
「...値踏みしてる感じだね。まだまだ余裕ってトコなんだ」
すっと目の前に影が差したと思ったら、強引に顎を掴まれて顔を覗きこまれる。視線を上げると俺を面白そうに見るパトリキの顔があった。 「ビタ様......」
「気をつけることだ。みんなが私のように甘いわけじゃないからね。冷静なアクトーレス...」 「んっ...ぅんん...っ」
重ねられ捻じ込まれた舌に蹂躙される。冷静な判断も計算も一瞬にして霧散して、夢中で応えてしまう。
Cナンバー経験者達はそれぞれが麻薬のように抗いがたい甘い毒を纏っていた。そんなことは俺が1番知っていたはずだったのに。
「はい、そこまで」 「抜け駆けはなしですよ、ビタ卿」 名残惜しそうに離れていく唇を、俺は未練たらしく見つめていた。 「このバカ犬は自分の置かれた状況が理解できていないらしい」 「...簡単に従順になられても興ざめするくせに」 いつの間にかパトリキ達が俺を見ていた。
「待たせてしまったね、ファビアン。外科部長がどうしても説明して欲しいってきかなくって」
輪の中心にいたパトリキが手にしたものを俺に掲げて見せる。頭で理解するより先に身体のほうが竦む。
「今でも理解したわけではないですがね。東洋の神秘と言うのはいまいち胡散臭くて...」 「どう考えても無駄ばかりで、能率的でも合理的でもないでしょう?」 外科部長と按察官補佐がしきりに首をひねっている。
俺だって理解し切れてはいない。どう見てもパトリキの手にあるのは荷造り用のロープだった。俺を拘束するのだとしても手枷も足枷も揃っているはずだ。拘束着だってラバーもレザーも好きなだけ用意されているはず だった。なぜそんな安っぽいものを...。
なのに他のパトリキ達は異を唱えることはなかった。それどころか、期待に満ちた目で俺とロープを見比べていいた。
「私も最近はまったばかりでね、たいした縛り方は出来ないんだが..。この犬の肌には麻縄が似合うと思わないか?」
「赤い絹縄でもぞくぞくしちゃいそうだけど...。確かに麻縄の方がかえって扇情的かな」
ビタ様の手が俺の腹から胸を撫で上げた。爪が過度の刺激に立ち上がったままの乳首に触れて、息を呑む。 「あ...」
次の瞬間、首に縄を掛けられていた。前に回った縄には2本纏めて作られた結び目がいくつか垂れている。最後の一つがちょうど臍の下ぐらいにあって、そこからペニスの脇を通って尻へと縄が回される。 「ほらシャンとしてっ」 「うっあぁ」
ペニスを鷲掴みにされ、尻を平手で何度もぶたれる。俺のペニスは何故か反応しだしていた。
尻の方から腿の付け根を通ってペニス脇の縄をくぐって、また後ろへ回る。今度は前に回って結び目と結び目の間に通され、また後ろに回り...。 俺の腹から胸の間に4個の菱形が出来上がっていた。
そして最後に後ろ手に手首を拘束された時、俺は完全に勃起してしまっていた。
「結構簡単なんだね、亀甲縛りって。でもなんか物足りない感じ。普通は結び目作ってアナル塞いじゃうとかするんじゃないの?」
「今回は別の趣向が用意されてるからな。なんなら細い絹縄が余ってるからペニスで試してみたら、亀甲縛り」 「あ、私がやる」
俺はパトリキ達の呑気な会話を遠くに聞きながら、自分の身に起きている変化に戸惑うしかなかった。
思ったよりも柔らかな縄が身体に食い込むたびに、何かが解放されていく感じがするのだ。自分の身についたささやかな常識とか固定観念が剥がれ落ちて、感覚が外に向かって解放されどんどん自分が剥きだしにされていく。敏感なペニスや乳首だけでなく髪の毛や爪の先ですら鋭敏に快楽を拾っていく。 「...できた」 「ぅあっ...くっんん...や」
赤い紐が竿に絡みつき遂情を妨げる。先刻までの決心はどこへ行ったのか、今の俺はただ悦楽だけが全てだった。
誰かが俺を作業台に乗せる。すぐに膝下に青竹をあてがい、M字開脚の状態で縄を掛けられる。何かの布で目隠しまでされた。プレイとプレイの間はチグハグなのに、プレイ自体はいつだって滑らかな流れですすめられていくのだ。 その間ずっと、俺は肌の上を走る縄の感触に咽び泣き続けていた。 「そんなものまで用意していたのか...」 「見た目も大事だろう?」
「...本当は梁に蜘蛛の糸にでも絡まったように吊るせられれば見応えあるんだがな。あいにくココには滑車やフックぐらいしかない」 「ぼやくなぼやくな。そのかわりにもっと面白いことが出来るんだから」 「ま、それもそうだな」
俺の背に腕との間を縫って幅の広い布が通される。膝の外側に伸びる青竹の外側にも別の布が絡まり、俺はM字開脚のままハンモックに乗せられたように吊り上げられてしまった。 「ほう...黒絹に金糸の刺繍の帯...ですか。日本の伝統美?」
「ああ、家令殿。今回はヴィラでこのような野暮なまねを許してくれて、すまないね」
「ヴィラ.カプリはご主人様方のお楽しみの場ですよ。如何様にもお好きに遊んでくださっていいんです...壊さない程度に、ですが」 「心えているさ。さて...」
誰かの指が晒された尻に触れてくる。触れるか触れないか、かすかな感触にひくりとソコが息づき始める。 「ずいぶん物欲しげなことだ。吸い付いてくるぞ」 「ああ...っ」 アナルを指の腹で塞いだパトリキの声が笑いを含んでいる。 それからソコに湿った息が吹きかけられた。
穴だけを舐められる。どこにも触れず、その肉の空洞だけを長い舌が出入りする。 「ひっ...」
突然、冷たいものが押し込まれる。小さい氷片なのだろう。すぐに溶け出す感覚がする。尻穴を伝う水の感触までがリアルに俺を責めたてる。 「そろそろ頃合かな...」
何かを動かす気配がして、足元から水の匂いと微かな水音がした気がした。 「さあショータイムだ」
滑車の軋む音がしたかと思うと身体が下がっていく。尻に水が触れても、予想はついていたので驚きはしなかった...次の瞬間まで。 「...!」
生臭い匂いがふわりとしたかと思うと、頭の先まで水の中に沈められる。突然のことにパニックに陥る寸前、顔までが引き上げられた。 「ゲホッ...ご...ひっ」
何かが蠢いていた。水の中で何かが這い回り、俺の敏感になっている肌を掠めていく。無防備な尻の狭間にぬるりとした...何? 「素晴らしい眺めだね。ガラス?」 「強化アクリル板。水族館の水槽と同じものだよ。クリアに見えるだろ」 「私達の時みたいにリングは装着しないんだ...」
もうパトリキ達の声も素通りしていく。ざわり、ぬるりと、その感触だけで俺の世界が埋め尽くされていく。 「アレみたいにやわじゃないからね」 「でも泣かされたクチだろ」 「昔の話だな。...さて、ココからが本番だ。山田くん」 急に水温が上がりだす。誰かが湯を注いでいるのだ。
理由はすぐに知れた。得体の知れぬものが暴れだす。熱さにのたうちだし、そして...。 尻に、アナルに何かが集まり始めた。 「壮観だな。でもなぜ?」 「安全だと思ってるんだろ。少しでも温度の低いところにいきたくて」
先刻の浣腸と、過度の刺激で緩んだソコに何かが争うように潜り込もうとしてくる。俺は必死に侵入されまいと力を込める。しかし、尻に群がったモノが会陰をすべり敏感になっているペニスに絡みつくために、すぐに綻んでしまう。 「うわぁっ...ああああっ」 ついに何かが侵入してきた。のたうちながらぬるりぬるりと奥へ。 「おお、自力で侵入したぞ」 「どこまで入るかな...」 「い、いやだあああ」
際限なく潜りこんでくる錯覚に陥る。意思を持った何かが身体の中を犯し、俺の全てを食い破る。 「一度引き上げた方がいいな...」 「ひぃあああああ」 身体が湯から出される。ずしりと尻穴に重みがかかった。 「...落ち着くんだ」 頬が叩かれ我に返る。誰かが俺の頭を抱きしめていた。 「別に怖いものじゃない。ゆっくり目を開けて自分で確かめるといい」
目隠しが外される。言われるままに目を開けると、正面には艶やかな帯と麻縄で吊られた哀れな犬が、尻から青光りする黒い尻尾を生やしていた。 「いっ...やぁ......」 「今度は目を閉じて。感覚だけ追うんだ。気持ちいいだろう」 「あ......」
優しい手が目を覆ってくれる。俺は言葉に促されるまま意識を尻穴に向けた。どれほど入っているのだろう。腸の中で奥へ進もうとのたうつそれが、ともすればずるりと抜け落ちそうになる。 咄嗟に締め付けると苦しげにそれが暴れだした。 「ほら、支えているから少し緩めてごらん。落ちやしないから」 「は...い...ご主人様。...く、んっ」
言われるままに力を抜けば奥へと進んでくる。予測のつかない意思を持ったものに腹の奥を侵されて、甘い恐怖に囚われる。 しばらくすると、それの動きが鈍くなってきた。
「さすがにウナギも限界だな。これじゃファビアンも楽しめないだろうし、次のにいくか」 そう言うなり、尻尾が勢いよく引きずり出される。 「ああっ...」
また小さな氷片がアナルに押し込まれ、水槽へと下ろされる。今度はしっかり見ていろと命じられた。
幾分冷めた水に、また湯を足される。何匹ものウナギ達が逃げ場を求めて俺の尻に群がってきた。唯一温度の低い穴へと。僅かに綻び口を開けたソコに、何匹ものウナギの頭が潜り込もうと争っている。おぞましい光景にもかかわらず、俺は魅入られたように見つめていた。 「...んっ」
さっきより太い1匹が他を押しのけて侵入を果たした。肉胴を掻き分けてくるのをじっと待つ。先のウナギがいたとこまできたのを感じて、傍らのパトリキを見上げた。
「まだダメだ。実はシェフに頼まれていてね、何匹か必要なんだよ。1匹づつじゃ間に合わないんだ」 「そん...な」 「なら私が手伝ってやろう」
おもむろに伸ばされた手が容赦なくアナルを広げた。入っているウナギがいっそう奥へと進む。そして新たな1匹が頭を突っ込んできた。 「しっかり銜えていろ」
引き上げられれば、1度目以上の重みが尻穴にかかる。視線を上げれば、鏡の中で2本の尻尾を振り回して悦んでいる哀れな犬がいた。赤い紐に彩られたペニスは、萎えもせずにだらだらと透明な汁を滴らせている。
薬を仕込まれたのだと思いたかった。この部屋に入る前に飲まされた水か、さっきの氷片か。 しかし、俺の変化は縛られ始めてからのことなのだ。 「あ...ああ...いい...」
誰かの指が尻穴を広げれば、また別の手がずるりとウナギを引き出そうとする。晒された会陰も誰かの指がずっと撫で擦っている。時折ウナギの尾が尻やペニスを打つ。 「う...あっあっ...な、なに......あああっ」
後から侵入したウナギの頭がポイントに当たった。その衝撃に尻が痙攣を起こしたように震える。 「ここか...」
どういう仕掛けかウナギが固定される。予測のつかない動きに翻弄されて、俺は射精を許されないままに絶頂に達した。
何度繰り返されたのか。一度も射精することもなく、強烈な絶頂感だけ を味合わされて、俺はようやく床へと放り出された。 信じられないほど腹の深くにぬめる生き物を感じながら...。
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