AGM(年次株主総会)はさすがににぎやかだった。
大株主たちの事前投票で、わたしへの不信任票が25パーセントにも上った。小口株主たちはさらに鋭い質問をぶつけてくる。
「マリウス・ベネット氏のおこした騒ぎはなんですか。マクスウェルCEOは経営陣に信頼されていないのではないですか」
「カーディフSATは、結局フランスと何を作っていたのですか」
「いったい、カーディフを買収した意味はなんだったのですか」
何十回と戦ってきた戦場だ。
わたしは慣れていた。舞台に立つとわたしは役者になる。ダンスでも踊るように霊感に導かれたカリスマ経営者を演じた。
「旧カーディフは電話づくりに秀でた会社です。4G携帯端末の共同開発に大きな力となってくれていますし、彼らの固定電話、ビジネス電話での経験のフィードバックは、アルテミスの新サービス開発へとつながっています」
老婦人が固い顔で質問する。
「カーディフSATを海外へ売る必要があるの?」
「もちろんです」
わたしはおばあさんのために噛み砕いて説明した。
「アメリカのケイロン社は、カーディフSATを高く評価してくれています。衛星の研究開発機関というのは金食い虫ですから、長くもっているほど、会社の利益が損なわれます。もちろん利益も大きいですが、それまでは長い期間赤字を覚悟していただかねばなりません」
「――でも、相手は軍需だって言うじゃないの」
「ケイロンの親会社は飛行機や戦闘機を作っています。ケイロン社自体は宇宙開発の会社です。宇宙ステーションのミッションシステム――観測とか調査ですね、そうした事業を請け負っています――あの、アルミ箔の帽子の心配はなさらなくてけっこうですよ。まじめな会社です」
さりげない一言に場内がどっと笑った。
老婦人はとまどったように席に戻った。
以後、カーディフSATとフランスの事業内容を聞いてくる者はいなかった。誰だって道化にはなりたくない。
「んっ――」
オルセンの肩がびくりとはねあげる。口元で彼の乳房がこぼれ、はずんだ。
わたしはまた舌をのばし、彼のナーバスな乳首をなぞり上げた。硬い乳首はキャンディのように甘い。わたしは甘露を舐めあげ、ころがし、唇にはさみ、鋭く吸った。
「あ……」
オルセンがせつなく首をのけぞらせる。その手がわたしの頭を押さえた。膝がじりじりと浮きかけている。
わたしは彼の反応を楽しみ、執拗にその乳房を吸った。片手で強く乳房をもむと、彼が薄い眉間に強いしわをきざむ。だが、その眼は甘い。彼の唇はあたたかい息にふるえている。
「――もう、もういいでしょう」
彼はわたしの腕をつかむと、転がるように身を起こした。
大きな怪物がわたしを見下ろしていた。女のまるい乳房。角のように雄々しく勃つペニス。憂いをおびた眸は熱のために鈍い。
「悪い子だ。少しおとなしくしてください」
オルセンの唇にかすかに微笑がやどる。
彼は高く屹立したわたしのペニスをつかみ、ローションを巻きつけた。
「ん――」
悩ましげな息とともに、指がペニスを狭い彼のなかへ導く。やわらかな襞がわたしのペニスを撫で上げる。
(く……)
蟻がいっせいにからだを這うようだ。ペニスが肉の花弁に吸い取られていく。濃厚な蜜のなかですべて手放してしまいそうになる。
オルセンも小刻みに息をふるわせていた。ゆたかな乳房がものいいたげに揺れる。
わたしは両手をのばし、その乳房をわしづかみにした。
「ア」
彼はとっさにわたしの手を上から掴んだ。
だが、剥がしはしなかった。胸を押さえ、あえぎながら、そのまま腰を揺らしはじめた。
「ハ、ア……ああ……アア――アッ、はッ――」
しかめた眉が悩ましい。かすれたあえぎ声が甘かった。
わたしもまたすさまじい快楽に奥歯を鳴らしながら、彼の乳房をつかんでいた。
そのたおやかな胸を揉みしだき、乳首をつまみあげる。指先で揉み潰す。力をこめると、彼の濡れた筋肉がぎゅっとわたしのペニスを引き絞った。
「アアッ――」
彼は悲鳴のようななまめかしい声をあげた。
指で乳首を強くなぶるほどに彼は荒くあえいだ。あえぎ、激しく腰を揺らした。
「ああ――アアッ――は、あ――アアアッ」
大きな乳房が弾み、揺れる。それをつかむ無骨な男の指。男の腕。
わたしは快楽の海に溺れながら、不思議な光景に魅入っていた。
呪いをかけられた男を、とらわれた処女を、半獣の怪物を、魔性の娼婦を。角度を変えるごとにオルセンは姿を変えた。
(こわい。だが、美しい)
わたしはなかば気をうしなうように、彼のなかに精を放った。
「――サットンは片付きましたか」
ベッドにうつぶせ、オルセンはたずねた。腕をしいて、うつぶせていると普通の男にしか見えない。
「ほぼ、ね」
「どうしました?」
「あとでわかる。そんなに心配するな。もうきみには近づけないよ」
わたしは頬をすりよせ、彼の唇に口づけた。そのまま、彼をあおむけにひっくり返そうとすると、
「また――」
オルセンはわらった。「スタミナあるんですね。意外に」
「じらされたんだ。当然だろ」
彼のからだに乗った時、ベッドの傍の電話が鳴った。わたしはとらなかった。
コール音が鳴るままにさせておき、オルセンにじゃれついた。キスしながら腰をすりつけた時、コール音が途切れ、メッセージに切り変わった。
『――レスリー。おれだ』
わたしはギクリと電話を見た。ベネットの声だった。
『いるんだろ。出ろよ』
オルセンが眼でうながす。わたしは受話器をとった。
「なんだ」
『やってくれたな』
「おたがいさまだろ」
『いい作戦だったよ。きみにはかなわん。完敗だ』
「――」
『カーディフSATをアメリカに売るのか』
「ああ、そうだ」
『やめてくれないか』
「出来ない相談だな」
『電波設計部門だけでも切り離してくれないか』
「だめだ。ベネット」
『きみは間違ってるぜ』
「なにが正しいか、決めるのはきみじゃない。きみが正しいとしても、力がなければ、正しい意見など誰も聞かない」
『まったくだ』
「ぼくの意見を正したければ見合うだけのオファーを持ってこい」
『……できないな』
「じゃあ、沈黙しろ」
『……沈黙するしかないだろう。おれはどの道、しばらくこの国を離れるしな』
「え?」
『娘が学校でいじめられてる。毎日世間でバカ扱いされるのもつらいものだよ。――おれらしくないことをやった報いだな』
「……」
『おまえを愛してた。本気で止めたかったよ。じゃあな』
電話は切れた。
わたしはいつまでも受話器を握っていた。
からだの下から腕が伸び、受話器をとった。腕はわたしの頭をかかえ、ごろりと天地を替えた。
オルセンはわたしを見下ろして、言った。
「彼はもう死んだ男です」
わたしはぼんやり男の顔を見た。影になっていて何も見えない。
「きみは――いつも迷わないんだな」
「選ぶことができるのは恵まれた人間だけです」影は言った。「下位の人間には、迷う自由もない」
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