悪党クラブ 第13話 |
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――仲間割れが一番危険なんですよ。 我が家に使えている召使がよくそう教えた。 その男は宝石店やら銀行を荒らしまわった元プロの泥棒だった。彼の言うには、仕事は情報と腕さえあればできる、むずかしいのは仲間選びだ、と言った。 ――金を取るまでは結束してても、金が入るとひとが変わるからね。そこでいがみあうのが一番危険で無残なことですよ。 アンソニーはもはやおれを信用していない。 話しかけても眠そうに答え、顔もまともに見なくなった。ハルの話では、デミル先生の扱いもむごくなったという。 「ぶったたいたりとかはしないけどさ。おむつ履かせないのに下剤飲ませたりとかさ。バイブ仕込んだまま廊下を歩かせたりさ。――けっこう音すんだぜ。おれが見ててもヒヤヒヤするよ」 おれも夜、一度彼らを見ていた。 森の中、濡れた草の上に敷物をしいて、ジョアンとふざけあっていると、彼らがちょうど通った。おれはとっさにジョアンの目を被わなければならなかった。 「やあ、奇遇だね」 アンソニーはおれたちを見つけて声をかけた。 「いま、おれたちも散歩しているとこなんだ。どうだい、いっしょに」 彼は手にしたリボンの端を軽く引いた。 「ふ、グッ」 月明かりの下にデミル先生の裸身がよろめきでる。リボンは先生のペニスにつながっているようだった。 先生は口枷をされ、手を後ろに拘束されていた。 顔が涙で濡れているのがわかる。その白い足が泥で汚れていた。 大便のにおいがただよっていた。 「いや、いい。おれたちはここでゆっくりするよ。とっとといけ」 「じゃ、また明日」 またペニスを引かれ、先生がうめく。彼らが闇のなかに消え去る間、おれはどこか憮然としていた。 闇の中で先生がおれを見ているようにおもった。なじるような、すがるような目を見た気がしていた。 「休みを設けないか」 おれはついに言った。 「きみら少しがっつきすぎだよ。これじゃやつだって頭おかしくなるぜ」 夜中、デミル先生がアンソニーたちに連れ出され、そのまま服をとりあげられた。 裸で帰るよう命じられ、デミル先生は教師楼の廊下を歩けず、窓から入った。その時に割れたガラスで足を痛めたらしい。 怪我自体はたいしたことないが、デミル先生はしばらく授業を休んだ。 その間もアンソニーは入り浸っている。 「はっきりいって、デミルはもう限界だろう。少し放っておけよ。バレたら、破綻するのは彼らだけじゃない。おれたちも取り調べをうけるんだぞ」 危惧しているのは、おれだけではない。アンソニーたちのあやうさを見て、賢いパパ・クラレンスはいち早くメンバーを抜けてしまった。 ほかの連中もうすうすわかっている。わかっているが、ペニスの問題がからむと彼らの口は重かった。 アンソニーは、あさってをむいたまま聞こえぬふりをしている。 「じゃ、週休二日ってのはどうだ?」 ハルが折衷案を出す。 「あと露出プレイは禁止とかさ」 答えるものがない。ほかに恋人がいるスタンでさえ、権利を減らすのは嫌なようだった。 露出が楽しいんだよね、とアンソニーがはじめて言った。 「ヴィラじゃ露出ったって囲いの中だからさ。本物のスリルがないわけよ。せっかくの楽しむための奴隷なんだから、あれはダメ、今日はお休みとかさ。いらないよ、そんなの」 おれは言った。 「デミルが入院したら、そもそものお楽しみがなくなっちまうんだぞ」 「そしたら、医療プレイだよ」 話にならない。 あまつさえ、言った。 「バレるのこわいなら、やめたらいいよ、コンラッド。きみひとりがさ」 人数が減れば、スコットのストレスも減るしね、と言った。 おれはメンバーを抜けた。 持っていたネガと写真を残りのメンバーに渡し、脱退以後も、秘密を守ることを誓った。 彼らもおれについては明かさないことを誓った。 形式的なものだ。警察沙汰になれば、被害者たちが全員の名を明かすだろう。 逃げるのはしかたがない。 安全を省みないなら、そんな愚か者とゲームを続けていたくなかった。たとえ、破綻したら、同じように逮捕されるのだとしても、その場でいっしょにまぬけづらをさらしていたくはない。 ただ、先生のことは気にかかる。 あの晩、デミル先生はおれに助けを求めていた。足を糞便でよごし、裸で連れまわされ、泣いていた。 ――アンソニーは度を越している。 矛盾だとわかっているが、怒りを感じる。彼の無神経さ、無慈悲を醜く感じる。 引かれていく先生のあわれな背中を思い出すと、にがにがしかった。 矛盾だ。だが、やりきれない。 おれは下調べを手伝ってくれた元泥棒の召使に、事の顛末を書き送った。 召使の返事はあっさりしたものだった。 ――それはよかった。二度となさいますな。 「なんか、ちょっと変な感じなんだ」 スタンがトイレでおれに言った。 「トニー(アンソニー)のやつ、やたらとバラすんだ」 ほかの生徒のいる前でデミル先生が好きだ、と言ったり、キスを投げたりする、という。 ふざけたふりをしているが、仲間は気が気でないようだ。 先生にすれば恐怖この上ないだろう。 「ハルも怒ってる。みんなの共有財産なのにさ。何考えてんだろうな」 「なんだよ、スタン」 おれはペニスをしまい、 「おれに言ったってしょうがないだろう。話し合って解決しろよ」 スタンは唸り、自分の小便を眺めている。 「なんか気味悪くてさ」 ほかのメンバーからも似たような話は聞いた。アンソニーは先生の部屋に入り浸り、先生を裸でクロゼットに隠したまま、ほかの生徒を呼んだりする。バイブの音に生徒があやしむのを悦にいって見ているという。 好き放題やっているようだ。 おれは彼らには何の返事もしなかったが、気になった。 先生はなにを思っているだろう。 もうすぐ破滅するとわかっているだろうか。教職を奪われ、生涯汚名にまみれるとわかっているだろうか。 夜明け、おれはふと目をさました。 デミル先生のことが気にかかり、眠れなくなった。 ――また寮に入れず、外でおろおろしているのではないか。 おれはベッドを抜け出し、教師楼へ向かった。 ただ、無事を確かめたかった。彼の顔が見たかったのかもしれない。 デミル先生の部屋のドアには、紙がはさまっていた。 ――部屋の鍵をお預かりしています。A・メイスフィールド。 先生は外だ。おそらく裸だ。 おれは廊下をぬけ、表に出た。 |
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