クビクルムは、扉付近の間接照明だけを残し薄暗闇に包まれていた。 今晩だけ犬の男はベッドの下に腰を下ろし、ベッドに腰掛けている男を気怠く見上げた。 運ばれる合間にうとうととしていたが、今日一日中の調教で疲労が全身にのしかかっている。
「酒が飲みたいか?」
首を横に振ると、「だったら身体で飲め」とグラスの酒を頭から注がれた。ワインの香りが立ち上る。 男が足を開き催促する。 4つんばいのまま動き、ガウンをかき分けてまだ力のこもっていないペニスを手に取り下から舐めあげる。 少しずつ堅くなっていくペニスの次に陰嚢を片側ずつしゃぶる。そのまま内股を撫でようとして、手をはたかれる。
「小賢しいことはするな」
首輪を引っ張られ、ベッドに引き上げられる。 シーツが先ほどかけられたワインで汚れると思ったが、気にしなくていいのだと思い直した。 ワインをなめ取るように執拗に身体を舐められる。 首もとから徐々に降りていき下腹部まで到達すると思った頃、急に乳首をかじり取るかのようにきつく噛まれ、痛みに身体がはねる。
「ショーでは可愛い声をあげていたのに、このざまか。人目がなければ感じない淫乱か?」
窓からもれる薄明かりの中、男の顔を初めて見た。 まるで鷹の目のような鋭い眼光が、月明かりを反射する。
「自分でほぐせ」
サイドテーブルから潤滑剤を取り出し、仰向けのまま足を開くと「汚れるだろう」と叱られうつぶせになり腰を高く上げさせられた。 いまさらの羞恥に火照る頬をシーツに押しつけ、片手で尻たぶを開きぬめった指を押し入れた。 今日一日で何度セックスしただろう。 もう射精できないかもしれないと不安に思った。 今夜、この男を相手にすればまた昨日までの自分に戻れるという傲慢と、犬であることに少しずつ慣れ始めた自分とがせめぎ合う。 だが、指を入れ今日知った自分のポイントを探ると淡く快感がわき上がる。
「やはり見られているほうがいいのか?」
シュルっと布を擦る音が聞こえ、尻たぶを支えていた左手と左足首、後蕾から指を抜き取られ右手と右足をガウンの紐で拘束された。 さっきまでいじっていた後蕾が熱い。潤滑剤に媚薬でも入っていたのだろう。拘束されて疼きに身もだえる。
「・・・あ、はっ」
男が後蕾にバイブを挿入してきた。
「踊れ」
筒の奥深くでバイブが暴れ、快楽を引きずり出し、ポイントにあたるたびに尻が跳ね上がる。 快感にきつく閉まり、バイブが抜けそうになるとまた深く押し込められる。 だが次第に、拘束された状態で、いくら膝が付いているとはいえ、肩と頭で身体を支えるのに苦しさを覚える。尻を下げるか、身体を横たえようとしたとき、鞭がしなった。
「あっ!」
尻を強かに打たれる。
「そのまま尻振りダンスをするんだ」
再度鞭で打たれる。今度は内股を打たれた。昼間天井に吊されてペニスを打たれた時を思い出し、勝手に身体が震え上がる。 それに気づいた男が足の間からペニスに触れてきた。
「鞭は嫌いか。すっかり縮みあがっている」
早く夜が終わればいい。 ヴィラに来て初めてそう思った。
「だが、こっちは好きだろう」
振動するままのバイブをさらに抜き差しされる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音をたて耳から犯されるのと同時に、ペニスも緩く扱かれ再び快楽が戻ってくる。 立ち上がったのに気を良くしたのか、抜き差しを繰り返しながら手がペニスを離れ、脇腹や胸をたどり、内股を撫でる。 執拗な愛撫に対する嫌悪感が徐々に快楽に変換されていく。 バイブの抜き差しが少しでも止まると、むずがゆさが広がって自ら腰を振ってしまう。 昨日までの自分が犬たちにやってきたことを改めて思い知る、その正気に返るわずかの間。だが、すぐさま快楽の闇に覆われる。
「どれ、中を見てやろう」
バイブを抜き取られる衝撃に身もだえると、すぐに冷たい金属の質感を感じ肌がわななく。 苦労して背後を見やると、ぼんやりとした小さいライトの明るさが目に刺さった。
「真っ赤になってるな。ぐにぐに動いて誘っている」
肛門鏡らしい。うずく粘膜にこらえていると、中をのぞき込んでいる男が卑猥な表現で感想を述べる。 赤い。めくれ返っている。腰が揺れている。もっと奥に入れて欲しいのか。 それが羞恥を煽り、シーツにきつく顔を押しつけてこらえる。 男は羞恥に震える背中に満足したらしく、よく我慢したとでも言うように尻を平手で軽く叩くと器具を取り除いた。
「どれ、そろそろ薬が全部吸収されただろう」
その姿勢のまま背面から怒帳を一息に入れられる。 自分への薬の作用を押さえるために、時間を見計らっていたらしい。コンドームをつけずに挿入された。 続けざまに激しく抜き差しが繰り返される。
「ん、くっ、ぅ・・・」
頭と肩で身体を支えているために、衝撃が全身を襲う。 身体の粉々になりそうな悲鳴を感じつつ、同時に肉筒を容赦なく突かれこね回される快感にむせぶ。 男は、前を触ることなく一度ごとにさらに奥に潜り込ませるかのように激しく突いたかと思うと、深くいれたまま腰を大きくグラインドさせたりと翻弄する。 達きたいのに達けないもどかしさと、昨日まで知らなかった快感に頭の中は白く霞がかってきた。
「まだ、後ろだけではいけないか?」
嘲笑を含んだ声。
「ひぃ・・・ああっ!」
右のつながった手足をつかみ身体を反転させられる。浅くつながったままなので、中はよじれ涙と共に悲鳴を上げた。 膝裏をつかまれ、再度抜き差しが始まる。 ペニスが衝撃に揺れて、時折男の腹に触れるのがたまらない。 悲鳴の合間に「前を」と叫ぶのも無視された。手足をばたつかせるが、膝裏を捕まれている以上どうにもならなかった。獣の息づかいのように短い息を吐きながら男は貪っていく。 このまま永遠に続くのかと思った頃、男が大きく突き入れそのまま精液を吐き出した。 男は一息いれると拘束を解き、つながったまま身体を倒し騎乗位にする。
「達きたいんだろう。自分でやって見せろ。雌犬」
睨み付けるには気力が足りず、解放された若干痺れている手を自分に添えて扱く。 途端、後ろも勝手に収縮するのを感じ、それを正面から見られている羞恥も手伝って身体を丸めるが、男がベッドのスプリングを利用して下から突き上げ、呆気なくかすれた悲鳴を上げてごくわずかな量を途精する。 だが、今のですっかり内側のものが堅さを取りもどしたことを感じ、絶望感が生まれる。 途精後の倦怠感と疲労も相まって、身体を起こしているのがやっとだ。
「これだから成犬前は中途半端でつまらん。犬なら犬らしく尻をさしだし、貪られていればいいものを」
男は、引き続き腰を振らないことに気分を害したらしい。 サイドテーブルの電話を取り寄せ、誰かを呼んだ。
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