狂気 ― にぎやかな戦場にて ―  第2話

号令とともに10回の腕立て、立ち上がり、間髪入れず番号、腕立て、番号、腕立て、番号…
以下繰り返し繰り返し、終わる気配はない。
意味が在るのか無いのか、その様な疑問を挟む余地も無く。
事実、どうでもよいことだ。
上の命令にわざわざ疑問を挟む阿呆は真っ先に戦場で死んでいく。
それを知ってか知らずか、若い新米兵らは忠実に命をこなしていった。

 母の死んで間もなく、戦争は本格的、且つ唐突に始まった。
その所為か、基礎訓練のみ行い、即前線という不幸な者達もザラにいた。
かく言う彼の入った小隊もまた、その内の一つであった。

 初戦は散々だった。
小隊員総勢20名、内三名が早々に死亡、10名が負傷。
もしもこの小隊長が、物分りの悪い、はたまた意固地な者だったならば彼の小隊は全滅を余儀なくされたろう。
言わずもがな、隊長はどちらにも当てはまらない者だったわけだが。

 さて、その人物は何処かしら特異だ、と彼は覚え聞く。
見た目、若年とは言い難いが壮年とも言い難い容姿を持ち、若干?歳(不明)で大尉へと昇進。
本来ならば中隊長の肩書きを持つ者の筈だが、あえて小隊長として前戦へと赴いている。
性格、冷徹でもあり温和、時に厳格で柔軟性も持ちうる。
…とにかく、つかみ所が無い。
しかし直に接すればやはり人である、と思える。
思うに、隊長は他の人のそれよりも、一つ一つの一面が誇張されすぎているだけなのだろう。
彼はそう結論付けることで、隊長を理解するに至ったのであった。

 ほぼ同時である。
彼が隊長への、特別な好意を持ったのは。
隊長の砂色の髪が、透けるように真っ白な肌が見えるだけで、意識はそちらに一点集中、その碧眼に射抜かれれば、はらわたの冷えるほどの畏敬の念が渦を巻く。
その口が、喉が、声帯が自分の名を呼べば、思わず抑えきれぬ感情が返事に覗くのである。
しかし、彼はもちろん、同性愛癖がある訳ではないし、ましてやゲイでもない。
それでも、その様な衝動に突き動かされるのは、ひとえに隊長に一概に言えぬものを感じているからだ。
これも突き詰めて考える必要はない、彼自身は一種の宗教信者と似通った感情だと自負していた。
近寄り難い、寧ろ近寄るべきでないという強迫観念を持ち、そのくせ身近で、頼れて、尊敬に値する。
その存在が彼を支えていた。
だからか、母の喪失と言う傷を追った彼でも何とかやっていけた、

はず、だった。


―――――−…[オムライス ト ケチヤツプ]

「トリカブト、ドクツルタケ、さて」
「今日のご飯はなんですかー?」
「そりゃぁトリカブトだろ」
「それでB−3地区は壊滅的被害を」
「馬鹿、余計なことしゃべんなって。」
「先輩!自分、自分はぁ!!」
「はらへりーんこー」
「まさに、戦々恐々」
「それよりB−5の保護の為」

「今日はオムライスよ〜〜〜」  『わ〜〜〜〜〜い』


「おい。」
「はい。」
「どこへ」
「外へ。」
「敵がいないとも限らん。きをつけろ。」
くちもとが、ほころびる
「YES,SIR.」
「おふざけでなく。」
「…」

「I see.」




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