ディオニュシア祭 第11話


「メアリ、こっちへおいで」

 午後、リビングから主人が呼んだ。おれはよたよたと入って行った。

「おや、顔が赤いね」

 ソファから主人がおれを手招きして、前に立たせる。 きつい拘束衣を脱がせてくれた。

 女客はおれの尻にローターを仕込んだまま、ぴったりしたラバーの下着をつけさせていた。

 彼女はおれに部屋の掃除をさせながら、リモコンでローターをもて遊んだ。しつこいローターの動きが前立腺をかきたてたが、ペニスは下着にはばまれて勃起できない。おれは股間の痛みに冷や汗をかきながらモップを使っていた。

 主人は笑った。「またこんなに濡らしてしまって」

 おれは恥じ入り、目を伏せた。どこか安心する。何を言われてもあの女よりはマシだ。

 彼はおれの腰に触れて言った。

「お客様がおまえにお情けをくださる。ご奉仕してさしあげろ」

(え――)

 ヘイゼルの目は静かで断固としていた。おれは喘ぎかけた。たった三日とはいえ、この男は主人だ。だが、ほかの男はちがう。

「行くんだ」

 彼はおれの腰を押した。おれはふらふらとふたりの客のほうへ歩いた。

「おれからだ」

 と骨柄の大きい男のほうが立ち上がった。

 おれよりも数インチ高い。骨も太い。控え目な容貌をしていたが、体つきは雄々しい。ドイツ人かもしれない。

 彼はおれを下目に見て待っていた。何をしろ、とも言わない。緑色の目で冷然と見ている。

 押しすくめられるようだった。おれは押されるように膝をついた。

 顔の前に男の股間がある。おれは迷った。フェラチオなど妻にもさせたことがない。

「早くやれ」

 男は自分でベルトをはずし、ズボンをおろした。下着をおろす。血色のいいペニスがにおいとともに現れた。牡のにおい。不潔な、動物のにおいだ。

 おれは目を閉じ、それを口に入れた。内臓を犯されるようだった。男のにおいがからだを侵していく。

 おれは怪物を口にふくみ、舌でなめずり、唇で押し引きした。
 ポルノ女優のようにやればいい。おれはポルノ女優だ。セクシーなプレイメイトだ。

 男の腰にへばりつき、顎をつかう。汚れた唾液を飲み下すと、強い酒にあたったように腰がくだけた。

(ああ――)

「なんて顔をするんだ」

 大きな手のひらが頬をなでる。その声はうわずっていた。
 おれは少し安心した。おれにも少しコントロールできることがあるらしい。

 彼は誰かに言った。

「リモコン、どうした」

「フレデリカだ」

「呼んできてくれ」

 主人らしき男が立つ。間もなく女の足音が入ってきた。

「あら、レイ。ごきげんね」

「いきなりやるなよ。噛まれたらたまらん。――嬢ちゃん、一度放すんだ」

 男がおれの顔を股間から引き離した。とたんに尻のなかのものが跳ね回る。火をつけられ、おれは身をこわばらせた。

 男の目が微笑んだ。

「よし。続きだ。噛むな」

 喘いでいるおれの口にまたペニスが突きこまれる。息がつらく、舌を使うのがむずかしい。女客は振動を弱くしたり、強くしたりして遊んでいる。抑えられないペニスがはじけんばかりに張り詰め、気が遠くなりそうだった。

「よし。ごほうびをやろう」

 男がおれの顔を引き剥がす。うしろをむけ、という。おれは膝をついたまま、あやつられるように後ろをむいた。スカートが突き上がったペニスにあたって眩みそうになる。

「床に這え。両手で尻を開くんだ」

 屈辱的な命令だった。殴られたような気がした。
 だが、おれはよたよたと頭を絨毯につけていた。自分の手で尻を開いた。おもちゃを入れた尻の穴がさらされる。
 心臓が波打ち、体が振れた。人々の視線を痛いほど感じていた。無様な姿勢。おれは犯されるのを待って、自ら尻を手で開いていた。

「あっ」

 いきなりローターのスイッチが入った。振動が蜜のように下腹をひたす。快楽が竜巻のようにわきおこる。おれは声をこらえきれなかった。尻をさらしたまま、喘ぎ、悶えた。

「……ア――はアッ――」

 おれは腰を振っていた。恥辱と淫らな歓喜に脳がしびれた。おれは自分の痴態に怯えながら、恍惚としてわなないた。
 女が含みわらった。

「メアリ。おまえはなんだったかしら」

「――わ、わたしは、牝犬です」



←第10話へ          第12話へ⇒




Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved