リビングのカーペットはいつのまにか取り除けられていた。ソファ以外の調度は片づけられ、木の床が現れている。
そこに小さな木の台車があった。バーが花車のように片端に突き出ている。
「お嬢さんはその台に座りなさい」
イタリア人はジェレミーのからだに何かとりつけながら、おれに命じた。
おれは飲み物のトレイを持っていた。そのまま小さな台に座る。
「ふっ」
ジェレミーが呻いた。おれはまた息をつめてしまった。彼の両の乳首からは重そうなカウベルが下がり、睾丸からのピアスからも下がっている。しかも、ペニスの根にはリボンが巻かれ、射精できないようにされていた。アヌスもテープでふさがれている。
「もういいかね」
リビングにハーレー卿が入ってくる。主人とロジェとサイモンも続いた。彼らはソファにそれぞれ腰をおろした。
「飲み物の仕度はできましたよ」イタリア人はいい、リモコンをおれに差し出した。受けようとすると彼はリモコンを浮かせた。
「歯でくわえて。噛め」
噛んだとたん、悲鳴があがった。とたんにいくつかのベルの音がはげしく響く。
ジェレミーが身をふるわせてうずくまった。
「もう一度噛め」
噛むと、ジェレミーが激しく喘いだ。おれの髪の間から汗が流れ落ちた。
バイブのスイッチだ。彼の尻のテープにとんでもない大きさの円が浮かびあがっている。マグカップほどあるのではないか。
「さあ、ジェレミー。車を引くんだ」
イタリア人はジェレミーの困憊ぶりなど意に介さず、ジェレミーに車の取っ手をくわえさせた。おれを乗せたまま車を引かせる気らしい。その上、彼もおれの後ろに乗った。
「さあ、みなさんにシャンパンをサーブしよう」
「ルビー、次の品評会はどうする。いい犬はいるのか」
「いくつか考えてはいますがね」
「おれもこの子を出したかったんだが、まだ間に合いそうにない」
「あのケリーって子はどうしたんです」
「あの子は休暇がとれなさそうだ。ストックホルムで何か会議があるらしい」
「アントニーノ。衣装を切るのはいいが、全部脱がすのは禁止だ」
「こだわるな。この子は気にしちゃいない」
「メアリ。酒だ」
ロジェが空のグラスを掲げる。
おれは眩みかけながら、うなづいた。背後にイタリア人が貼りつき、首元に口づけている。背のボタンを開け、胸元に手を入れて乳首をなぶっている。片方の手は睾丸とペニスを愛撫していた。
おれはジェレミーを見た。彼はへたばって動こうとしない。その傷だらけの太ももがかすかに痙攣していた。
「メアリ。聞こえないのか」
やむなく、スイッチを噛んで押した。ジェレミーが叫んでのけぞる。すぐスイッチを切ったが、彼はバーをくわえたまま泣きじゃくっていた。
耳元からアントニーノが叱った。
「遅い。表に放り出されたいのか」
ジェレミーは泣きながらバーをくわえ、重い台車を引いた。
動きやすい車だったが、重い男がふたりも乗っている。それにすでに部屋を何周もさせられ、彼の手足はひきつりかかっていた。
ようやくロジェの前に台車がつく。おれはトレイを差し出した。
「ずいぶん機嫌よさそうだな、先生」
彼はグラスをとり、おれのスカートをまくりあげた。勃起してアントニーノの手を濡らしているペニスが現れる。
「だが、下の口がさびしそうだ。おまえにもこいつと同じものをいれてやろうか」
無理だ、と言おうとしてスイッチを入れてしまった。ジェレミーが跳ね跳ぶ。ベルがガラガラ鳴り、彼は泣き喚いた。あわてて噛みなおす。
ロジェはゲラゲラ笑った。彼はジェレミーの頭を撫で、顎をあげて口づけた。
「あとでもっと泣かせてやる。行け。ご主人が呼んでいる」
台車から解放され、イタリア人がジェレミーのペニスからリボンをほどいた。
「あ、くそっ」
床にみるみる水溜りが広がる。彼は自制をうしなって失禁してしまっていた。
「なんて子だ。よその家で」
叱られ、ジェレミーがおそるおそる主人を見る。主人は鼻を鳴らした。
「ルビー、この子に罰を与えてくれるかね」
「いいですよ。この犬の鳴き声はかわいい」
主人はアントニーノから鞭を受け取ると両手で軽くしならせた。
「おれはもっと長いほうが好きだね。骨に響く」
「それは特別用のご褒美にしてあるんだ」
「今はまだ特別じゃないのか」
ジェレミーは鞭を見て、幼な子のようにふるえた。おれに目で哀願する。
(彼を止めてくれ。もうダメだ。限界だ)
だが、おれに何が言えよう。
主人はジェレミーのわき腹を足でつき、背中をあげるようにうながした。ジェレミーはすすりあげながら、尻をあげ、肘をのばした。カウベルの音がガラガラ鳴る。
鞭の音が空を裂いた。皮膚に弾ける音。絶叫。皮膚がしなり、ベルがふぞろいの音をたてる。
悲惨な景色だ。痩せた男が首輪をつけらえ、鞭打たれ、乳首からぶら下げたベルを鳴らしている。悲痛な泣き声と対照的な主人の冷かな横顔。
だが、おれは先のように人道的な怒りに燃えてはいなかった。別の衝動に困惑していた。
おれは主人の強さに魅入られていた。彼の鞭は怒りではない。遊びなのだ。荒々しい愛撫だった。打たれるのがおれでありたかった。ジェレミーに嫉妬していた。
ジェレミーはしだいに声を出せなくなり、くずおれ、失神した。
おれは彼が陶酔して果てたようにしか思えなかった。事実、彼は打たれながら射精していた。庭に引きずり出された後、床の上に白いものがなすられていた。
「シャンパンが足りないな」
ハーレー卿が主人を見た。「車を引く犬はいなくなってしまったが」
主人はおれを見やった。ヘイゼルの目を見て、おれはからだにこまかな震えが走るのを感じた。恐怖だけではない。あわい期待と罪悪感が背筋を走る。
「メアリ、おいで」
声はやわらかかった。おれは糸でひかれるように近づいた。
「四つん這いになって」
ひざと手をつく。彼の手がいつものように靴下留めをはずす。パンティをおろされる。
おれは小さくため息をついた。視線だけで感じてしまいそうだった。ぬるいものがアヌスに触れる。ゼリーが塗りこめられ、筋肉をほぐした。
羞恥心が消え去ったわけではない。ロジェの黒い目の嘲笑。ハーレー卿のきれいな薄い顔。好奇の目。
なにより、アントニーノのはっきりと熱をおびた目が肌に刺さる。
だが、主人を独占できておれはうれしかった。恥ずかしさも、主人の手にかかればエロスの道具でしかない。
指がアヌスをこねていく。ふたつ、そして三本の指がアヌスをほどいていった。
先にハーレー卿にいじられた時よりも自分がやわらかくなっているのがわかる。主人の指なら手首まで吸い込んでしまいたいほどだ。
「サイモン」
主人が道具をとってくるよう命じた。サイモンはレザーの箱を手に戻った。あけると大きさもそれぞれのバイブが入っていた。主人はぶどうの房を筒状に固めたようないびつなバイブをとった。
「自分で抜くなよ。脱腸するぞ」
主人は言い、おれの尻にあてがった。
「あっ――」
大きすぎる。見た目ではわからない。からだに入ると、一昨日詰め込まれたローターとは比べ物にならないぐらい尻をおしひろげている。からだが割られそうだ。
「力をぬけ」
主人がやさしく腹をなでる。「スイッチをいれる」
おれは反射的にネコのように背を丸めた。重々しい振動がはらわたをゆるがせる。おれは口をあけ、空気を求めた。無粋な振動は無理やりシステムに点火している。下腹から快楽の糸が背骨にからみついていく。
(だめです。――だめです。耐えられない。ご主人さま)
「背を丸めるな」
主人はおれの背に何かを乗せた。「シャンパンをこぼすな。おれを失望させるなよ」
おれはふるえに耐えた。その言葉は、罰をくらうより身にこたえた。
ハーレー卿が身を乗り出す。
「それを口に」
箱のなかのバイブを指差す。サイモンが取り上げた時、おれは目をうたがった。こんなものが尻にはまるやつがいるのか。
サイモンはおれの口にそれをつっこんだ。口がいっぱいになる。スイッチが入ると咽喉をえぐって暴れた。
「さあ、お客様がおまちかねだ」
サイモンが歩けと促す。目の前が揺れるようだった。口の中のものは身をよじってあばれ、尻にはめいいっぱい硬いものが挟まって振動している。動こうとすれば、また別の場所をえぐり、頭のどこかで小爆発が起こるようだった。
「遅い」
主人の声が低くなった。おれはもたもた手足を動かした。背でガラスが触れて音がたつ。倒れる音がする。
(申し訳ありません。ご主人さま――)
おれは腹のなかのものを無視して、背を平らにしようとした。口と尻を突き刺されていながら、テーブルの仕事をするのは気が遠くなるほどむずかしい。
「ようやく来たか。待ちくたびれたよ」
紳士はそれでも手の甲でおれの頬を撫でた。「うちの悪い子ならピアスを引っ張ってやるところだ」
ふとガラス越しに白いものを見た。ガラスにジェレミーが貼りついていた。爪でかき、哀しげな目で中へ入れてと訴えていた。
「お嬢さん。こっちにもシャンパンを」
アントニーノが呼ぶ。おれはジェレミーを無視して、ゆっくり転回し、彼の元へ近づいた。
肺が苦しい。息が足りないのに口はふさがり、化け物に蹂躙されている。尻の振動がにわかに激しくなり、腹が痙攣する。疲れと快楽の蜜のような重さに足がうまく動かない。
だが、無視されるよりはいい。雨の日、おれもつらかった。無視され、野外に打ち捨てられているのが一番過酷な罰かもしれない。
おれは口と尻を異物に犯されながら、飲み物を乗せて回った。キスされ、つねられ、だが、触れてほしいところには触れられず、狂おしい思いで男たちの足元をめぐった。
気に入りの膝のそばへ行くと、頬をすりつけたくなった。
(ぼくのご主人さま。ぼくを見てください。こんな淫らな格好をさせられているぼくを)
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