口づけると、執事はうろたえたようにのけぞりかかった。
その唇をやさしくついばむ。舌でこじあけると、彼は遠慮がちに口をひらいた。
(ああ――)
ペニスとペニスが触れ合っている。ふたりともすでに昂ぶりきって、少し触れると電気が走るようだ。糖蜜がたらたらこぼれて膝を濡らしている。
(ああ、たまらない。欲しい)
ぼくは執事の口をむさぼり、濡れたペニスを擦りつけた。
「ア――」
彼の息もあがっている。彼のペニスも熱い。茹でたとうもろこしのように突きあがっている。
「ああ、もうダメです」
ぼくは縛られたからだをくねらせ、悲鳴をあげた。「入れて。ご主人様。気が狂いそう――」
「だめだ」
男はニヤニヤとグラスを掲げた。
男は椅子を持ってきて、旦那さま然とショーを見ていた。この家のワインまで持ち出し、きこしめしている。
「まったくいい身分だよなあ。あの連中は。うまい酒飲んで、見世物見て。こっち側は天国だぜ」
男は上機嫌で酒を注ぎ、縛られた奴隷たちのショーに見入っていた。
執事もすでにあきらめていた。困惑していたものの、おずおずとぼくを愛撫しはじめた。長身をかがめて乳首に口づけ、音をたてて吸う。音はそのままペニスに共鳴した。
「アアッ、ン、アは、だめ、アアッ――」
甘い刺激にぼくはすぐ射精してしまった。だが、彼はやめず、唇をつけ、しつこく吸った。
陶酔の雲がすぎていくと、股間にあらたな疼きが生まれている。
「ちょっ――もうや、めろ――。もうくるし――」
芸のないこの男は同じ乳首ばかり赤子のように吸うのだが、そんな不器用な刺激が、心地よいしびれとなって腰を突き抜ける。
ぼくは身をよじり、ペニスをふりたてた。
「ア――ンッ、たす、け――アアッ、アアッ!」
だが、精をもらす前に男が執事をとめた。
「おとなしすぎらあ。もっと刺激的なのがいいな」
彼は椅子からおきると、壁際まで行き、道具をいくつか持ってきた。
「おまえら背中合わせになりな」
彼はぼくたちを背中合わせにし、這えといった。足の枷ははずしたが、後ろ手に縛られたままである。彼は尻をつきあげるように命じた。
「グッ」
執事が悲痛なうめきを漏らした。
「痛くはねえだろう。こんなちびっこいの。――ワン公、おまえはもう少し尻をうしろに出しな」
何をされると思いきや、尻の穴に硬いものが突きこまれた。
「アアッ――」
ざわっと鳥肌がたち、思わず射精しそうになった。張り型だ。
「よし、うまい。そのまま後退だ。やさしくな。執事さんがイっちまうからよ」
動いたとたん執事が呻いた。ぼくは理解した。ぼくの尻に嵌ったものの端っこが彼の尻に嵌っているのだ。
(なんてことを)
これはレズ用のバイブだ。これでぼくたちをつなぐつもりなのだ。
「もっとぴたっとくっつけろ。尻と尻を合わせるんだ」
ぼくはおそるおそるずり下がり、執事と尻をぴたりとくっつけた。尻のなかに異物が深くおさまる。
「よし。いい子だ。ふたりいっぺんに愉しませてやるからな」
男はぼくと執事の尻を合わせて革紐でしばり、互いが離れないようにした。
「よし、おどれ!」
明るい呼び声と同時に尻の異物が暴れ出した。
「ヒッ――ヒイッ」
「わ、アアッ」
尻のなかをヘリの爆音のような重い刺激が叩いていた。蕩けきっていた粘膜はひとたまりもなかった。ぼくはすぐにはじけ、胸を濡らした。
「アアーッ、あふ、ああっ」
執事も獣じみた声をあげている。声はしだいにはげしい喘ぎに変わり、彼がおもちゃに悦ばされているのがわかった。
「アア、は、あ、ハあッ、ア――クッ」
男がはじけるようにわらった。
「イッたか。気持ちよかったか、旦那」
だが、バイブは振動をやめない。ぼくたちは小さなおもちゃにのたうちまわった。
薬で尻のなかは狂おしく滾っている。振動は欲しい場所に届きそうで届かない。クリームが体温で溶け、尻を濡らしている。睾丸さえ、チリチリと焼けて、ぼくは思わず腰をおどらせてしまう。
「はアッ、ああっ」
知らず締めつけて揺すると、執事の尻が飛び上がる。
「ヒイッ、――クッ、ああっ」
「アア――ン、もう、こんな、――はアッ!」
男は高笑いして酒をあおいだ。
「いいよ。エロくていいよ、おまえら。ふたりとも、もっとかわいい声を出せ。声を噛んだほうはお仕置きだ」
電池が切れた時、ぼくたちはもう顔を床にうずめたまま動くこともできなかった。
(救援はまだなのか――?)
ぼくは時間を稼げばなんとかなるとおもった。
数時間。せめて深夜には主人が探してくれるはずだ。
だが、男は言った。
「おまえら、もうすぐ誰かが助けてくれると思ってんだろう」
彼はニヤニヤわらった。
「だが、もうちっとかかると思うぜ」
――そんなことあるもんか。
ぼくはひそかに奥歯を噛みしめた。もうそこまで救援が来ているはずだ。
だが、「いいか、ワン公」と彼は言った。
「いいことおしえてやる。おまえらは知らねえだろうが、おまえらのからだには発信機がインプラントされてる。衛星で追跡できるってやつよ。だから、逃亡犬はどこへ逃げてもすぐとっつかまる。だがな」
彼は酒をすすった。
「おれにはそれがない。何度かやられたが、発疹が出たんだ。アレルギーさ。めったにないことだがな。それでおれだけは免除された。自由というわけだ」
ぼくは床に埋まってしまいそうな気がした。泣くに泣けない。救援は予想より遅れてしまう。しかし、これ以上なにかされたら、ほんとうに死んでしまうだろう。
「どっちにしようかと迷ったが、執事さんにしよう」
男は近づき、ぼくの後ろに回った。執事がぐっとうめき声をもらす。
「おまえがおれのペットだ。そして、ワン公、おまえは」
彼は酔ったように言った。「おわりだ」
ぼくは一瞬、呆けた。帰れる、とおもった。
腰をしばっていた革紐が解かれた。尻からバイブが抜け落ちる。
「悪いな。おまえもかわいいが、やっぱり二匹は手にあまる。かと言って帰すわけにもいかねえからな」
(え?)
男はぼくをひきずりあげ、肩の上にかつぎあげた。
「悪いけどおまえはさよならだ」
男はぼくをかついだまま部屋を出た。ドアに鍵をかけ、そのまま階下へと下り出した。
回廊を通るが、玄関とは反対側に向かっていく。彼が向かっているのはキッチンだ。あの死骸のある冷蔵庫のほうだ。
冷蔵庫の光景が雷電のように脳を打った。
――あのまっ白な死体にされる。
ぼくはぎゃっとおめいて、身を跳ねた。
回廊に落ち、すぐに飛び起きて走った。
「おい」
手が掴みかかってくる。縛られた腕をつかまれ、ぼくは歯をむいてわめいた。
「人殺し、人殺し! だれか」
男はぼくの頭を抱え、がんがん殴った。だが、ぼくは冷蔵庫の白い死骸にパニックを起こしていた。我をわすれ、身をふりほどいてわめいた。
「たすけて。誰か。殺される!」
「やかましい。だまれ」
「だれか。逃げ犬だ。ハスターティを呼んで。早く! 逃げ犬だ」
男はあきらめ、ぼくをふたたび肩にかつぎあげた。回廊を走ってキッチンに向かっていく。
ぼくはすんでのところでキッチンの戸枠に足をつっぱった。
「やめろーっ! 死にたくない。いやだ! ご主人さま。たすけて! ごめんなさい。やめてくれーッ!」
もう何を叫んでいるのかわからない。命の瀬戸際だ。恐怖に正気なぞすっ飛んでいた。
だが、ついに戸枠から足をはがされた。
――ああ。ご主人さま。
一瞬、主人のかなしげな顔が見えた。やさしい茶色い眸が疲れ、さびしく見つめていた。
わっと後悔がこみ上げた。すべて自分が悪かったのだとおもった。もっとやさしくしてやればよかった。もっと素直に愛すればよかった。もっと――。
その時、回廊を数人の足音がばたばたと踏み込んできた。
銃口がずらりと並ぶ。ハスターティ兵だった。
「動くな。撃つぞ」
男がふりかえり、ぬっとうなる。彼はキッチンに飛び込もうとした。その途端、パンと大きな音がはじけ、世界が真っ白く灼けた。
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