悪党クラブ  第18話

 抱きながら、おれは自分が粉々に壊れ、小気味よく砕け散っていくような気がした。
 筋肉が、脳髄が、破壊される。小爆発をくりかえし、芯に凍りついた不信が、懐疑が吹き飛んでいく。

「ア、ア」

 スコットのからだが落ちるようにそり返る。奥深くまでおれを迎え入れる。
 すべてを明け渡し、奥の奥まで。

 深くつながり、まじりあい、おれはやさしく破砕されていく。

 おれははじめて目をひらいた赤子のようだ。まばゆい光に戦慄する赤子のようだ。

「ハ、アア」

 スコットのからだがねじれる。

「アア――もう――」

 彼の手が宙におよぐ。その手をつかみ、指をからめ、握り締める。

「――」

 眸が熱をおび、微笑っていた。
 スコットはもはや何も隠さなかった。快感にしなり、声をあげ、悦びにふるえた。
 彼を押しひしぐおれの重さを、彼の粘膜を泡立てるペニスを、受け入れ、抱擁している。

「ハア、アッ」

 白い腰が耐え切れぬように浮き上がる。そのペニスはそり返り、ねばりのある露を散らしている。
 彼のなかでおれのペニスが、投石器のように突きあがっていた。うすい腹をえぐり上げるたびに、彼は鳴き声をあげ、露を散らした。

「コンラ……ああッ、いっ」

 スコットは首を振った。

「ああ、こんな!」

 せりあがった緑の大波が頭上にくずれてくる。おれたちは手をにぎりあい、快楽に揉まれて回転した。

「……」

 存在の底から歓喜が吹き上げる。微塵に砕けていく。意識がきらめく無数の泡となって散り、光も影も消失していく。

「……ラッ、ド――」

 熱い息のなかで、しなやかな腕が首にからみついた。汗に濡れた胸をあわせ、抱きしめ、転げまわった。

 虚無のなかに生きものがいた。あたたかい腕をひらき、抱きしめてくれていた。やさしく抱擁し、おれを破壊しつくしていた。


 

 目をひらいた時、おれは今までと世界が違うのを感じた。
 リズムが違う。光が跳ね回っている。
 となりを見下ろして、おれは微笑った。スコットはおれの手を握ったまま、寝息をたてていた。

「一日観光できる。博物館かどこか、行きたいところある? ブライトン・ピアに行こうか?」

 スコットは吹き出した。

「ぼくたちは逃亡者なんだろう?」

「そうだよ。だから楽しまないと。長い旅になるんだから」

 おれは彼を連れて、海辺の町をめぐった。白壁が陽にかがやき、町は美しかった。
 海風が少し強い。薄手のカーディガン一枚のスコットを見て、楽しみを思いついた。

「あなたのコートを買いに行こう」

 店に入ろうと誘うと、彼は、いい、と首を振った。

「倹約しなさい。お金は木になってるわけじゃないんだから」

「わかってる。でも、これから寒くなる」

 おれは笑い、強引に彼を引っ張った。

「コンラッド、わかった。あれがいい」

 スコットは街の一角を指した。ノミの市が出て、ひとでにぎわっていた。
 骨董や古着が出ている。 スコットはしげしげと品物を見て回ったが、結局何も欲しいとは言わなかった。
 おれは彼に合うマフラーとツイードのジャケットを買った。自分には一眼レフのカメラを買った。

「なぜ、カメラなんか」

「雑誌記者のふりができる」

 さっそくフィルムを買い、あちこち撮った。
 パブの看板。ノミの市でイスを選ぶ老女。陽のあたる通り。車の上のデブ猫も撮った。

 彼の手を引き、ブライトン・ピアの長い桟橋を歩く。桟橋のつきあたりには古い遊園地がある。

 べたつく海風の中、おれはスコットの手を握って歩いた。彼は恥ずかしがったが、放さなかった。
 愉快だった。何を言われても、笑えてしかたなかった。

「何を撮っていたんだ?」

 カフェに落ち着いた時、スコットはいささかあきれていた。

「風景。この国の人々。生活」

 おれはまだカメラをいじっていた。

「ここを出たら、あなたはまずホームシックになる。その時に見るためのものだよ」

 スコットはうすく口をあけた。少し腑抜けたようにおれを見ていた。

 おれは笑った。

「そのジャケット、似合ってるよ」

 スコットは小さい声で、ありがとう、と言った。

「雑誌記者はいいかもしれないな」

 おれは勝手にしゃべった。

「身元調査もうるさくなさそうだし。おれたち、それで喰っていこうか」

 気が早いな、とスコットは苦笑した。

「いつ襲われるかわからないのに。楽観的にもほどがあるよ」

「楽観的で行こう。ビクビクしていたらよけい見つかる。フランスに行ったら、何がしたい? 仕事につく前に旅行しようか。あ、世界一周しようか」

 スコットは笑ってしまった。
 可愛いかった。厚手のジャケットに西日が触れて、あたたかそうだった。
 いささか大きすぎるマフラーが彼のかたちよいあごを包んでいる。それを見て、おれは無上に幸せだった。

 歌に出てくる間抜けのようなことを、今はやってみたい。
 たとえば、この街全部買い上げて、彼のために運んでやりたい。
 荒涼たるおれの世界に降ってきた、この可愛い人になんでもしてやりたい。

「コンラッド、本当に顔が変わったな」

 ヘイゼルの目がやさしく見ていた。

「男、の顔になってるよ」



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