五日目。
陽が高くなっているのがわかった。ずいぶん遅い。主人はおれを寝かせていたようだった。
主人の情けがありがたかった。おれはしばらく頭をあげることもできなかった。
昨日、ふたりの男に四度も尻と口を襲われた。よかったのははじめの一回だけだ。彼らは泣いているおれの口をペニスでふさぎ、息もさせず、突いて来た。
おれは激しく泣きじゃくっていた。精液で顔を汚され、ペニスをしばられ、苦痛と興奮で少しおかしくなっていた。ママとさえ、叫んでいた。
「メアリ。起きているかい」
主人の声が入ってきた。彼は毛布をはぎ、おれの頬と首に触れた。
「熱はないな。少しさっぱりしよう」
彼はいつものようにおれを洗った。おれはぼんやりなされるがままに立っていた。
この時間が一番やすらぐ。幼児のように洗われるこの時間が、一番好きになっていた。
あの恐ろしい客たちは昨日、帰っていた。
おれは息をついた。からだが少し参っている。尻の穴も痛かった。今日はもう何もいたずらされたくない。
さいわい、ロジェもサイモンもこの日はあまりかまってこなかった。料理人が例によって内股に手をいれてきたが、それくらいはもうどうということもない。
だが、夕暮れ、ついに主人に叱られた。
「その置き方はなんだ」
ティーポットを置く時、テーブルに当たって音がたった。はずみで紅茶がテーブルクロスに落ちた。
「申し訳ありません、ご主人様」
「少し甘い顔をすればつけあがる」
ちがいます、と心から言った。ぼくが主人と認めるのはあなただけです。あなたを崇拝しているんです。
「心は動きに出る。おまえはたるんでいる。ここへ来い」
主人は椅子を引き、ひざを示した。おれは立ちすくんだ。痛い思いをしたのは四日前だ。
「お許しください。お許しください。ご主人さま」
「来い、と言わなかったか」
彼は立ち上がり、おれの髪をつかんでひっぱった。座りざま、おれをひざに引き倒す。手荒く下着をはぎとる。
おれは腹を打ちつけ、喘いだ。かすれた声で助けを乞う。
「お許しください。きちんとします。叩かないで。おねがいです」
「手を頭の後ろに組め」
「いやだ! おねがいです。ご主人様」
主人はおれの両腕を取り、簡単にまとめて何かで縛った。おれは恐慌を起こしそうになった。「ご主人様、助けて。許してください」
重い手のひらが尻を打つ。尻が燃え、からだが弾みそうになる。また打つ。皮膚が剥かれたように痛む。おれは歯をくいしばった。わめけばそれだけ早く気力を消耗する気がした。
だが、打撃は骨に響き渡り、尻はただれ痛む。自分が斧で突き崩されていく。
叩いている男は別人のようだった。おれの主人でもなんでもなく、怒りにかられた別の男。おれを憎悪している。
耐え切れず、おれは泣きわめいた。こわかった。痛みより、主人を失うのが恐かった。このわけのわからない世界に置き去りにされる!
「まだ泣いているのか」
夕食時、おれは主人に料理の皿を運んでいた。声をこらえていたが、洟をすすった音が聞こえてしまった。
主人は面倒そうに言った。
「いつまでもグズグズ泣くな。また吊るされたいのか」
おれはすすりあげ、立ち去ろうとした。だが、嗚咽がもれ、からだが震えてしまった。
メアリ、とうんざりしたような声が言う。
「来なさい」
そばに行くと主人はおれをつかんで引き寄せた。その膝の上に座らせる。腕におれのからだを抱きかかえてのぞきこんだ。ヘイゼルの目は少し疲れておだやかだった。
「何、泣いているんだ。お嬢ちゃん」
わかりません、と言おうとした。だが、しゃくりあげてしまい、また悲しみがわきあがった。おれは手で目を覆った。
「尻が痛いのか」
おれはわずかにかぶりをふった。主人はおれの顔から手をはずした。彼の手は暖かくやさしかった。
「おまえは腹が減っているんだよ」
彼は手を皿に伸ばすと、片手で器用にラザニアを切り分けた。フォークに突き刺し、おれの口元に運ぶ。
「お食べ」
おれはされるがままに、パスタを食べた。主人がナプキンでおれの唇と顎をぬぐう。またフォークを使い、ラザニアを切り分ける。
「ルールだ」
パスタの層にフォークを刺しながら、彼はおだやかに言う。「服従することがルールのすべてだ。心からの服従だ。いやいや従っている姿は不愉快だ」
「ぼくは従っています」
「そうかな。おれにはおまえが夏休み、無理やり家の手伝いをさせられている子どもに見える」
彼はまたおれの口にラザニアをつっこんだ。ヘイゼルの目は母性的に見えるほどやさしい。
「尻が痛いぐらいでなんだ」
また熱い涙が湧いた。
「よくしつけられたアラブの馬はどれだけ渇いていても、主人が与えるまで水を飲まない。おまえは馬以下だよ」
「――申し訳ありません。ご主人さま」
おれはバカな子どものように泣きじゃくった。自分でもどうして泣けてしまうのかよくわからない。たった五日前まで目から水が出ることなど忘れていた。おれは本格的におかしくなってしまったのか。
「申し訳ありません。申し訳ありません」
後悔に泣きながら、一方甘いものがからだをひたす。おれは自分より軽い男の膝に体重を預け、洟を垂らして泣いていた。手放しでこの男によりかかっていた。
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