悪党クラブ  第5話

 それほど的外れとは思わない。
 スコット・デミルは父親を早くに亡くしている。亡父は公立学校の教師だったらしい。
 死んだ親と同じ仕事を選んだということは、やはり思い入れがあるはずだ。

「なんで知ってたんだ。そんなこと」

 夜道に車を走らせながら、スタンがあきれて言った。

「調べてたのか。これはじめる時」

「調べるさ。あたりまえだろう」

 おれはシートにもたれ、暗い田舎道を眺めていた。
 ひとを誘拐してレイプしようというのだ。相手のバックグラウンドぐらい調べておかなければ、脅迫の文句も作れない。

「だいたい、こういうことを考えつかないキミたちがおめでたすぎるんだよ」

「ぼくたちはじめてだもん」

 アンソニーがはしゃいでいる。

「アマチュアだもん。おまえ、その年でこれじゃ、ワルすぎだよ。さきざき尋常な死に方しないよ」

「おまえらだって誘拐犯なんだぞ。わかってんのか?」

「誘拐になんの? これ」

「おまえなんか死刑だよ。アホだから」

 軽口を叩きながら、おれたちは車を学校の敷地に入れた。夏休み中だが、無人というわけではない。

 おれたちは警備員に見つからないよう、ライトを消して近づき、雑木林のなかに車を停めた。

 トランクから長い人間の包みをひっぱりだす。それをスタンとふたり肩にかついで校舎へ向かった。

「におうな」

 スタンがうめく。

「クレオパトラ、もうヒリ出したらしい」

 クレオパトラは絨毯にかくれて、シーザーの元をたずねた。だが、おむつはしてなかったろう。




 教室の黒板の前で、おれたちはうやうやしく包みをひらいた。

「……」

 先生は芋虫のように拘束されている。彼はうめき、身じろぎした。
 おれはライトでまわりを照らしてやった。カメラがパンするようにゆっくり。

 先生の影が目をひらいたのがわかった。彼は身を起こし、凍りついた。
 かすかな喘ぎが暗闇に響いてくる。喘ぎはふるえていた。

「先生」

 スタンが言った。

「先生があまりに聞き分けがないからですよ。ぼくたち、わがままな赤ちゃんはいらないんです」

 ここに置き去りにするのだ、というと、先生ははっと振り向いた。

 先生はおむつだけの裸だ。手足をラバーの枷で拘束され、口には口枷を嵌められ、よだれであごを濡らしている。
 おむつの中には車のなかでもらした大便が貼り付いているはずだ。

「あと三十分もしたら、警備員が巡回にきます。物音をたてたら、きっと発見してくれますよ」

 これをあげましょう、と鈴のついたピンチを取り出す。

「ンッ――」

 ピンチの口が先生の小さな乳首をつまんだ。リンと澄んだ音が鳴る。

「よく振るんですよ。じゃ、先生さようなら」

 廊下に出る時、先生は懸命にわめいていた。暗がりのなかに鈴の音がさかんに鳴った。




 一時間後、ふたたび教室を訪れると、先生は机の陰に隠れていた。洟をすする音が聞こえ、そのたびに鈴が寂しく音をたてる。

「どうしたんです。警備員を呼ばなかったのですか」

 おれたちは先生を取り囲んだ。

 先生の泣き顔がライトに照らされた。ライトで洟や涙がテラテラ光った。打ちのめされ、ひとかけらの意地も残っていなかった。

「ンッ、ふッ」

 先生はよわよわしく首を振った。はやく連れ出してくれ、というようにすすり泣く。そのたびに乳首の鈴が哀れな音をたてた。

「ああ、わかりました。オムツが汚れているんですね」

 おれは笑い、彼のからだを引き出し、床に押し倒した。

「ンーッ!」

「はいはい。今替えてあげます」

 足枷をはずし、オムツをひらく間、先生は恐慌を起こして足を蹴り上げた。ここではいやだ、やめてくれ、とわめいた。

 アンソニーがその肩を踏み、ライトで照らす。スタンがカメラで撮った。フラッシュのなかで先生が目を瞠く。
 シャッター音がかさなる。

 オムツをひらくと、睾丸にまでやわらかい大便がべったりと貼りついていた。
 おれはカメラのために場所を開けた。

「黒板も入れて撮れ。この恥知らずがどこでヒリ出したかわかるように」

 フラッシュとシャッター音のなかで、先生の顔が白く凍っていた。音もなく涙がつたい落ち、それがライトに光った。

 おれは濡れナプキンを出し、彼の尻をぬぐってやった。睾丸の糞便をふきとってやりながら、

「いい気持ちでしょう。教室でこんな恥ずかしい格好して。生徒におむつを替えてもらって」

 ヒッ、と彼の咽喉が鳴った。

「いつもあなたがえらそうに教える教室で。尻を出して。汚れたケツの穴拭いてもらって。本当は生徒たちに見てもらいたいんじゃないですか。こんな甘ったれた姿を」

「ンーッ!」

「みんなの前でクソしてやったらどうです? 赤ん坊みたいに。こんな風に股をひろげて。視線で感じちゃうかもしれませんよ。いっそ犯られたいですか。なんなら今、叫んでみますか。警備員がすぐ来てくれますよ」

 先生の咽喉から濁った悲鳴が洩れた。首をはげしく振り、発作を起こしたように跳ねた。
 絶叫していた。悪霊に憑かれたかのように細身がガタガタ床を打つ。 

 カメラに何枚も泣き顔がおさまった。 美しい顔が洟と涙のなかで引き攣れていた。ぼろぼろに砕かれ、幼児のように無力だった。

 おれは先生の口から口枷をとった。
 彼の前にしゃがみ、ファスナーをおろして、ペニスをさらした。

「噛んでもいいぜ。おれは叫ぶけどな」

 先生はしゃくりあげながら、おれのペニスを見つめた。その頬を涙が血のようにつたった。

 やがて、彼はのめるようにくずれた。眼をつぶり、濡れた唇にそっと亀頭をふくんだ。
 フラッシュがまたたき、シャッター音が雨のようにふりそそいだ。



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