リレー小説 ファビアン  ACT9後編 担当 さい様


「さあさあ、どうか皆様もご一緒に。ファビアンにいっぱい食べさせてあげて下さい」
「なるほど……産卵プレイね」
 恐れていた現実が明確に形を成す。
「産卵プレイは好きなんだけどね、どーもここの陶器やプラの卵だけは気に入らなくて」
 さい様は溜め息をついた。
「なるほど。それでこのコンニャク卵ですか」
「なかなかのアイデアで」
 手にした実を興味深気に弄っていた外国人パトリキ達も頷く。
「そうだ! ただ皆様で遊ぶには少々物足りない。ここは賭けなどどうでしょう?」
 wakawa様がいいことを思いついたと、声を弾ませる。儚げな雰囲気とは裏腹に、その顔には興奮が伺える。彼もまたこのヴィラのパトリキなのだ。
 見た目の印象など何一つ当てにならない――
「賭けって――」
「そう、ファビアンが幾つ食べられるか」
 ボウルの分で足りなければまだありますからと、ぱすた様の絶望的な言葉が続く。
「賭けってからには……何か得る物がないと」
 俺は新たな恐怖に竦む。その様子を見ていたビタ様が俺の髪を撫で梳きながら、
「ではお互い飼ってる犬はどうです? 勝った方が好きな犬を借りられるって言うのは」 部屋は新たな興奮にざわめく。
「ファビアンにもご褒美あげようね。そうだ、1つにつき1分休ませてあげよう。10個飲めたら10分。だから頑張ってたくさん飲むといい」
 ヤマ様が優しく穏やかに語りかける。甘い、蕩けそうな声だ。
 盛り上げ役に乳売りアクトーレスを呼べと誰か叫び、俺は身を硬くした。こんな醜態をこれ以上晒し物にはしたくない。
「生憎ですが、彼は今仔犬の調教に入ってまして」フミウスの言葉が救いだった。
「それではまず賭けを! さぁ張った張った! 張っちゃいけないオヤジの頭、張らなきゃ食えない提灯屋! 果たしてファビアンはこの玉コンニャク、一体幾つ飲めるか!?」
 僣越ながら私がと、おサル様が香具師に引けを取らない滑らかさで口上を連ねる。南京玉簾と言い、その特技の数々は得体が知れない。
 30、38、45、100!
 どこかの競市さながらにあちこちから声が上がる。
「的中者がいなかったら?」
「そりゃ一番近い人でしょ」
「オーバー有り無し?」
「無しで。超えたらアウト」
「じゃあ――」
 新たに数字のコール。
「家令殿が困っているよ。公平もきして記名投票にしてはいかがですか?」
 クリップボードとペンを手に、わたわたしているフミウスを見兼ねたじゅら様が提案をする。フミウスの顔に安堵が浮かんだ。

「さあ、では投票も終わりましたので、ファビアンに食べさせて上げて下さい。どうぞ皆様振るってご参加下さい」
 フミウスの声にパトリキ達は俺の綻んだ後孔に視線を注ぐ。
「ちゃんと数えるんだよファビアン。出来なかったら始めからやり直しだからね」
 1番の権利を得たゼット様が、丸いコンニャクを俺の後孔に差し込んだ。
 チュルリと、滑らかな表面のそれは俺の窄まりを簡単に潜り、散々弄られて荒れて熱を帯びた腸の粘膜を冷たく撫で落ちる。
「あ、……はあ――!」
「気持ちいいの?」
「ちゃんと数えなきゃ」
「はっ……ひと、つ……」
「そうそう、まだまだ行くよ」
 指ごと深く押し込む者、すぐには入れず括約筋に咥えさせては何度も出し入れをさせる者、まるで舌のように尻や陰嚢を這わせてから入れる者――排泄にも似た快感が背筋の芯から駆け上がり、鳥肌が立つ。俺は必死に嬌声を噛み殺しながら数を数える。
 やがて新たな変化が訪れた。排泄に似た快感と言っても、出すのではなく飲まされているのだ。大量のコンニャク卵に膨らんだ腸が中身を押し出そうと捩じり上がる。そして膨らんだ腸は更に膀胱を圧迫する。四つん這いの姿勢では重力も加わりたまらない。
「――無理……もう無理です……!」
 腹の痛みを噛み殺しながら俺は訴える。
「お願い、です……もう……無理です! 腹が痛い――」
「何言ってるんだ、まだまだ入るさ!」
 だったらスペースを作ってあげましょうかと、とーる様がさっきまで散々突っ込んでいたペットボトルをチラつかせて笑う。
 冗談じゃない!
 この状態であんな物を押し込まれたら確実に腸が破裂する!
 こんな時にストッパーになるべき外科部長は、メスで玉コンニャクをスライスして遊んでいる。
 俺はカテーテルが引っ張られる痛みにも関わらず、後孔を隠そうと転がるように横座りに倒れ込んだ。膨らんだ腹が重く、大層みっともない姿であろうが、純粋な恐怖の前には見栄も消し飛ぶ。
 気が付けば頬を涙で濡らしていた。洟まで垂れて冷静なアクトーレスの見る影もないだろう。
「ここまで頑張ったんです、苛めるのはその辺にしてあげてくれませんか?」
 頃合を見計らっていたらしいフミウスの言葉に、途端に雰囲気が和らぐ。
「ちょっとやり過ぎたかな?」
「家令様に嫌われちゃったらここで立つ瀬なくなるしね」
「いい子なら泣かない泣かない」
 腕を引かれ、再び同じ四つん這いの姿勢を取るように促された。重い腹と無闇に動くと引き抜かれそうに痛む縛られたカテーテルが動作を鈍くしたが、叱責や鞭が飛ぶことはなかった。
「動いたからさっきより出てきちゃったね」
 可愛い口が開いて中身が見えてるよと、俺の後ろに回った誰かが骨ばった指で筋肉の双丘を割り開くと、薄く伸び広がり、張り詰めた後孔の粘膜に舌を這わせた。
「――ぅあ、ひうっつ――」
 苦しいはずなのに、俺の神経はまだ貪欲に快感をかき集める。
 
 では数は――当選者はパトリキになったばかりの、旧ソビエト領の小国の実業家だった。数年前にロシア王朝の血を引く女性と結婚して一時期話題となった。
 お姫様を娶った男は古参の、本物の貴族であるイギリス人のパトリキの所有する拳闘士犬を指名した。愛犬を指名されたパトリキは優雅に微笑う。
「お願いです……もう……出させて、下さい」
 盛り上がるパトリキ達に俺は訴えた。
「頑張って入れんだ。稼いだ分だけ休んでいいって言っただろう?」
 目の前のパトリキは嘲笑を浮かべながら、冷淡に言い捨てた。
 休憩とは名目だけの――放置だ――
 膀胱の中のゼリーが許容量限界でなかった理由も今は分かる。後程のプレイの為に持たせたゆとりだ。だがたくさん詰め物をされた腸が腹の中から圧迫して既に限界だ。
 前後の孔から入れられた異物が腹の中をいっぱいに満たし、耐え難い痛みと排泄欲求が俺を苛む。
「――お願い、します、ご主人様――!」
 いっそこのまま死ねたらとすら思った。さぞ不様だろうが、死に様など結果でしかないことは承知だ。最も――そんな考えはすぐに霧散する。
 そんな安寧は訪れない。痛みは生を欲する。
 俺は解放の呪文を知っている――
 見栄やプライド、己の体全て、血の一滴や髪の一筋まで捧げて許しを乞うのだ。
 かつて俺が仕込んだ犬達に言ったように――
「休憩はもうないよ。プレイ再開していいんだね――」
「……はい――」

 自分で――選んだ。
 奈落の更に奥底まで落ちることを。
 生きるための本能が――――



「どっちを出したいのファビアン」
 ユキマロ様が優しく声をかけて来た。
「……どっち、も……」
「優しくされればすぐに付け上がるのか! この馬鹿犬!!」
 きつく言い放った七瀬様が俺の顎を持ち上げる。俺の顔は涙や洟、涎と言ったあらゆる分泌物でぐしゃぐしゃだった。
「ヴィラきっての冷静なアクトーレスも形無しだな」
「けど私はこれ位が可愛い。今までが隙がなさすぎ」
 談笑していたパトリキ達に、気が付けば再び囲まれていた。
「ファビアンどっち先?」
「……前を――」
 究極の選択だ。だが前は戒めを外して貰わない限り、どう足掻いても解放されない。
「こっち?」
 わざとカテーテルを引っ張られ、俺は悲鳴を上げる。
「そんなに苛めちゃ可哀相」
「では優しいユキマロ様に免じて」
「じゃあ上向いて寝ようね」
 鉗子と脚を繋いでいた紐を切られ、俺は仰向けに転がされた。
 今までの四つん這いの時と反対に腹の内側に重さがかかる。
「コレ外せばいいんでしょ?」
 近くにいたパトリキがカテーテルを挟む鉗子に手をかけた。
「あ……ダメ――!」
「準備してからじゃないと!」
 coco様やヴェスタ様シルル様と言った、医学知識のあるパトリキ達から悲鳴にも似た叫び声が上がる。
「え?」
 だが既に遅し。パトリキはクランプを外していた。
「――あ……あああああ――――!!」
 遮る物を失い、解放を望む流れは一気に外へと噴き出す。

「――人間噴水」
「ってゆーかジェット噴射」
「もう〜、笑いごとじゃないって」
 カテーテルを流れ抜けた体温で溶けたゼリーは、鉗子を外したパトリキと、それを止めようとしたシルル様に浴びせかかった。
「砂糖入ってないからベト付かないよ」
 ぱすた様が呑気に笑う。
「髪と服濡れた〜」
「じゃあ脱いじゃえ!」
 不平を漏らすシルル様に数人のパトリキが一斉に襲いかかり、着ていた白いハイネックの上着をむしり取った。
「――シルル様って結局、マッパの運命なんだ」
 誰かの一言に部屋には笑いが起きる。
 俺はまだダラダラとゼリーを漏らし続けていた。勢いがよく出たのはほんの一時だけで、一気に排泄出来ないもどかしさに、気が狂いそうだった。
「もう抜いちゃおうか」
 あっさりと興味を失くしたさい様がバルーンの水を抜くと、排泄途中のカテーテルを引きずり出した。
「……くぁ!? うぁああ――!!」
 尿道を圧迫していたカテーテルが抜かれたことで、排出は勢いを取り戻した。
 内臓の熱で溶けたゼリーはとろみを持ち、尿道の粘膜を擦りながら吐き出される。
 排尿と射精の相俟った、今まで味わったことのない快感だった。体外に排出されるゼリーは重く、射精のような感覚をもたらし、だが一過性ではなく、排尿のように長く続いた。俺のペニスは腹まで立ち上がり、顔や胸をしとどに濡らした。
「セルフ顔射」
「本当に射精してても分からないね」
「射精してなくても十分達ってる」
 弛緩を伴う快感に俺の顔はだらしなく惚けていた。緩んだ後腔からは飲まされた卵を吐き出していた。



 周りをこんなに汚して。
 トイレの躾が出来てないんだ。
 前だけだと言ったのに勝手に後ろも出して。
 尻の穴の緩い犬だ。

 正気を取り戻した俺に容赦なく突き刺さる言葉の数々。
「じゃあこれ以上お漏らししないようにしてあげよう」
 俺のまだ力を失わない勃ったままのペニスに、先程のカテーテルよりも太いと思われる棒をさい様は挿入し始めた。残ったゼリーの滑りで思いの外スムーズだった。
 硬めのゴムで出来たボディーにはコイル状の溝が刻まれていて、それが尿道の粘膜を擦り上げ、抜き差しされると発狂しそうな快感を生む。
 ネジのように平たく潰した頭の部分まで全部入れられ、ようやくペニスから手が離れた。
「前のお漏らしの心配はなくなったし、今度は後ろかな」
「その前に粗相の始末をさせないと」
「どーするの?」
「ゼリーは許してやるとして、こぼした分を口で拾いなさい。尻の穴から勝手に落としたのを1つずつ」
 何度目か分からない涙が込み上げて来た。
 床を這い、唇を寄せ、自らの体内から出された物を口に含む。手入れの行き届いた靴のつま先で転がされたり、わざと遠くに放られたりもし、重い腹を抱えたままよたよたと、広い部屋を這いつくばる。
「よく出来たねファビアン」
 先程俺に拾えと冷たく言い放ったパトリキが優しく頬を撫でてくる。振り回され揺さぶられ続けた俺の精神は均衡が保てなくなってきている。
「幾つ集めた?」
「……5つ……です……」
「じゃあ、あと幾つある?」
「…………」
 飲まされた時はその快感と苦痛に翻弄され、口では数えていたものの、その数字を忘れていた。
「仕方ない犬だ。今度は忘れたらいけないよ」
 そう言われ、また数を数えながら、今度は産卵をさせられた。
 ……1つ……2つ……
 声が鼻にかかるのが分かる。
 つるりと滑らかな弾力を持った擬似卵が、内側から括約筋を押し広げながら産み落とされる。
 四つん這いのままでは上手く腹圧がかけられないが、大量に飲まされた特別大きくもないコンニャク卵は力まずとも排出することが出来た。
 確実に軽くなっていく腹。
 生理的な快感。
 だが筋肉の輪を丸い卵が潜り抜ける時には背筋に電流が走り、腰が抜けそうになる。
 腕が震えるのを必死に堪える。
「気持ちいいんだねファビアン」
 火を噴きそうな程に上気した頬をほっそりとした指、柔らかなてのひらが撫でさする。
 ……誰だ――?
 俯くこと、目を閉じることを許されず、だが視線は焦点が合わずにぶれる。溢れ続ける涙のせいかも知れない。
 
 そう言えば海亀は泣きながら産卵するんだっけ?
 あれは体内の塩分出してるだけだって聞いたけど。

 ――揄いの言葉も――今の俺の耳には遠い。

「自分の感覚に素直に従うんだ。何も怖いことはないんだ」
 快感の合間に僅かに覗く理性を掴もうとする意識に、優しい声は甘く絡みついて沈む。
「上手く出来たらコレ抜いてあげる」
 臍に付きそうな程に屹立した俺のペニスに差し込まれた栓の頭を、硬い爪先が悪戯に引っかく。
「あ、ひぁ、あ――」
 亀頭に走った電流のような刺激に、後孔の筋肉は窄まり、排出しかけていた卵が腔内に引き戻ってしまった。
 出すのが勿体無くなったのかと、外野からまた野次が飛ぶ。見世物の商売女じゃないんだ、焦らすような真似はするなとか、そんな調子じゃガシャポン犬にもなれないとか。見物を決め込んでいたパトリキの中には酒の進んだ者が出始めた。
「孕み腹のような姿でまた吊るされたくはないだろう?」
 獣吊りよりも不様で滑稽で、さぞ見物かもねぇ……
 先程まで使われた物と同じ縄の束で、背筋を軽く撫で下ろされた。
 押し当てられる力は軽いものだったが、撚り合わせて作られたことで持つ縄の硬さが表皮を刺激する。
 肩甲骨の下から彎曲した腰の窪み、筋肉のない仙骨へと辿られると頭まで逆毛立った。
 反射的に後腔の括約筋が窄まり、捩じられた腸が悲鳴を上げる。

「いつまでもグズグズしてるなら一気に出させてあげようか?」
大きなガラス製のシリンジを掲げる者が現れた。
「中身は何使う? オーソドックスにグリセリン? それとも酢とか?」
 うわ、それって痛そうなどと言いながらも、悪乗りするパトリキまで出始めた。
 まだ遊びのタネは尽きないらしい。ここに集うパトリキ達は柔軟な発想力と想像力に富む人間であるとは思っていたが、その向かうベクトルは捩じれ曲がり、根底には並々と狂気をたたえている。
 この地には快楽のため、人としての倫理や道徳を捨てた者達が集う。
 人の形をした、人ではない者達――
「ダメですよ。中身がたくさん詰まってるのに浣腸なんかしちゃ。腸が破裂する恐れがありますから」
 困った人達ですねぇと、coco様が苦笑する。
 じゃあどうするのかとの問いに「するならもう少し中身を出さないと」と、今度はヴェスタ様が、ほっそりとした長い指をバラバラと意味深に蠢かせた。

 それって『摘便』ってヤツ?
 便じゃないし言うなら『摘卵』じゃない?
 卵詰まり? 文鳥やセキセイインコじゃあるまいし。
 インコって言えば、おサル様のピーちゃんって雄雌どっち?
 もし雌で、朝起きたら股間で抱卵されてたらヤダな。

 切羽詰まっている俺のことなど余所に、傍では呑気な雰囲気を醸し出している。
「ご主人様自らの手で掻き出して貰いたいのかいファビアン? そうして欲しくてグズっているのかな?」
 俺は必死に頭を振った。この上手など突っ込まれたら本当に死ぬ。
「そうだよねぇ。ファビアンはいい子だからご主人様を煩わせる真似なんてしないよ」
 いい犬は主人の命令には決して逆らわない――
 耳の中でハウリングがし、段々と声が遠のいて行く――
 脳の酸素が欠乏し始めたらしい。視界が徐々に狭くなり、後頭部では炭酸が弾けているような感覚がする。
 筋肉が弛緩し、姿勢を保つのも辛くなってきた。付随して腹の中の疑似卵は無意識に零れ落ちて行く。
 数を数えるように言われていたが、己の声すら聞こえなくなってきた。
 裸でも大丈夫な室温に保たれているはずなのに、俺は寒さを感じた。反して肌は汗を噴き出す。
 貧血によるフェードアウト。
 頭を打つ勢いで前屈みに崩れ落かけた体を、逞しい腕に抱えられた。
 
 アクトーレスとしては優秀でも犬としてはまだまだだけどねぇ――

 そう言った腕の持ち主は、俺のペニスに捩じり込まれた棒を引き抜いた。
 触れた爪の硬さに、散々嬲られたペニスから刺激が走る。

 長い戒めからようやく解放された俺は、落ちて行く意識と共に、萎えかけたペニスから、ゼリーの残りとも精液とも分からない物を吐き出した。

 意識を手放す瞬間、俺は肉体の苦痛からも解放された―――― 





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