私は特別な仔犬だった。忙しいプラエトルに代わって私の世話をする専属の使用人がいた。彼らは調教師の経験があり、主人の留守にも私を甘やかすことはなかった。
私は自分で排泄することも、食事をすることも、入浴することも禁じられていた。その代り、彼らの手によって、文字通り頭から爪の先まで完璧に手入れをされていた。
光の中から姿をあらわした長身は、長く伸ばしたブラウンの巻毛と、美しいスミレ色の瞳を持っていた。
不意に辺りが光に満ち、照明がつけられたことを知った。眩しさに目を瞬かせると、アンリがゆっくりと近づいてくるのが見えた。
フランス人らしい、優雅な物腰はいつ見てもため息が出るほどだ。
そういえば、髪を伸ばすよう命じたのは私だった、とぼんやりと思った。光の中の青年。パリのアパルトマン。クロワッサンとカフェの匂い。
いつのまにかアンリはケージの前にしゃがんでおり、私に何かを命じたらしい。
反応せずにいると、寝ぼけているのか、とこづかれた。アンリの持つ電撃棒は、無数の尖った突起を持っており、押し付けられるだけで苦痛だった。
かつて、泣き声を決して漏らそうとしなかったアンリのために、私がヴィラの研究室に特注したものだ。今は私が泣き喚くために使われる。実に素晴らしいやり方だった。
アンリは下穿きだけだったが裸ではなかったし、サンダルも履いていた。
しかし、首輪はつけられている。彼は既に多くの自由を与えられていたが、まだ正式に開放されてはいなかったので、身分は犬のままだった。
私を辱めるために、そうでなければいけなかったからだ。そのことにアンリは不満を持っていたから、私への責めはひどくなりがちだった。
それでも私は従わなくてはならなかった。彼もまた、私の主人だったから。
私は背を丸めて、狭いケージの中ではいつくばった。アンリの命令は聞き取れなかったが、私がすべきことはわかっていた。どちらにせよ、もう限界だった。
「おしっこをさせてください(tee tee)、御主人さま」
おしっこ、だ。けっして小便(urinate)ではない。
良い年をした大人の男が、裸で這い蹲り、赤ん坊の言葉でしゃべっている!
馬鹿げたことだ。馬鹿げたことたが、私に選択の余地はない。
アンリはにやにや笑って私を見ている。本当はフランス語の赤ちゃん言葉を話させたかっただろう。けれども充分この馬鹿げた儀式は彼を楽しませているようだった。
股間にはめられた拘束具に、恐ろしい電撃棒を触れさせながら、次の言葉を待っている彼の目は笑っていた。
「おちんちん(peenie)、痛いの、はずして、え」
触れるだけの電撃棒は再び私の尿意を切迫させた。私は本当に幼い子供になったような気分になり、ええん、ええんと声をあげて泣き出した。
それに満足したのか、アンリは電撃棒を引っ込め、ケージを開けた。
細身だが、力強い腕が私を抱き上げた。部屋の隅に小さな金属の箱があった。その箱が今日の私のトイレらしい。
アンリは、私を後ろから抱えあげると、箱に向かって座り、自分に寄りかからせた。
後ろから手をまわして、器用に拘束具をはずしたが、プリンスワンズは抜いてはくれなかった。
アンリはわざとらしく、私の奇妙なペニスをしげしげと眺め、あきれたように言った。
「お前、こんな太いものを入れているのか」
ワンズは、大人の男の小指ほどもあった。今ではそこに何かを出し入れされるだけで 私は悶えた。拡張が始まったときは、恐怖のあまり失神したものだが。
アンリは、拡張のため、少しずつ太くなるブジーを喜んで入れては出し、私を泣き喚かせたくせに、今始めて見たような顔で私を揶揄する。
「こんなところまで大きく開いて、なんてはしたないんだ。抜いたらすぐに漏らしてしまうのかい?お前がお漏らしするのが好きなのは良くわかっているけどね、少しは我慢してみせておくれ」
無茶苦茶だ。けれども、命令であれば従う他はない。私はやがてくる衝撃に備えて、力を入れた。愚かな尿道括約筋は、ちゃんと動いてくれるだろうか?
そうしてアンリは次の命令を口にした。可愛い僕の仔犬、自分で抜いてごらん。僕は、お前の足を抱えてやらなくちゃいけないからね。そして、私の足を抱えなおすと、私の耳元で囁いた。早くしないと、膀胱が破裂しちまうぜ、と。
私は震える手でリングをはずし、ワンズを掴んだ。何度も逡巡する私にアンリの叱責が飛び、私は泣きながら力を入れた。痛みと快感が天から降ってきた。
私はのけぞって絶叫していた。涎が口の端から顎へと伝うのがわかった。同時に、ペニスの先からは熱いものが迸った。
放尿は長く続いた。
箱は思ったより深く、底には何か敷かれているらしい。私の放ったものは、はねもせず、溢れもせずに中に消えていく。
私はびくりびくりと痙攣し、小さな絶頂を迎え、周りの景色が急速に遠ざかる。気持ちが良かった。穏やかな快感が、ゆったりと私と包んだ。
良く出たね、仔犬。いい子、いい子。アンリが笑いながら私に頬擦りをし、話しかけていた。お前は見てもらいながらするのが好きなんだろう?いやらしい顔をしているよ。おや、気持ちよすぎて寝ちゃったのかい?
もちろん、そのまま休むことは許されなかった。アンリがペニスをねじると私は覚醒した。ご主人様、と小さく私は呟いた。ひどくしないで、可愛がって、ご主人さま。
細く長く続いた水流もやっと終わりを迎え、ピアニストの繊細な指先がーアンリはコンセルバヴァトワールの学生だったー私のはしたない筒先をしぼり、残滓を出し切って、私の快楽の時間は終わった。
アンリは、私を抱えたまま立ち上がると、そのまま部屋を出ていった。
扉を出ると、少し広い部屋に出た。テーブルとソファ、テレビにパソコン。そのまま進むと、バスルームがあった。
タイルに降ろされると、熱いシャワーが降り注ぎ、私は小さく悲鳴をあげた。思ったより身体は冷えていたらしい。
先ほど私を抱えたアンリの身体も、熱くはなかった。この部屋に来るまで、彼は何をしていたのだろう。彼は彼で、火の気のない寒々しい部屋で、一人眠っていたのかもしれないー
アンリに初めて会ったのは、パリで行われた小さなお茶会だった。
祖母の残した面倒な財産のひとつに、様々な慈善事業があった。
ウィンター財団はロックフェラー財団に次ぐ世界有数の慈善団体なのだ。
税金の課せられないそれらの財団は、福祉活動にも熱心だが、財閥の権威をよりいっそう強固にするためにも暗躍している。
その中の小さな善意ーパリに住まう若い芸術家たちのための経済的援助のための基金ー名称の長さからして馬鹿げているけれどもーは、珍しく私の興味を引いた。
そして、私はちょっとした気まぐれから、直接基金の恩恵を受ける彼らと会う機会を設けた。そのお茶会での若い音楽家たちとの会話は思ったよりも私を楽しませ、一度きりの気まぐれなお茶会は、長く続けられることとなった。
アンリは、最初にそのお茶会に姿を現した時から、その恵まれた容姿で皆の注目を浴びていた。私も興味をそそられなかったわけではない。
しかし、私はヴィラでの遊びに耽溺しており、手持ちの犬たちで充分満足していた。
彼がその気になって、私とアヴァンチュールを楽しみたいというのなら、拒否するつもりはなかったが、特別何かを仕掛けるつもりはなかった。
そのため返って私たちは親しくなった。話の合う同年代のー多少私のほうが年上だったがー友人を持つことは、私のような人間であっても楽しいものだ。
「デビュー?」
「ええ、そうなんです」
耳のところでうねっている巻毛を神経質そうに指にからみつかせ、アンリはため息をついた。
才能ある音楽家が、在学中にコンサートを開いたり、CDを出すことは特別珍しいことではない。アンリほどの容姿であればなおのことだ。そう告げると、才能なんて、とアンリは憂鬱そうにため息をついた。
確かに、アンリは優れたピアニストではあったけれど、ピアニストとして独り立ちするには早すぎた。すでに、コンペティション(コンクール)にいくつか挑戦していたけれど、2位にしかなれなかった。ソリストとしてやっていくためには、1位にならないと意味がないのだ。
そんな彼がデビューするということは、すなわちその容姿によるものだ。すらりとした体躯、ブラウンの巻毛、けぶる瞳はスミレ色。中世的な顔立ちで、ラファエロの描く天使のような彼は、女性や一部の男性の熱狂的な崇拝を受けるだろう。
優美な眉をひそめて、彼は続けた。
「僕は自分のことを良くわかっているんです。ピアノの才能が、まったくないとは思わないけれどー今の自分には不相応だし、もしこのままプロの音楽家になっても、きっと続きゃしない。だから、断るべきだって」
でも、と彼は続けた。でも、シャトーがあるんです。あんな金食い虫はいないですからね。
アンリ・ド・ロワーヌは貴族的な容貌を少し高慢に歪めて、言った。
その顔を私は見たことがあった。私をヴィラに誘った淫蕩な友人もそうだった。
そして、それよりもっと私に近く、もっと私から遠い存在もまた、その顔を私に向けて、いつも残酷な言葉を投げかけた。
その時、私の中で何かが蠢いた。アンリは言葉を続けていたが、それは意味のない音にすぎず、内容はほとんど私の中には入ってこなかった。
事故で急死した両親の形見なのです。祖先から受けついだたったひとつの財産なのです。あなたは意味がないと思われるかもしれませんが、シャトーだけは守りたいんです。
城のためにだけ嫁いできた母は、その実、アメリカ人を未開の原住民程度にしか思っていなかった。私のことは、自分と同じ洗練された人間だと思うと同時に、夫と同じ野蛮人だとも思っていた。
母は私に期待し、幻滅し、抱きしめて突き放した。美しく高慢な、今のアンリとよく似た顔で。
私はアンリの欲しい言葉を与えた。簡単なことだ。
シャトーのことはまかせなさい、私には文化財に援助するための用意はいつでも整っている。もちろん、くだらない権利なんて主張したりしないよ、君、僕のことはわかっているだろう?ああ、もちろん、僕は君の特別になりたいけれど、それは友人としてだ。もう充分愛する人たちはいるからね!君はこれからも音楽の勉強に専念するといい、君にふさわしい将来がそのうちわかってくるよ。僕に援助させてくれ、僕は君のピアノに対する真摯な姿勢が好きなのだよ。
彼は私の顔を見て微笑んだ。ありがとう、フレッド。信頼しきった表情に私はほくそえんだ。私の容姿や放蕩もたまには役に立つ。
そして私は囁いたのだ。
音楽院は休暇に入るんだろう?もちろんレッスンは続けるのだろうけど、二、三日私のために時間を取れないかい?美しい場所を知っているんだ。じっくり将来のことを考えると良い。もちろんピアノも弾けるよ。パスポートを用意して。外国だからね。君、アフリカに行ったことはある?
そうしてアンリは私の手の中に堕ちてきた。彼へ告げた言葉にごまかしはあったけれど、真実もあった。私は、彼の調教にピアノのレッスンを組み込んだ。
アンリの調教には神経を使った。担当アクトーレスは吟味して選び、臨時ボーナスを弾んだ。
この犬は四つ足で歩かせちゃいけないよ、石畳の上を手で歩かせるなんてとんでもない。重いものを持たせてもだめだよ、ああ、苦痛のあまり何かに力いっぱい?まるのもだめだ、この子はピアニストなのだからね。指に負担がかかるじゃないか。鞭にも気をつけて、指を痛めたら承知しないよ。ほら、こうするんだ。‥アクトーレスはげんなりした顔で言葉に従った。
レッスンはピアノ教師だった犬に行わせた。
コンセルヴァトワールの現役教師たちに比べると多少レベルは落ちるかもしれないが、かつては名の知れた音楽学校で教えていたことのある、ロマンスグレーと灰色の瞳の美しい、そして従順で淫らな成犬だった。
アンリには犬としても良い手本になっただろう。
アンリが私に服従した時を私は良く覚えている。
ご主人さま、僕を愛して。力もないのにシャトーを所有し、才能もないのに音楽を捨てられなかった僕は、いつも苦しかった。もう何も僕を苦しめるものはない、もう僕にはあなただけ。
私はアンリの才能を見て見ぬふりをした。ピアノ教師は優秀だった。
アンリの才能は私が思っていたより、アンリ自身が思っていたよりもずっと素晴らしいものだったのだ。
アンリに買い与えたドムスには、高価なグランドピアノを置いた。そこで、アンリは私のためだけに演奏した。
私は幸せだった。理不尽な怒りで犬にした青年は、思いもかけず素晴らしい癒しを私に与えた。いつもより長く私はアンリと楽しんだ。
けれども、冬と夏のオリンピックが一度ずつ過ぎた頃、私はその居心地の良いドムスに通うことをやめた。
権利はまだ持っていた。他の主人に仕えさせるのも、開放するのも気が進まなかった。アンリは訪れるもののない家で、一人ピアノを弾いていたはずだった。
アンリに後ろから抱き抱えられ、尻に長いペニスを受け入れ、私は目を閉じていた。
アンリの指はピアノを弾くように複雑に動いて私の肌を弾いた。
ピアスを穿たれた乳首に触れるたび、私は小さく声をあげていた。
その二つの胸の飾りは、毎日のように嬲られ、いびつに肥大し、私にとってはすでに性器だった。乳首を責められるだけで達するように躾けられていた。
そこは、敏感なアヌスや、つるりと剥けた亀頭や、拡張された尿道と同じように、常に少し赤く色づき、腫れて熱を持っていた。
苦痛は恒久的に続いていたが、私の主人たちと医療スタッフは細心の注意を払って私のケアをしていた。膿んだところが自壊することもなく、日々つけられる傷の多さにも関わらず、私の身体は基本的には美しいままだった。ペニスの付け根に浮かぶ、プラエトルの紋章をかたどった焼印の他には。
それを入れられた時の恐怖と苦痛を、私は今でも覚えている。近づいてくる熱、痛み、たちのぼる煙、臭い。今でも、そこに触れられただけで私は脅えて小便を漏らした。
ずるり、とペニスが身体の中から出て行く感触に、慌てて私はアヌスを締め付けた。
アンリはじれったいような愛撫を加えるだけで、私をさんざん泣かせたが、いかせてはくれなかったのだ。
「こら、仔犬。動けないだろう」
アンリの声が不機嫌の色を帯びる。私は懸命に息を吐き、後ろを緩めざるをえなかった。
吐精がすぐに許されないことはわかっていた。
私はプラエトルの手により変質した。苦痛も恥辱も快感に容易くすりかわることができる。けれども、本当の意味でのマゾ奴隷にはなれなかった。鞭打たれた刺激で勃起することはとうとうなかった。
私が快感を得るためには、ファンタジーが必要だった。私は確かに特別だった。プラエトルも、世話係の使用人たちも、アンリも、時間と手間を惜しまず、私のファンタジーを成立させた。
そして私のファンタジーはまだ始まったばかりだ。アンリはインターバルを置くつもりに違いない。しかし、予測に反して入り口近くまで抜くとアンリはそこで留まった。
「あ」
先端が膨れた、と思ったと同時に、熱い奔流が注がれた。私は身を捻って逃れようとしたが、適わなかった。
誘い込まれたゲームの中で行われた屈辱の行為は、私を思ったより深く傷つけ、それは今でも私が最も嫌がるもののひとつだったが、同時に、最も悶え、昂ぶる行為でもあった。
「いやあーあ、あ、あ」
アンリの放った小便が、身体の奥深くに到達した、と感じたと同時に、私はぶるりと震える、精を漏らしていた。
アンリの笑い声が響いた。嘲りが私の耳と打つ。
なんて奴だ!なんてみっともない!
アンリの言葉に私は苦しみ、そして大量の水分が腸の中で暴れ、その圧迫感に私は泣いた。
不意にペニスが抜かれ、せき止められていた液体が噴出しそうになる。私は力を込めて入り口を締めた。ストッパーは与えられない。自分で我慢するしかないのだ。
抜き出したアンリのペニスは汚れていた。洗浄する前に突っ込んだからだ。
アンリは、それに気づいて顔をしかめると、自分のペニスと股間をざっとシャワーで洗い流し、私の口元に押し付けた。洗ったのは、私に対する気遣いではない。
プラエトルは調教の一環として排泄の管理をし、羞恥心に苛まれる犬が、前から漏らし、後ろからひり出す様子を見て楽しんだが、排泄物を好きなわけではない。私が直接口をつけることは嫌がった。
それでも、興がのれば飲尿は許した。医療スタッフも、健康なものであれば問題はない、と太鼓判を押していた。たいした自信だ。
私は、柔らかなブラウンの茂みに顔を突っ込み、塗れたペニスをしゃぶり、先端に残った雫の残滓を吸い取った。
じわり、と小さな水流が私の喉を打った。まだ出し切ってなかったらしい。私は喉を鳴らして飲み込んだ。
そして再び奉仕に戻り、舌と口腔をつかい、愛撫した。アンリのペニスは固く立ち上がり、先走りがこぼれた。丁寧に舐め取ると、アンリは満足そうに私の頭を撫でた。
口腔を嬲るペニスは私に快感を与え、思わず尻を振った。私は夢中だった。
吐き気を耐えて奥まで飲み込み、吐き出す。再び舌での愛撫に移る。それを繰り返すことで、やがてアンリは小さく声をあげ、達した。
どくりと注がれるザーメンを私は一滴もこぼさず飲み込み、そして耐え切れず後ろを漏らし、固まりが腸をすべる感触に、再びペニスの先から快感のしるしを吹き上げた。
「もらしながらいっちゃったの」
アンリは、敏感になったアヌスに洗浄用のノズルを突っ込みながら笑った。私はノズルがアヌスに触れただけで甘い声をあげた。
ほんとにどうしようもないメス犬だね。ほら、言ってごらん。私は淫乱なメス犬ですって。もちろん私は言った。
三回の洗浄の後、やっと私は開放された。
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