ディオニュシア祭 第12話

五日目。


 陽が高くなっているのがわかった。ずいぶん遅い。主人はおれを寝かせていたようだった。

 主人の情けがありがたかった。おれはしばらく頭をあげることもできなかった。

 昨日、ふたりの男に四度も尻と口を襲われた。よかったのははじめの一回だけだ。彼らは泣いているおれの口をペニスでふさぎ、息もさせず、突いて来た。

 おれは激しく泣きじゃくっていた。精液で顔を汚され、ペニスをしばられ、苦痛と興奮で少しおかしくなっていた。ママとさえ、叫んでいた。

「メアリ。起きているかい」

 主人の声が入ってきた。彼は毛布をはぎ、おれの頬と首に触れた。

「熱はないな。少しさっぱりしよう」

 彼はいつものようにおれを洗った。おれはぼんやりなされるがままに立っていた。

 この時間が一番やすらぐ。幼児のように洗われるこの時間が、一番好きになっていた。




 あの恐ろしい客たちは昨日、帰っていた。

 おれは息をついた。からだが少し参っている。尻の穴も痛かった。今日はもう何もいたずらされたくない。

 さいわい、ロジェもサイモンもこの日はあまりかまってこなかった。料理人が例によって内股に手をいれてきたが、それくらいはもうどうということもない。

 だが、夕暮れ、ついに主人に叱られた。

「その置き方はなんだ」

 ティーポットを置く時、テーブルに当たって音がたった。はずみで紅茶がテーブルクロスに落ちた。

「申し訳ありません、ご主人様」

「少し甘い顔をすればつけあがる」

 ちがいます、と心から言った。ぼくが主人と認めるのはあなただけです。あなたを崇拝しているんです。

「心は動きに出る。おまえはたるんでいる。ここへ来い」

 主人は椅子を引き、ひざを示した。おれは立ちすくんだ。痛い思いをしたのは四日前だ。

「お許しください。お許しください。ご主人さま」

「来い、と言わなかったか」

 彼は立ち上がり、おれの髪をつかんでひっぱった。座りざま、おれをひざに引き倒す。手荒く下着をはぎとる。

 おれは腹を打ちつけ、喘いだ。かすれた声で助けを乞う。

「お許しください。きちんとします。叩かないで。おねがいです」

「手を頭の後ろに組め」

「いやだ! おねがいです。ご主人様」

 主人はおれの両腕を取り、簡単にまとめて何かで縛った。おれは恐慌を起こしそうになった。「ご主人様、助けて。許してください」

 重い手のひらが尻を打つ。尻が燃え、からだが弾みそうになる。また打つ。皮膚が剥かれたように痛む。おれは歯をくいしばった。わめけばそれだけ早く気力を消耗する気がした。

 だが、打撃は骨に響き渡り、尻はただれ痛む。自分が斧で突き崩されていく。

 叩いている男は別人のようだった。おれの主人でもなんでもなく、怒りにかられた別の男。おれを憎悪している。

 耐え切れず、おれは泣きわめいた。こわかった。痛みより、主人を失うのが恐かった。このわけのわからない世界に置き去りにされる!




「まだ泣いているのか」

 夕食時、おれは主人に料理の皿を運んでいた。声をこらえていたが、洟をすすった音が聞こえてしまった。

 主人は面倒そうに言った。

「いつまでもグズグズ泣くな。また吊るされたいのか」

 おれはすすりあげ、立ち去ろうとした。だが、嗚咽がもれ、からだが震えてしまった。

 メアリ、とうんざりしたような声が言う。

「来なさい」

 そばに行くと主人はおれをつかんで引き寄せた。その膝の上に座らせる。腕におれのからだを抱きかかえてのぞきこんだ。ヘイゼルの目は少し疲れておだやかだった。

「何、泣いているんだ。お嬢ちゃん」

 わかりません、と言おうとした。だが、しゃくりあげてしまい、また悲しみがわきあがった。おれは手で目を覆った。

「尻が痛いのか」

 おれはわずかにかぶりをふった。主人はおれの顔から手をはずした。彼の手は暖かくやさしかった。

「おまえは腹が減っているんだよ」

 彼は手を皿に伸ばすと、片手で器用にラザニアを切り分けた。フォークに突き刺し、おれの口元に運ぶ。

「お食べ」

 おれはされるがままに、パスタを食べた。主人がナプキンでおれの唇と顎をぬぐう。またフォークを使い、ラザニアを切り分ける。

「ルールだ」

 パスタの層にフォークを刺しながら、彼はおだやかに言う。「服従することがルールのすべてだ。心からの服従だ。いやいや従っている姿は不愉快だ」

「ぼくは従っています」

「そうかな。おれにはおまえが夏休み、無理やり家の手伝いをさせられている子どもに見える」

 彼はまたおれの口にラザニアをつっこんだ。ヘイゼルの目は母性的に見えるほどやさしい。

「尻が痛いぐらいでなんだ」

 また熱い涙が湧いた。

「よくしつけられたアラブの馬はどれだけ渇いていても、主人が与えるまで水を飲まない。おまえは馬以下だよ」

「――申し訳ありません。ご主人さま」

 おれはバカな子どものように泣きじゃくった。自分でもどうして泣けてしまうのかよくわからない。たった五日前まで目から水が出ることなど忘れていた。おれは本格的におかしくなってしまったのか。

「申し訳ありません。申し訳ありません」

 後悔に泣きながら、一方甘いものがからだをひたす。おれは自分より軽い男の膝に体重を預け、洟を垂らして泣いていた。手放しでこの男によりかかっていた。



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