悪党クラブ  第6話

「どうだね。諸君」

 パパ・クラレンスがひさびさにおれたちのサロンをたずねた。

「デミルは?」

「散歩――乗馬だ。アンソニーが連れまわしている」

 おれはクラレンスに新しい写真を見せた。写真を受け取ったクラレンスが口笛を吹く。

「いいね。こんな格好じゃなきゃ悲劇女優みたいだな」

 写真にはここ数日、撮りためた調教シーンがうつっている。庭でおむつをつけたままハイハイさせられる姿。かなしげにほ乳瓶をくわえる顔。スタンに犯され、苦痛にゆがむ顔。

 だが、一番気に入っているのは最初に撮った教室でのものだ。教室で泣きながらおれのペニスをほお張っている顔。
 これは大きく引き伸ばして、先生のベビーベッドに貼り付けてやった。

 写真を見て、先生はひどくショックを受けた。小娘のように肩をふるわせて泣き出した。
 あの日以来、先生は逆らわなくなった。おれたちに恐れ入ったというよりも、どこかぼう然として、白日夢のなかにいるようによたよたしている。

 命令には簡単にうろたえた。無理に抱かれたり、辱められると、たわいなく泣いた。正気に少しひびが入りかけているのかもしれない。

「まあ、かわいい赤ちゃんになったよ」

 おれは写真を眺め、

「もともと彼には哀れな感じがあるんだな。ひとに馴れない小動物みたいな。男が守りたくなったり、壊したくなったりするようなものが。こういうのが泣くと、男はついうわずっちまうんだ」

 気づくと、クラレンスがじっとおれを見ていた。

「犬に惚れるなよ」

「それはない」

 おれはわらった。

「おれはないが、若干一名あぶないのがいるな――」

 その時、アンソニーがにぎやかにサロンに入ってきた。

「ほら、先生、もう着いた。もう大丈夫よ。やあ、パパ」

 体格のいい使用人がつづく。使用人は先生を両腕に抱えていた。
 先生はやはり眼を真っ赤にして泣いていた。

「何やったんだ、また」

「乗馬。ちょっと敷地の端っこまでいっただけさ」

 使用人に先生をベビーベッドにおろさせる。アンソニーはケラケラと笑い、泣かないのよ、とその口にジュースの入ったほ乳瓶をつっこんだ。

 クラレンスがわざとベッドのそばに立つ。

「これはこれは――」

 呆れたように目を丸くして見せた。
 先生は新しいメンバーを見てすくんだ。

「スコットちゃん、平気」

 上機嫌のアンソニーがベッドの枠をはずす。

「クラレンスおじちゃんもおんなじ変態。みんな変態なのよお。――じゃ、おちりのアレをとってあげましょうねー」

 おむつをひらく間、クラレンスはおれと目を見交し笑っていた。

 先生は哀れにもほ乳瓶をくわえたまま、毛のない股をさらされていた。客の前でももはや身を隠す意地はない。されるがままに恥部をさらし、ほ乳瓶を抱えて、すすり泣くだけだった。
 その肛門からずるりと細いローターが抜かれる。

「馬にのせて、ひとりでこいつで遊ばせてやってたんだけどさ。そこ、わりと車が来るとこでね。だいたいがうちの使用人なんだけど、――恥ずかしがって泣いちゃってさ」

「淑女だな」

「箱入りだからな」

 アンソニーはうれしそうだった。
 先生が変化して、彼が一番喜んでいる。風呂に入れたり、おむつを替えたり、四六時中先生をかまいたがった。
 あいつは子守りがしたいのか、とスタンなどは首をかしげている。

「おれのベビーはヴィラに出したら20億セスぐらいするよ」

 アンソニーは鼻をふくらませた。

「プラチナ犬かもしれないな」

「言うね」

 クラレンスは笑い、

「うちの嬢ちゃんとどっちがかわいいか見てみるか」

「ハッ、あんなブス」

「あいつのケツをためしてみろ。そんな口はきかせないぜ」

 ふたりのバカ主人は、性奴のお披露目もかねて「成犬審査」をすることに決めた。




 ヴィラ・カプリでは調教がある程度進むと、性奴にみんなの前で色っぽいショーをさせるという。

 成犬審査、という。
 さらわれてきた男が、主人の忠実なペットになったか見るためのテストだ。これに合格してはじめてヴィラの外に連れ出すことができるらしい。
 おれたちはこれをまねて、ふたりの教師にショーをさせることにした。

 邸から少し離れた芝の上に、ピクニックの仕度がなされた。
 先生は乳母車で運ばれた。かわいいフリルの帽子。みじかいベビードレス。おむつ、という姿でちぢこまっている。

 ほ乳瓶を咥えさせられ、眸はなかば閉じ、眠たげだった。眠りの世界に逃げ込みたいようだ。

「スコット、起こしておけよ」

 アンソニーがバスケットを開けながらおれに言う。

「最近、寝てばっかりいるんだ。カフェインでもやったほうがいいかな」

「起こしておくよ」

 おれは先生を乳母車から抱き上げた。敷物の上におろし、クラレンスチームの到来を待つ。

「来たぜ」

 スタンがあごをしゃくった。
 クラレンスチームの四人が芝の上を歩いてくる。その間にひときわ大きい、異形の人物がまじっていた。

 グリフィス先生はドレスアップさせられていた。
 白い襟つきの濃紺のドレス。白いエプロン。そのいずれもがバレエのチュチュのように短い。
 スタンが失笑した。

「ありゃローマ兵だな」

 かわいいメイドには程遠い姿だ。のしのし大地を踏みしめてくる姿は、間違ってエプロンをつけている古代ローマ兵か、ギリシャの重装歩兵のようだった。長槍をかついでいても全然おかしくない。
 クラレンスは愛想よく挨拶し、

「遅れてすまないね。うちのメイドは足をくじいていて、早く歩けないんだよ」

 グリフィス先生の足を見ると、たしかに右足首に包帯を巻いている。あれが、彼らのいう調教の工夫なのだろうか。

 ふと、敷物の端の硬直した視線に気づいた。
 デミル先生は同僚教師を凝視し、息をつめていた。

「はは、デミル先生は知らなかったのか」

 クラレンスは笑い、よく見えるようにずれた。

 ふたりの教師は互いを見ていた。そこだけ空気がゼリーのように凝っていた。たがいに学校での姿からは想像もつかない珍奇な格好をしていた。

「……」

 デミル先生はあ然としている。
 グリフィス先生はこのことを知らされていたのだろう。おどろきはなく、死を待つ家畜のように暗い目をしていた。

 おれたちは敷物に腰をおろし、お茶を飲んだ。給仕するのはむろんメイドのグリフィス先生だ。

 先生がかがむとミニスカートの下からでかい尻がのぞいた。
 ガーターのベルトが通っていたが、下着はつけていない。おれたちのデミル先生の尻に比べると、馬のような迫力だ。筋肉と脂が美々しく覆っていて、躍動感に満ちている。

「いいだろう」

 クラレンスチームのハルがニヤリと笑った。

「味見したいか」

 こちらが答えぬうちに、彼はグリフィス先生に命じた。

「ミスター・バリーがおまえに用だ」

 グリフィス先生はお茶のポットを置いて、目を伏せた。

「ご用でしょうか。サー」

「サー、か」

 おれはわらった。

「セクシーな尻だね。突っ込まれると感じるようになったか」

 グリフィス先生は目を伏せて答えない。その顔が硬くこわばっていた。

「答えろ。おまえはこいつらに犯られて、勃つのか」

 おい、牝犬、と仲間がけわしい声を出す。グリフィス先生はまたたきし、小さい声で答えた。

「……はい」

「へえ。いい気持ちなのか」

 先生の眼がふたたび、またたいた。

「……はい」

 よく見ると首が真っ赤になっていた。
 グリフィス先生は頑丈な男だ。プライドが高く、無愛想で、教師仲間にも父兄にも媚びない。荒っぽい生徒たちからも崇敬されていた。

 そんな男が目の前で口ごもっていた。
 マッチョな男も悪くない。そう思って、スカートに手を伸ばそうとした時、

「なあ、そろそろいいだろ」

 アンソニーが呼びかけた。彼の腕のなかでデミル先生が小さくなっている。

「スコット、ウンチ出るって。はじめようぜ」



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