リレー小説 ファビアン  ACT6 担当 とーる様

食べている間、とめどなく流れた涙はすでに止まっている。と、同時にパトリキたちの調教の手も止まった。うなぎ、筆、携帯電話…ときて、軽い食事。食欲を満たした彼らが、このまま満足して返ってくれることを心底願った。 
「さて、これからどうしようか」
鮮明に残った涙の跡を見られないように顔を伏せていたおれには、誰の声なのかよくわからなかったし、自分を陵辱するための相談など、聞いていたくもなかった。
「どうするといってもねぇ。大体やりたいことはやってしまったんじゃないのかな」
 満足げなパトリキの声。そうだ、そのまま解放してくれ。おれの仕事はこんな風に調教されることではないのだ。普段の業務に戻りたい。どうやら絶え間なく続いた調教の間のこの小休止は、おれにいつもの思考能力を取り戻させてくれたらしい。
「えぇ!?でもまだなーんか、物足りないよ、ねぇ?」
「そうだねぇ…」
 わいわいがやがや。うるさい。早くおれをアクトーレスに戻して。そうしたらあなた方をまた、可愛がってあげるから…Cナンバーの、仔犬たち。



「あの…だったら私、ずっとやってみたかったことがあったんですが、それを試してもいいですか?」



 パトリキたちにとっては天の声。おれにとっては絶望に叩き落す声。その主を見ようと、顔をあげた。
「まぁいいんじゃない?とーるさまの他は誰もまだ、何も思いつかないみたいだし。ねぇ、七瀬さま?」
「…そうだね。それじゃあ私が、とーるさまがファビアンと遊んでいる間に次の手を考えようではないか」
陰湿な笑いを浮かべたパトリキたちに向かって、とーるさまは嬉しそうに微笑んだ。おそらくこのヴィラに足を運ぶ客の中でも、ずいぶんと若い部類に入るとーるさまは、好奇心旺盛だ。よく調教について尋ねられたものだった。
おれは心よく教えた。頼られて悪い気持ちのする奴はいない。まさか、こんな仇で返されるとは思ってもみなかった。
 とーるさまはスキップで俺の近くにやってきた。
「七瀬さまのお許しが出ましたよ、ファビアン。ふふ。さぁ、皆さんに私と遊ぶところを見てもらいましょう」
 とーるさまの笑顔は、何も知らない子供のソレだった。




とーるさまが大きな鞄から取り出したのは、とある炭酸飲料のペットボトルだった。彼はおれの目の前で、それを振った。
「ファビアン。これ、知ってますか?」
「はい、ご主人様」
ファンタ、という名の炭酸飲料だ。おれだって飲んだことがある。
「何味が好きですか?」
とーるさまが持っているのはオレンジだったので、持ってはいまいと思い、キウイと答えた。キウイは期間限定品であり、今はもう売っていないはずだった。それにおれの記憶が正しければ、この飲料のペットボトルの形状が変わったのは、キウイが発売されてからのことだ。よってこの形状のキウイ味は売っていなかったことになる。
「キウイ、ね。ちょっと待って」
がさごそと取り出したのは、紛れもなくキウイ味だった。ペットボトルの形も今のもの。なぜ持っているのだろう、と疑問に思ったのが顔に表れたのだろう、
「我々パトリキを甘く見ないでほしいな。いくらとーるさまがヴィラに来て日が浅いとはいえ、ね」
と一人のパトリキが近づいてきて、おれの前髪を掴んで顔をあげさせた。我慢できないわけではないが、かなりの力である。
「…まさか、逃れられるとは思っていないだろうね?」
ぞくり、と身体が震えた。そうだ。持っていない味をいえば、これから起こることを回避できるのではないかと一縷の望みを持っていた。この人たちは、歪んではいるが、皆おれを愛しているのだから、なるべくおれの希望を叶えてくれるのではないかと思っていた。特にとーるさまは、まだまだ甘いから。
「逃がす気など毛頭ありませんよ。私がやってみたかったことをするんですからね。…ほら、ファビアン。この形、いやらしいですよね」
後ろに回ったとーるさまは、おれの緩んだままのアナルをちょんちょん、とペットボトルのキャップ部分でつっついた。たったそれだけの軽い刺激にまで翻弄される自分が嫌だ。
「うーん…やっぱり細い方から入れるのがいいのかな?拡張って感じがするし…」
「とーるさまのお好きなように。ぼくたちはここでゆっくりと見ていますから。…ああ、フミウスさま。お茶をどうぞ」
「これはこれは。ありがとうございます」
おれを除いて、そこは明らかに和やかな貴族たちのサロンそのものだった。優雅で、気品があって。そんな中に一人、全裸のはしたない男だけがミスマッチだ。
「んじゃ、お言葉に甘えて…行きますよ、ファビアン」
行きますよ、と言ったときにはすでに、ぐっと突き入れられていた。
「あっ…あ…」
散々攻め抜かれたそこは、特徴的な丸いフォルムを貪欲に飲み込む。
「つめ…った…っ!」
「そりゃあ、よーく冷やしてありますから」
サロンのパトリキたちも笑う。
「やっぱり炭酸飲料は冷えてなくっちゃあね」
「そして気が抜けてるなんて駄目だよね」
パトリキはおれを見ながらも、どんな炭酸飲料が好きかという話をしていた。
「皆さん、ファビアンをちゃんと見てやってくださいよ。私たちのかわいい犬なんですから。見てあげないと、かわいそうですよ」
哀れまれているのか、おれは。
同情、憐憫。そういう類のものは、幼い頃から嫌いだった。言われない差別を受けるよりも、そのことで他人の同情を引いてしまうのが、許せなかった。
「アァ…ハァ…ッ」
「やっぱり散々いじめてしまったから、緩くなってますね。うーん。…もうちょっと、かな」
何がもうちょっとなのか、考えることもできない。ペットボトルは内部を思うままに蹂躙する。
ぐちゅぐちゅ、と拡張され続けるアナルはもうこれ以上、壊れることはないだろう。
一層音を響かせ、とーるさまはペットボトルをおれから抜いた。




これで終わりだろうとほっとしたのも束の間、背後でぷしゅ、という音がした。かと思うと、何かが流れ込んできた。
「あぅ…っ!」
さっきまでおれの体内にあったペットボトルの、中身だ。どぽどぽと注ぎ込まれ、腹がぎゅう、と苦しくなる。
「おやおや、とーるさま?あまりやりすぎては、ファビアンの身体が壊れてしまいますよ?」
「何のために外科部長がいるんです?それに、大丈夫ですよ。さっきまでファビアンのアナルに入れて、あっためておいたんですからね」
とーるさまはふふん、と鼻を鳴らした。
「さて、ファビアン。美味しいですか?残してはいけませんよ」
「ひっ…うう…ああぁ!」
残してはいけない、とは言われても、わずかな隙間から炭酸水は溢れる。そのシュワシュワいう感触が、つぅ、と太腿まで流れ、更におれは感じた。トプトプと音を立てながらおれに注がれるネクタル。いっぱいになっても、とーるさまはペットボトルを抜いてはくれない。
「うう…ぅ…」
直腸に達してなお、流れ込もうとする液体に、腹が震えた。ぐるり、と音が漏れたのを、パトリキは聞き逃してはくれない。
「おや、どうしたのかな、ファビアン?」
「お前が望んだ味だよ。おいしいだろう?」
近づいてきたパトリキは、おれの顎を掴んで顔を上げさせ、その美しい瞳で冷酷に見つめてきた。
「あ、あぁ…おいしいです…っ…ふ…」
もうわからない。
恥ずかしい台詞を言わされているのか。
それとも自ら望んで言っているのか。
「で、でも…っ」
限界が、近い。
身体の中でふつふつと湧き上がる気泡が、自分の指をそこに突っ込んでひっかきまわしたいくらいのもどかしい痛みとかゆみを与えてくる。
「んふ…っ、は…っ、おねが…」
犬らしく尾を振るように、尻が震える。
かろうじてまだ、パトリキたちが目線で会話をしたことに気がつくアクトーレスとしての洞察力は失われていないようだった。
「もういいですよ、ファビアン」
きゅぽ、とボトルが一気に引き抜かれると同時に、肛門からは弾けるように
液体が流れ落ちてくる。
(ああ、食べたばっかりなのにな…)
粘性をもった液体が足を伝う嫌悪…あるいは無上の快楽?…に身を震わせながら、そんなことを考えることがまだできる自分を哂った。
このパトリキたちは、犬にする男を間違ったのだ。あれほど攻め抜かれても、少しでも時間を置けば元の冷静さを取り戻してしまうような男など、犬にしても苦労するだけだ。そうだろう?おれが従順なのは、プレイの最中だけなのだから。
怖いものなどない。
どれだけ調教されても、おれは、おれがおれであるということだけは捨てられないのだから。





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