「メアリ、こっちへおいで」
午後、リビングから主人が呼んだ。おれはよたよたと入って行った。
「おや、顔が赤いね」
ソファから主人がおれを手招きして、前に立たせる。 きつい拘束衣を脱がせてくれた。
女客はおれの尻にローターを仕込んだまま、ぴったりしたラバーの下着をつけさせていた。
彼女はおれに部屋の掃除をさせながら、リモコンでローターをもて遊んだ。しつこいローターの動きが前立腺をかきたてたが、ペニスは下着にはばまれて勃起できない。おれは股間の痛みに冷や汗をかきながらモップを使っていた。
主人は笑った。「またこんなに濡らしてしまって」
おれは恥じ入り、目を伏せた。どこか安心する。何を言われてもあの女よりはマシだ。
彼はおれの腰に触れて言った。
「お客様がおまえにお情けをくださる。ご奉仕してさしあげろ」
(え――)
ヘイゼルの目は静かで断固としていた。おれは喘ぎかけた。たった三日とはいえ、この男は主人だ。だが、ほかの男はちがう。
「行くんだ」
彼はおれの腰を押した。おれはふらふらとふたりの客のほうへ歩いた。
「おれからだ」
と骨柄の大きい男のほうが立ち上がった。
おれよりも数インチ高い。骨も太い。控え目な容貌をしていたが、体つきは雄々しい。ドイツ人かもしれない。
彼はおれを下目に見て待っていた。何をしろ、とも言わない。緑色の目で冷然と見ている。
押しすくめられるようだった。おれは押されるように膝をついた。
顔の前に男の股間がある。おれは迷った。フェラチオなど妻にもさせたことがない。
「早くやれ」
男は自分でベルトをはずし、ズボンをおろした。下着をおろす。血色のいいペニスがにおいとともに現れた。牡のにおい。不潔な、動物のにおいだ。
おれは目を閉じ、それを口に入れた。内臓を犯されるようだった。男のにおいがからだを侵していく。
おれは怪物を口にふくみ、舌でなめずり、唇で押し引きした。
ポルノ女優のようにやればいい。おれはポルノ女優だ。セクシーなプレイメイトだ。
男の腰にへばりつき、顎をつかう。汚れた唾液を飲み下すと、強い酒にあたったように腰がくだけた。
(ああ――)
「なんて顔をするんだ」
大きな手のひらが頬をなでる。その声はうわずっていた。
おれは少し安心した。おれにも少しコントロールできることがあるらしい。
彼は誰かに言った。
「リモコン、どうした」
「フレデリカだ」
「呼んできてくれ」
主人らしき男が立つ。間もなく女の足音が入ってきた。
「あら、レイ。ごきげんね」
「いきなりやるなよ。噛まれたらたまらん。――嬢ちゃん、一度放すんだ」
男がおれの顔を股間から引き離した。とたんに尻のなかのものが跳ね回る。火をつけられ、おれは身をこわばらせた。
男の目が微笑んだ。
「よし。続きだ。噛むな」
喘いでいるおれの口にまたペニスが突きこまれる。息がつらく、舌を使うのがむずかしい。女客は振動を弱くしたり、強くしたりして遊んでいる。抑えられないペニスがはじけんばかりに張り詰め、気が遠くなりそうだった。
「よし。ごほうびをやろう」
男がおれの顔を引き剥がす。うしろをむけ、という。おれは膝をついたまま、あやつられるように後ろをむいた。スカートが突き上がったペニスにあたって眩みそうになる。
「床に這え。両手で尻を開くんだ」
屈辱的な命令だった。殴られたような気がした。
だが、おれはよたよたと頭を絨毯につけていた。自分の手で尻を開いた。おもちゃを入れた尻の穴がさらされる。
心臓が波打ち、体が振れた。人々の視線を痛いほど感じていた。無様な姿勢。おれは犯されるのを待って、自ら尻を手で開いていた。
「あっ」
いきなりローターのスイッチが入った。振動が蜜のように下腹をひたす。快楽が竜巻のようにわきおこる。おれは声をこらえきれなかった。尻をさらしたまま、喘ぎ、悶えた。
「……ア――はアッ――」
おれは腰を振っていた。恥辱と淫らな歓喜に脳がしびれた。おれは自分の痴態に怯えながら、恍惚としてわなないた。
女が含みわらった。
「メアリ。おまえはなんだったかしら」
「――わ、わたしは、牝犬です」
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